第6話 波乱の不協和音
中学生になってはじめての中間テストも無事に終わり、中学生活にすっかり慣れてきた頃のことだ。
放課後、バスケ部の練習に向かおうと廊下を歩いていると、突然、音楽の先生に声をかけられた。
「光太郎くん、来月の学校祭のステージ発表で3年生の先輩と合奏をしてもらえないかな?」
その言葉に、俺は驚きつつも、心が躍った。誰かと合奏なんて、めったにないチャンスだ。理人くんとのジュニアコンサート以来になる。
どんな先輩だろう? 期待に胸を膨らませていた俺に、先生はさらに続けた。
「あ、今ちょうど君の後ろにいるよ。紹介するね、3年生の麗音くんだよ。彼はチェロだけど、もしかしたら知っているかな?」
先生の言葉に振り返ると、そこに立っていたのは、チェリストの麗音先輩だった。
「うわ、マジかよ……」
思わず口から出かかった言葉を、俺は慌てて飲み込んだ。まさか、学校祭で一緒に演奏するのが、あの麗音先輩だなんて。
麗音先輩のことは、以前から知っていた。彼は去年、チェロのコンクールで全国大会1位になった、ちょっとした有名人だ。身長は俺より少し低い160cmくらいだろうか。ウェーブがかった長めの黒髪と、長いまつげ、切れ長の瞳が特徴的で、どこか憂いを帯びたその佇まいは、とても中学生とは思えないアンニュイな色気がある。まるでギリシャ神話の神々に愛された美少年みたいだ。中学生にして老若男女問わずファンが多いというのも頷ける。演奏中に先輩と目が合ったご婦人たちは、感動のあまり失神するという逸話まであるほどだ。
俺も麗音先輩の演奏は、以前コンクールで聴いていて、その実力は認めている。見た目からは想像できないくらいの迫力があるダイナミックな演奏をする。でも、コンクール会場の控室や学校生活でたまに見かける、少し高慢な態度が正直鼻につくことがあったんだ。
「ふぅん。君が共演者?」
その声は涼やかで、感情が読み取れない。けれど、表情は明らかに俺のことを馬鹿にしているように見えた。俺はカチンときた。
「ええ、そうですが? 何か不満でもありますか?」
「別に。ただ、もう少し期待できる相手かと思っただけだよ。」
麗音先輩は俺を一瞥すると、フイと顔をそむけた。
そして顔をそむけたまま、口元を歪める。
俺の頭に血が上った。
「なんだと!」
音楽の先生が慌てて割って入るまで、俺と麗音先輩の間には火花が散りまくっていた。
顔合わせから最悪の雰囲気だ。