閑話 とある新聞記者の語り
私は某新聞社の文化部で音楽・舞台といった芸術分野を主に取材している記者。
取材のために行ったY市の文化ホールで開かれたクラシックのジュニアコンサート、あれは本当に「当たり」だったな。特に、バッハの『二つのバイオリンのための協奏曲』を聴かせてくれた、理人くんと光太郎くんの演奏……これはもう、語り草になるレベルだろう。
彼らがステージに現れた瞬間から、会場の空気が明らかに変わった。まず理人くん。小学校6年生だけどすらっと背が高くて、陽光を宿したみたいな茶色の髪と大きな瞳。まるで絵画から抜け出てきたみたいで、演奏を聴く前に、もう視線が釘付けになった。その隣に立つ光太郎くんも、彼に引けを取らない輝きがあった。サラッとした黒髪が涼しげな顔立ちを引き締めてて、バスケットボールで鍛えられたというしなやかな身体つきが、音楽以外の情熱も感じさせたね。なんで彼がバスケをしてることを知ってるかって?興味深すぎてパンフレットのプロフィール欄、隅々まで読んじゃったよ。このコンサートの主催者、絶対狙って二人を並べたなと思ったよ。
演奏が始まったら、もう引き込まれる一方だった。理人くんのヴァイオリンは、繊細なんだけど、どこまでも伸びやかで、まるで歌い上げるみたいな優しさに満ちてる。彼の卓越したテクニックと音楽性が、聴く人の心を揺さぶるんだろうな。さすが全国1位をとっただけある。そして、特筆すべきは光太郎くんのヴァイオリンだ。彼の音は理人くんとは違って、力強さと情熱がすごかった。粗削りで勢い任せなところもあったけど、バスケで培った集中力と身体性が、そのまま音に乗ってるみたいな、鮮やかで生命力あふれる魅力的な響き。二つの異なる個性が、バッハの協奏曲の中で見事に溶け合って、高め合ってるんだ。まるで、二人が音楽を通して対話してるみたいなね。
第三楽章の最後の音がホールに吸い込まれていく一瞬の静寂、その後に続いたのは、文字通り割れんばかりの拍手だった。彼らの演奏がどれだけ観客の心を掴んだか、あれが全てを物語っていたよ。演奏後、満面の笑みで顔を見合わせる二人の姿は、このコンサートで得た確かな手応えと、お互いへの深い敬意に満ちていたね。
演奏後のインタビューでは、彼らが「友達であり、ライバル」だって語ってくれたよ。このジュニアコンサートは、間違いなく彼らの輝かしい音楽人生の、新たな始まりを告げる舞台になったに違いないと思うよ。
(…いやあ、参ったな。仕事で来たはずなのに、すっかり彼らの演奏に釘付けになってしまった。二人があまりにも素晴らしすぎて、この興奮をそのまま記事にしたら、個人的な感想ばかりになってしまう。プロとしては、他の出演者のことにも触れなきゃいけないし、客観的な視点も必要だ。これは、記事には出来ないな。この感動は胸にしまっておこう。これから、彼らがどんなふうに成長していくのか、本当に楽しみだ。私個人としては、これからもこの二人を追いかけていきたいね。)