カエサルの魅力
晩餐は続く。カエサルは自分がなそうとしてい事の一部を腹心たちに共有していった。
「ガリアでの戦争はローマの北側の諸民族を抑えることである。その結果、ローマの統治が安定するだろう。その結果としてローマ全土にカエサルの功績とふるまいを知らしめることが出来る。つまり、実益を兼ねた宣伝戦なんだよ。」
カエサルを支える主要メンバーに笑いながら言うカエサルだったが、意図をしっかりと理解できたものは少なかった。
多くのものは、カエサルが言うのだから従っていた。
その年、ゲルマニアへの電撃的な侵攻を行ったカエサルは、ブリタンニアにも初上陸を果たす。
苦労した割に得たものが多かったとは言えない。それでも本人はすっきりしていた。
何より、ゲルマニアだけでなくブリタンニアでの冒険もガリア戦記に記述することもできた。
もともと冒険や知的好奇心が他人に比べて非常に高いカエサルである。若いころから様々な地方に行き、その地域の特性を調べ聞き楽しむことをしてきた。そのため、自分の知的好奇心が満たされるほどの発見は常にあるものではないと知っていた。
ブリタンニアに上陸して、町にたどり着いても、ガリアと同じ様式で、木の柱を立てて屋根は藁を敷き詰めるという簡素なものが多かった。町がガリア人たちの影響を強く受けていることを知り嬉しい半面、残念がってもいた。
それらを思い出しながら、カエサルと共にブリタンニアに行った者たちは自分たちの武勇と大洋の難しさを熱く説明する。地中海しか知らない者たちは興味深く話を聞いた。
晩餐を行っていた部屋の隣の隣で、酔いを冷ましていた小柄な知性に満ちた引き締まった顔を赤く染めたジジが炭酸水を口にする。
そこへ新しい奴隷の少女が静かに近づき話しかけた。
「カエサル様は興味を失ったからブリタンニアに留まらなかったのですか?」
若いガリア人の少女奴隷が好奇心を持って聞く。
「はっきりとカエサルは言わないけど、好奇心は失せつつあったね。新しい発見を楽しみにしていたんだろうね。もちろん国家ローマとしてどうすべきか、という話なんだろうけど、ゲルマニアのような扱いになるかも知れないね。」そういうと、理解した眼をして可愛く頷く。
「今のところは、だよね。」
少女の意見にジジは同意した。さらに問いかける。
「ゲルマニアのように?」
「ローマの属州や直轄地にはしない。もしローマと友好関係の築ける国家や部族が現れたらローマの友とする、というものだよ。」
「なぜ、ローマの領土にしないの?」
少女奴隷は自分の境遇を思い出して聞いてみた。貴族階級にあった彼女はカエサルとの約束を裏切りローマ軍を攻めたとして、生き残った全員が奴隷にさせられたのだ。
なぜ、自分たちは部族全員が奴隷にさせられて、ブリタンニアはそれを逃れられるのだろう。
賢い少女は実は理解していた。カエサルとの約束を破った自分たちの長が悪かったのだと。
頭では理解できても感情では咀嚼できない部分があったので聞いてみた。
「領土にするのはできるけど、海を越えたブリタンニアは管理が大変だろう?ガリアの北部でさえ安定していないのにローマから遠く離れた土地をローマの領土にするのは異民族の侵入を守ったりするのが大変なんだ。ついでにカエサルが進めてもローマには反カエサルである頭の固い者たちも多いからね。」
「それならガリアも攻めなければ良かったのではないですか?」
素直に疑問をなげかける。
ジジが、そうかもしれないね、と言ってくれた。
そこへ気持ち良く顔を赤くしたカエサルが入ってきて言った。
「私が攻めていったのではないよ。キリア。ガリアの多くの部族長がゲルマニアから自分たちを助けてほしい、と言ってきたんだよ。わかるかい?」
「分かります。でもそれならゲルマニアを倒すだけで良かったのではないでしょうか?」
「そうだね、ゲルマニアを倒してローマは去ることもできた。ガリアの部族長会議も同じことを考えたようだ。だが、一度や二度ゲルマニアを撃退したところで安心もできなかったんだ。」
カエサルは優しくキリアと呼ばれた少女の薄い金髪を撫でながら言った。
「私はガリア諸民族が安定してローマの隣人でいてほしかった。だが、ガリアは民族間でも争いを起こし続けている。ヘドゥイ族とオーベルニュ族などが互いを敵視していがみあっているだろう。そしてガリアで優位になるために一部の部族はゲルマニアや外部の勢力と手を結ぶこともあった。ガリアと言ってもたくさんの部族が自分たちの利益のために動いているるからね。」
「良い隣人になるにはガリアが統一されないと難しいのですね。」
「そうだね、ガリアは強力な力を持って制圧されたほうが良いのかもしれない。」
「それをカエサル様がされようとしているんですね。」
「そうだね。」
肯定した。
キリアはその返事にドキリとした。ガリア全土はこの男の下に下る。そう感じた。
頭を下げて動揺を隠しながら謝る。
「申し訳ございません、奴隷がこんなことまで質問してしまって。」
「いつでも疑問を持ったら聞いてきなさい。君の疑問に答えられなくなったら、それは私自身にも問題があるはずだからね。」
そういってキリアの光に美しく映える髪を撫でる。
少女は顔を赤くして、頭を下げた。
こうして、女ったらしはまた一人の少女からの信頼を勝ち得た。
忙しかったカエサルだが、キリアに限らず奴隷でもお金で雇用された者に関わらず、ローマ市民かガリア人やゲルマン人や他のどの民族の者であっても屋敷にいる間は話をすることを厭わなかった。
そのため、多くの屋敷で働くものたちはカエサルを理解しようと努め、理解できなくてもカエサルを信じ尊敬してくれるようになっていった。
人と話ながらカエサルはガリアを本格的にローマの統治下に含める方法をまとめはじめていた。
ガリアとひとくくりにすることは無理がある。新しいガリアは三つほどに切り分けて統治が望ましい。規模、交通の便、文化、関係性を考え細かく別れすぎないでいることを考えると現実的なところだと思った。
カエサルはどれにも丁寧であった。
物ではなく、人として扱い続ける。
奴隷も使用人も多くの者はカエサルの自分たちへのあつかいをみて感動する。
民衆派と言われる人々の中でもカエサルのふるまいは異端であった。




