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第1話 序奏

 体育館に響く色んな音が心地良い。バスケットボールが「ダン、ダン」って弾む音、シューズと床が「キュッ、キュッ」って摩擦する音、そして仲間の声。


 僕は光太郎。小学校5年生。

 今、一番夢中になっているのはバスケットボールだ。小4の時に友達に誘われたことがきっかけでミニバスのチームに入って1年が経つ。ドリブルやシュートの練習をしたり、友達とミニゲームをしたりするのが最高に楽しい。バスケをやってる時は、時間があっという間だ。練習はきつい時もあるけど、ボールがリングを通る「スパッ」って音がするたびに、たまらなく嬉しくなるんだ。5年生で唯一のスターティングメンバーに選ばれた時の興奮は、今でも胸に熱く残っている。


 実は僕にはもう一つ、バイオリンという特技がある。


 クラスメートには「バスケとバイオリンって意外。」ってよく言われる。たしかに僕もなんでバイオリンをやっているのかよくわからない。


 3歳から始めたバイオリン(母さんがそう言っているだけで、僕はいつから始めたのかはよく覚えていない)は、生活の一部と言っていいほど日常に溶け込んでいる。ご飯食べて、歯磨きして、バイオリンの練習をやるみたいな感じかな。だから練習は毎日続けているし(むしろやらないと歯磨きしていないみたいに気持ち悪い)、自分で言うのもあれだけど、けっこう上手らしく、幼稚園の頃から出ている地元のコンクールで毎年上位入賞している。


 それでも正直バスケの方がいいと思っている。5年生だけどスタメン入りして、この前の地区大会の決勝では僕が一番シュートを決めたしね(チームは負けちゃったけど)。学校の体育の授業でたまにバスケがあるけど、敵チームには僕より上手い人がいないからどんどん点を取れる。たまに「すげー!」とか「かっいい!」とか聞こえてきて、内心すごく嬉しい(顔に出したらかっこ悪いから表情変えないけど)。

 バスケと比べてバイオリンの方は学校で弾くことはないし、練習は一人だ。コンクールに出ても観客は家族くらいだし、ちょっと寂しくなる時もある。生活習慣だから全然いいんだけどね。まぁ、「やらされてる感」はある。

 だから今の僕にとっては、体育館のコートで仲間と汗だくになって、バスケの試合をするのが一番楽しい時間なのかなと思っている。


 そんな僕に転機が訪れたのは、住んでいるまちの文化ホールで開かれるジュニアコンサートに出られることになった時だ。ピアノやバイオリンを頑張っている子どもを応援するイベントで、僕はこれまでの上位入賞の実績を認めてもらって選ばれたって母さんから聞いた。

 コンクール以外に大きいホールでバイオリンを弾くのは初めてだから、なんだかわくわくする。


 ジュニアコンサートに出ることが決まってすぐに出演者向けの説明会があった。場所はコンサート会場にある貸し部屋の一室。長テーブルが2本ずつ何列か並んだ学校の教室より少し広いくらいの部屋に通され、決められた席に着席した。

 僕の隣の席には、1歳年上の理人りひとくんが座っていた。理人くんとは話したことはないけれど、毎年地元のコンクールで一緒になっていて、とても印象に残っていた。


 たった1歳しか変わらないのにすらっと背が高く、スポットライトの光が当たると茶色に輝く柔らかそうな髪をしていた。何よりも印象的なのは、その髪と同じ色の大きな瞳。絵に描いたような人だなと思った。

 コンクールで上手な人はたくさんいたけれど、彼の音を聞いていると、コンクールであることを忘れて、なんというか、音楽って美しいものなんだなと感じたことを覚えている。地元のコンクールでは当たり前のように優勝した。その後、母さんから彼が全国規模の有名な大会でも優勝していることを教えてもらって驚いたし、何か地元が同じ小学生として誇らしかった。その理人くんが今横に座っている。自分が場違いなようで緊張する。


 説明会では、年齢の小さい小学校1年生の出演者から演奏曲目が順番に発表された。 え?自由曲じゃないの?自分で選べないのはなんでだろう?コンクールの課題曲かよ。そういうものなのかな。僕は何を弾くのだろう。

 前のテーブルの子の発表が終わった。いよいよ自分の番かな。子ども相手だからか、なれなれしい感じの司会者が読み上げる。


 「小学校高学年の理人くん光太郎くんのお二人には、バッハの『二つのバイオリンのための協奏曲』第1楽章から第3楽章をお願いします!」

  

 え?おふたり?二つのバイオリン?・・・理人くんと二人で演奏するの!?


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