第5話 夫がお粥をふーふーしてる
私は再び体調を崩した。
ここのところ微熱が続いている。
目を瞑ると、カゲロウのように立ち現れた、あの女の顔が浮かぶ。
多分アイツのせいだ。
あれから私への呪いが、一段階上がったように思えた。
これじゃ出産とかする前に、ヤバいっての。
くっそ、絶対に仕返ししてやる。
ベッドから起き上がるのも億劫なので、アルフレッドが付きっきりで看病をしてくれていた。
相変わらず、アルフレッドの薬膳粥は苦い。
それも飽きないよう、味に工夫を凝らしてくれているらしくて、色々な苦味が味わえた。
苦いなんて文句は言えない。
このアルフレッドのお粥のお陰で、私は微熱ていどですんでいるんだと思うから。
でもなあ、今回は意識不明の状態でもなく、ばっちりと起きているんですよ私。
なので、この夫にお世話されている状況が、とんでもなくくすぐったい。
アルフレッドは今、私の目の前で、匙にすくったお粥をふーふーしてくれていた。
相変わらずムスッとしているけれど、その顔の下にはアルフレッドの苦悩があると知った今は、可愛いと思えなくもないでもない。
冷ましたお粥を、そっと口元に運んでくれる。
私の小柄な背丈に合わせるため、大柄なアルフレッドが少し猫背になっていた。
そこら辺も可愛いと思えなくも、なくなくない。
くううっ、くすぐったい!
私はお粥を口に含んで、もぐもぐする。
「にがい……」
「我慢しろ、これでも食べやすい方だぞ」
「うん」
お粥を食べ終えて、アルフレッドが口直しに、ハチミツ入りの紅茶を差し出してくれる。
これもふーふーしてもらって、飲みやすい。
「あまい……」
「そうだろう」
「うん」
紅茶も飲み終えると、アルフレッドが私の背中に手を添えて、ゆっくりと横たわらせてくれた。
薬膳粥のお陰で、お腹がぽかぽかしていた。
その心地よさを感じながら、私はサイドテーブルの分厚くて大きい本へ目を向ける。
「アルフレッド、あれ取って」
「少し休んでからの方が、いいんじゃないか」
「ううん、大丈夫」
私は渡された本の表紙を、そっとなぞる。
その本は、アシュワース家の代々当主たちの、薬草学に関する研究成果がギュッと詰まった一冊だった。
こんな本が、あと20冊以上もあるらしい。
それだけで、アシュワース家当主たちの思いと悔しさが感じられた。
数ページめくったけれど、微熱のせいか文字に集中できない。
私は本を胸に抱き、目を瞑る。
「ん~、なんだかなあ。
あれからサンプルに色々コード(魔法)試してんのに、なんか効き目がないなあ。
耐性があんのかなあ、はあ~。
コードを深く探ろうとすると、トカゲの尻尾切りでクラッシュ(自壊)するし。
FFFにそんなのあったっけ……アプデ(独自進化)かあ、はふ~。
ねえ、どう思うアルフレッド」
「お前の独学の魔法は、独特すぎて意味が分からん。
クレアモント家の者は、皆そうなのか?」
「私の実家? うんまあそうねえ、うん」遠い目
実家なんて知らないし、私の実家は八王子だし。
私は空になった薬膳粥の器を見つめる。
「分かんないなあ。
回復魔法は効かないけど、薬草はちょっと効く。
そこが分からない」
私は微熱でぼうっとする。
どっちもただのデータじゃん。
そこに何の違いがあるの。
試しに薬膳粥のソースコードを調べたけれど、特に変ったところはなかった。
それなのに、どこがどうなって薬草が呪いにちょっと対抗できるのか。
う~ん。
身を起こし、器に残った汁を指に付けて舐めてみる。
「やっぱにがい……」
「ふ、お子さま舌だな」
あれ? 今アルフレッド笑わなかった?
いや笑ったよね、笑ったって! 初めて見た!
なんだかちょっと嬉しいぞ。
私は顔が赤くなるのを、しかめっ面で誤魔化す。
「あのね私、コーヒーのブラックは飲めるんだからね」
「こーひい?」
「そ、ミルクも砂糖も入れずに――ん?」
なんだ? 今何か引っかかった。
なんで私、コーヒーって言葉に心が騒ぐの?
コーヒーに、ミルクと砂糖を入れたらカフェオレになる。
そうカフェオレに……カフェオレ……
「あ!」
「どうした?」
私が急に大きな声を出すものだから、アルフレッドが小首を傾げる。
なんかそれが、おっきい犬が首を傾げるみたいで可愛かった。
いや、そうじゃなくて!
混ざりものと、混ざり気のないもの。
「アルフレッド、私を薬草園へ連れてって!」




