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第8話 これが私のハッピーエンド


アルフレッドのエナドリは強烈だった。


目がぱっちりする。

充血したままだけれど、痛みを感じない。

頭もどくどく脈打っているけれど平気。

体が羽のように軽かった。


「すごい、すごい、すごいっ」


小刻みに揺れる私を、アルフレッドとリネットが押さえつける。


「イリス、体を激しく動かすなっ」

「奥様、お体に障りますうっ」

「ごめん、むりっ」


私は震える指で、アルフレッドが摘んできてくれた、白無垢の花を引きちぎる。

デバッグツールを起動させ、ずたずたの断裂面から、銀色のコードを引っこ抜いた。

瞳孔が開きっぱなしなせいか、やけに銀色のキラキラが(まぶ)しい。


「きれいっ」

「その震える手でやれるのかイリスっ」

「へいきっ、私の指が震えていようとツールに問題ないわっ。取り込むから!」


私はデバッグツールを拡張して、指先だけでなく右腕の肘の辺りまで半透明にさせ、藍色に変色させた。

そのスペースに白無垢の花のソースコードを格納して、腕自体をデジタル工場(ファクトリー)にする。

これでどんなに揺れても大丈夫。


私は右手の五指を、掌に食い込ませるように握り込む。

自分の腕に解析コマンドを注入して仕分けし、余計な花のデータをビット単位でばらばらにした。

半透明の藍色の腕の中で、寸断されたコードが散らばっていく。


腕のカラーは別に何でも良くて、七色のゲーミング仕様にだってできるけれど、藍色にして良かった。

だってインディゴブルーの腕の中に、銀の粒子が広がって、星空みたいなんだもの。

テンションが上がる。


「とってもきれい!」

「おちつけイリスっ」

「奥様、ベッドで跳ねないで下さいっ」


ホッピングする視界の中で、私は幻覚を見る。

開き切った瞳孔が、私を光の国へいざなった。

何もかもがキラキラしている。


世界の色がシャボン玉の表面のように蠢いて、輪郭は歪んで、レインボーなゲーミングカラーになっていった。

とっても綺麗。とっても幸福。

今日はきっと、ハッピー・サイケデリック・ホリデーなんだわっ。


「ラヴ&ピース!」

「イリス落ち着けっ」

「奥様、ベッドから落ちないで下さいっ」

「ピース! ほーぷ! わかば!」


私がけものの森の「育成機能」をカリカリチューンして作り上げた、デジタル工場内の200ヘクタールの畑。

その畑から、2万倍の速度で育った野菜のお友達が、続々誕生した。


パイナップル、人参、ジャガイモ、アスパラガス。

茄子、セロリ、トマト、ブロッコリー。


畑の隣に裏山を生成して、そこから山の幸と、けもののお友達が降りてくる。


どんぐり、スギ花粉、ツタウルシ、紅テングタケ。

熊、鹿、野犬、スノーモンキー、おこじょ。


終わりのないハートフル。

育成シミュレーションゲームのお友達が勢揃い。

「シリアス? 何それおいしいの?」ってばかりに、FFF「デバッグモード」の領域に突進した。

私は、手に握り締めていた白無垢(しろむく)の花を振って応援する。


「いっけー!」

「どこへ行くイリスっ」

「奥様、そっちは壁ですうっ」


私の鼻に強烈な衝撃が走る。

でも痛くない。


「なんでこんな所に壁が!?」

「旦那様、解毒薬はっ」

「魔薬の効果が切れるのを待つしかないっ。とにかくベッドへっ」

「はいっ」


視界いっぱいに、あの女の顔が現れた。

今度はその顔に余裕はない。

苦悶の表情を浮かべ、私を(にら)みつけていた。


「でたな、アシュワース家の呪い!」

「落ち着け、俺だ!」

「奥様、旦那様を殴らないで!」


女に向かって、けものの森のお友達が群がっていく。

女は、けものの森のキャラたちを振り解けず、絶叫していた。

ははは、ざまあっ。

ハッピーホーリーフレイム!


私はロードなんとかの脆弱性を、けものの森で突く。

この世界の魔法大系は、FFFのゲームエンジンで回っていた。

その中で育ったロードなんちゃらは、魔法に対して、強力な耐性を獲得してほぼ無敵。

でもだからこそ、想定外のアプローチに弱い。


薬草の効果なんてザコすぎて、ロードくんはドン無視してただろ!

私はその盲点を突く。

魔法大系にまったくタッチしていない、植物育成に関与しているけものの森の「育成機能」。

私はそれで、シン・ホーリーフレイムを構築した。


これは、FFF系列のホーリーフレイムとは全くの別物。

FFF系の魔法耐性はあっても、けものの森系の魔法はどうかな?

耐えられるものなら、耐えてみろ!

アシュワース家の呪いに取り付いた、けものの森のお友達が、一斉に呪文を唱えた。


『あつまれ、ホーリーフレイム!』


爆発エフェクトをカットした超地味な攻撃だけど、中身で勝負。

5000オーバー×300000匹のお友達で、優に15憶オーバーのダメージが入る。

呪いの女が一瞬で浄発(じょうはつ)したそのとき、ゲーミングカラーのサイケデリックな世界が大きく歪んだ。


「あれ? 連鎖爆発のエフェクト、カットしきれなかったかな?」

「連鎖爆発!? イリス、お前は一体何をしているんだ!?」

「ああ奥様っ、どうか目を覚ましてくださいませえ!」


そして私は、歪む世界の中心で見る。

私の足元がガラスのように透過して、地下深くまで見通すことができた。

地下第5層、6層、7層、8層、第9層。

何かがその奥底でうずくまっている。


それはFFF世界のモンスターを、幾つも掛け合わせたような姿をしていた。

FFFだけじゃない。

別のRPGで見たことのあるモンスターや、シューティングゲームで見たことのある宇宙獣も、その体の一部となっていた。

それは紛れもなく、この世界を象徴する「合成獣(キメラ)の王」だった。


その無数にある眼は全て閉じられており、眠っているようだ。

けれどその中の一つが私の視線に気づいたのか、ゆっくりと開いていく。

私は怖気振るい、体が硬直した。


見つめていたい誘惑もあった。

けれど絶対に目を合わせてはいけないっ。

私の全細胞がそう叫ぶ。


私は強く目を瞑り、大きく顔を背けた。

強張った首がごきりと鳴る。



「うわああああああっ!」

「イリス目を覚ませっ」

「奥様っ、目を開けて下さいっ」


「ひいいいっ。こっち見んな!」

「いいから俺を見ろ!」

「私も見てください奥様!」

「はうわっ」


私はアルフレッドと目が合って、彼にしがみついた。

何があったと問われても、イヤイヤと首を振るだけ。


とにかく今は、話して聞かせるって言う気分じゃない。

頭の中から、一刻も早く消し去りたいから。

あの目の記憶をっ。

まだあの目に見られている気がして、私はアルフレッドの胸でイヤイヤした。


その後なんだけれど、魔薬の効き目が切れてぐったりしている私に、アルフレッドが恐る恐る回復ポーションを掛け回してくれたの。

そうしたら私の頬っぺたが桜色になって、すっかり元気になった。


「イリスっ」

「奥様のほっぺが、まあ、つやつやとっ」


私が呪いは消えたよって言ったとき、ふたりは半信半疑だった。

そうなんだけど、ポーションで元気になった私を見て、そこで初めて実感が湧いたみたい。

ポカンとしてた。


大喜びとかするんじゃなくて、ポカンとするんだよ。

そういうものかなって思った。

3日間くらい、屋敷の使用人たちも含めてポカンとしていた。

例えは悪いけれど、300年監禁されていた人が解放されて外に出たとき、きっとこんな感じになるんだろうなあ。


そんな事を思う私は、夜怖くてひとりでは寝れなくなった。

まぶたを閉じると、ロードオブキメラの開きかけた目を思い出しちゃうから。

そうアルフレッドに訴えると、アルフレッドが一緒に寝てくれた。


夫婦なんだから照れる事なんかないんだけど、まあ初めての夜は照れまくったなあ。

と言うことで、今はずっと一緒のベッドに寝てます。



――エピローグ


「奥さま~っ」


先を歩いていたメイドのリネットが、嬉しそうに手を振ってくる。

今日は使用人も含め、みんなでピクニック。

と言っても、屋敷の庭なんだけれどね。


ムダに庭が広いから(八王子より広い)、充分に旅行気分が味わえる。

ちょっと歩くと、アルフレッドが野原の草が気になってしゃがみ込むから、私が追い立て役をしていた。


「ほら、アルフ立って」

「見てくれイリスこのロゼット、葉先が赤く割れている。これは綿毛菊(わたげぎく)星咲草(ほしざきそう)の交雑種かもしれない」

「はいはい、帰りに持って帰りましょ」


私はん~っと背伸びをして、後ろを振り返った。

視線の先には、アシュワース家の屋敷が小さく見えて、陽に照らされて屋根が白っぽく輝いていた。


アシュワース家の呪いに対峙したとき、私はデバッグに自信があった。

だからコイツを倒したら、次は屋敷の地下に眠る本体! 

とか思っていたけれど、まあとんでもないよね。


キメラの王を見て、そんな気分は吹き飛んだもの。

よくもまあ大昔に、アレを139人だけで封印したもんだなと思う。

昔の人はすごいよっ。


アレを討伐だなんて冗談じゃない。

大人しく寝ているんだから、そのままで良いでしょ?


アシュワース家の呪いは解けた。

もうそれだけで充分。

アルフレッドの手を取り、こうやって野原を歩けるだけで幸せだもの。


なので私はこうしてアルフレッドと一緒に、この地でロードオブキメラの墓守でもして、生きて行こうと思うのです。

それが私とアルフレッドのハッピーエンド。


「ね、アルフ♪」

「ん?」


小首を傾げるアルフレッドが、大型犬みたいで可愛かった。










面白いと思って頂けたら嬉しいです。

そしてご感想、ブックマーク、下の☆で評価して頂けたら嬉しすぎて作者が泣きます。

よろしくお願いいたします。

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