表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/8

第6話 夫がお姫様だっこをしてきます


「まあ奥様っ、ご容態に何か!?」

「リネットさん、えっと、その、これは別にっ」


私はしどろもどろになって、顔を赤くする。

薬草園に連れてってとは言ったけれど、どうやって行くかまでは考えてなかった。

私は今、白昼堂々とアルフレッドにお姫様だっこされていた。

アルフレッドお願いやめてっ。


アルフレッドは私を抱いて、大股でつかつかと廊下を歩き、リネットがハタキを手に持ったまま付いてきた。

リネットだけじゃない。

屋敷内の使用人たちが、みんな振り返り驚いている。

誰もが私の体を気遣ってくれて、中には私とアルフレッドが仲良くしていると、目を潤ます者もいた。


「あのアルフレッド、この運び方はちょっと……」

「では、どう運ぶのだ」

「えっと戸板に乗せるとか、カゴとか……」

「なんだそれは?」


階段を降りて中庭をつっきり、また建物に入ってまた出たら、そこは裏庭にある薬草園だった。

軽く木の柵があるだけで、凝った(ゲート)なんてものはない。

何も知らなければ、ただ草ぼーぼーの野原にしか見えなかった。


「回復魔法は、FFFのソースコードで動いている。

薬膳粥もそうだった。

それならお粥だって、呪いに効かないはず。

でも実際にはちょっと効く。

それはなぜ?

あのね、コーヒーはミルクと砂糖を入れると、カフェオレになるんだよ」


「イリスは何を言っている?」

「アルフレッドごめんなさい、頭の中を整理したくて。私が変なこと言っても気にしないで」

「むうっ」


「私の中でコーヒーとカフェオレは、もう別の存在なの。

ねえこの関係って、薬草と薬膳粥にも言えるんじゃないかな?」


「言ってる意味が全く分からない……いや続けてくれ」

「私はそれを確かめるために、ここへ来たのっ」


つまり色々と混じったお粥と、素材のままの薬草は別カテゴリーなのでは?

私はそう思った。

魔法のシーケンスは、FFFのソースコードを流用している。

たぶん調理のシーケンスもそう。

けれど生のままの薬草は?

薬草だけは、別のソースコードで存在しているのではないか?


別のソースコードだからこそ、FFFのソースコードに干渉されず、呪いに対抗できたんじゃ?

ただそれをFFFの調理シーケンスで加工してしまうから、効き目がちょっとだった。

私はそう考えた。


私は薬草へ向かって手を伸ばす。

するとアルフレッドが、顔を寄せて(ささや)いた。


「注意しろ、ここにあるのは全て毒草だ」

「毒なの!?」

「毒を薄めて、様々なものと配合し、それでやっと薬効が得られる」

「そうか毒なんだ、生のままじゃ使えない……」


アルフレッドが採集し易いように、私を抱いたまましゃがんでくれる。

私はどれでも良いから、一本摘み取った。

それは白い可憐な花だった。

これが毒草なんて信じられない。


「かわいい」

白無垢(しろむく)と言う花だ。生のまま(かじ)れば胃に穴が開く。先ほど食べた粥にも入れてある」

「うっわ」


私はちょっと引き気味になりながらも、白無垢の花を見つめ、右手のデバッグツールを起動させた。

藍色の指先が、白無垢の切断面からソースコードを引き出し、コードの解析と仕分けを行う。


「う~ん、コードを見ただけじゃ分かんない」

「そうなのか」


アルフレッドは分からないながらも、相槌(あいづち)を打ってくれる。


「ちょっと待ってね。コードをオブジェクト化して、元のテクスチャを復元してみる。

ねえ、しゃがんだまま抱いているのキツくない? 降ろしていいわ」

「いや、このままでいい」


私がコードを組み直していると、アルフレッドが手元を覗く。


「俺には見えないが、そこに魔法の妖精がたくさんいるのだろう?」

「うん」

「イリス、お前は本当に変ってる」

「ん?」


「イリスの使う魔法を指して、言っているんじゃない。

普通なら、己の境遇を嘆き悲しむだろうに。

だがイリス、お前は逆に立ち上がろうとする。

留まるのではなく、前に踏み出そうとする。

俺には、そんなお前がとても眩しい」


「なになになに!?」


いきなり褒められて私の血圧が上がった。

あ、手元が狂った。

+(プラス)』さんを沢山、『&(アンパサンド)』くんにくっつけてしまった。


「イリス、俺はお前を愛している」

「は!」


私は誤作動で、薬指からホーリーフレイムを放ってしまう。

組み上がったコマンドに、5000オーバーのダメージが入った。


「ちょっといきなり何を言い出すの!?」

「だめだったか?」


「だ、だめじゃないっ。だめじゃないけどっ、いきなりだったからっ」

「そうか、すまない」


なんなのこの人!?

どういうタイミングで言ってんの!?

薬草の研究ばっかしてきたから、そこら辺の感覚バカになってんの!?

学者バカなの!?

私はコマンドを組み直しながら、口を尖らす。


「……あ、謝ることなんてないわっ。謝るなら私の方こそ謝らなきゃ」

「イリスが俺に?」


「ほら、その……私初めての夜に、椅子で殴っちゃったでしょ? あの時はごめんなさい」

「いや、あれは俺が悪い」

「そんなことない。だってアルフレッドは、私を守りたくてそう言ったんでしょう?」

「だが、イリスの心を傷つけたのは事実だ」


あーもうっ、何で解析中にこんな話をしてんの!?


「イリスすまな――」


私はアルフレッドが言い切る前に、人差し指を彼の唇にあてがう。


「じゃあ謝る代わりに、私に感謝して。

私もアルフレッドが、私のことすっごく大事にしてくれるの分かって、感謝しているんだもの。

私絶対、アシュワース家の呪いを解いてみせるから。

だから私に感謝して。

私をこれからも大切にして」


「イリス……」


アルフレッドが私の名を噛みしめるように呼び、じっと見つめてくる。

あ、分かっちゃった。

これ私にキスするつもりだ。


と言うか、私からそう仕向けた気がする。

アルフレッドがほんの少し小首を傾げて、少しだけ距離を縮める。

目と目の合図。


ちらっとアルフレッドの唇を見て、私はまた目を合わせる。

それを繰り返し、アルフレッドとの距離が縮まって――

私はアルフレッドを受け入れるために、ちょっとだけ唇を開いた。


けれどその時、背後から「わー!」と歓声が上がる。

振り返ってみれば、リネットが目を潤ませてハタキを振っていた。


「あっ」


しまった! リネットどころじゃなく、使用人の皆が付いてきていた。

全員うるうるして、私たちに拍手を送っている。

ああ、そうだよね。

みんなアシュワース家の呪い、知っているんだものね。


でも違う、違うの! 

みんなからアルフレッドの背中で見えなかったと思うけど、じれじれプレイしてたから、まだしてないの!

まだキスしてないっ。

なのにもう旦那様と奥様が、ハッピーエンドみたいになってるー!

ちょっと待って、ちょっと待ってっ。


「イリスっ」

「アルフやり直す?」

「違うそうじゃない、イリスの掌に」

「おっ」


それは一辺が2センチほどの、草のテクスチャブロックだった。

リアル寄りではなくて、ディフォルメの効いたデザイン。

そのアニメちっくな草が、私の掌の上で、風も無いのに揺れていた。

私はその草のテクスチャに、思い切り見覚えがあった。


「これ、けものの森だー!」


私の調子っぱずれな叫びに、皆の拍手が止まる。


「イリス、それは一体」

「奥様けだものって!?」

「それは――ん?」


あれ? 頭がくらくらする。

アルフレッドとリネットの声が、ぼわんぼわんと(こも)るように聞こえ、周りが急に暗くなった。

それから私、気が遠くなった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ