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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
97/105

ローマからの使者

総督の館で、皆の苦労を労わる晩餐会が始まった。

各属州から、カエサルの統治を支える信頼できる仲間が集まっている。

夜の晩餐は貴族、騎士階級、平民と身分に関わらず、カエサルの身内だけで行われた。

ダインやジジ、プブリヌスなどは身の回りの世話をする若い者たちに指示をしつつ、皆と談笑をする。

冬越をしている各軍団長は参加できないため、3属州をとりまとめる行政担当、情報部の主要メンバー、カエサルと古い付き合いがある商人が主に集まっていた。


そこには、ローマから駆けつけたバルブスの姿もあった。忠実なヒスパニア人はローマのカエサルの家を守り、多くのカエサルの友人や知人との繋がりを保っていた。

カエサルとの話が一区切りすると本人から

「今年の書をまとめたものだよ。」と言って渡されたのはローマ中の人々が待ち焦がれるガリア戦記のカエサルが直接綴った最新刊だった。

丁寧に纏められている。修正した箇所もなく改めて清書したのだろう。

この辺りのマメなところが女性受けする秘訣なのだろう。こだわりの書を受け取り広げて眼を通しながら、

「今年のカエサルの報告は心が浮き立つものになりますね。」

そう言って座って読み始めた。


もともと市民から人気のあったカエサルだが、執政官になり元老院日報(アクタ・ディウルナ)を開始し、呪われた農地法を施行させ、属州統治も含めたローマの官吏の法整備をしたことで、市民の評価と人気はすでに非常に高くなっていた。カエサルの統治はすごい、と誰も疑う余地がなくなっていた。


それからガリアでの大活躍である。

行政官としてだけでなく、将軍としても非凡な才能を見せつけた。

さらに活躍だけでも絶賛されるべきだが、本にして市民にリアルな現場を伝えたのはカエサルが勝利と娯楽を市民に提供した初めての人となる。

その文章はシンプルにして公平。

自分をかえさるは、と三人称で客観的に描いて違和感もないのは客観性に優れた情報と表現が溢れているからである。

誰もが理解することが出来て、書かれていない行間にあるカエサルからのメッセージを想像して、仲間と議論して楽しんだ。

今やローマ市民は皆カエサルにメロメロになってカエサルの家に訪れる人たちは日をおうごとに増えてきていた。


カエサルの館の仕切りを任されていた機転の利くヒスパニア人は、カエサルの膨大な関係者をかなり把握していたが全てを把握しておらず、巧みに言い寄ってくる者たちの対応に苦慮した。

カエサルと縁を持ちたいという貴族や騎士階級がさらに増えることを予測していた。

次に最新刊を出したらどうなることやら。

もう今のままでは持たないと思って必ずや予算を増額してもらおうと相談に来た。


そう思っていたところで、勇んで来たところでカエサルから新刊の原本を渡された。

「読んでくれ。そして感想を教えて欲しい。」

そう来たか。

わかりました。最初の読者になる栄誉を受けて、その後でローマの話をしましょう。

鼻息荒くバルブスは葡萄酒を片手に読み始める。

その間もカエサルは他の者たちと何やら談笑している。



面白かった。

次はこう来るのか、やられた、とも思った。

これは、ヤバい。


私はカエサルにローマの人員増と建物の改築を相談しようと思っていたのだ。

しかし新しい巻に引き込まれて相談どころではない。悪いことに私と同じように本に引き込まれてカエサル邸を訪れる人は激増するだろう。

いや、しかし誰も橋をかけられないはずのライン川に橋をかけるのは最高だった。

たった一行に全てが入っている。

そして、驚いたことにその橋を壊した。

痛快だった。

いや、今カエサルの筆力を褒めてはダメだ。

そしてブリタンニアへの訪問。未知の島とそこでの出来事、戦い。

私も行きたかった。カエサルはブリタンニアをどうするのだろう?

秋の短い期間にそれだけやり遂げたのも驚愕に値した。

そしてクラッススの息子も旅立っていった。

カエサルは文章を並べていないが、この行の間にこそカエサルの想いがあったのではないか。

プブルよ。

情報の多さと激しさを受け入れきれず色々な感情とやるべきことが混ぜられてバルブスは混乱していた。


長く読みふけっていたバルブスをおいて他のものたちは談笑していた。

しかし、バルプスが読み終わったのを感じるとカエサルはすぐにバルブスの近くに戻り、その反応を待った。


「難しいですね。」

眼を瞑り、口をしかめて言った一言に感想を待っていたカエサルが珍しく、表情が固まり残念そうな顔になる。

それを見てバルブスは慌てて取り消した。

「今のは感想ではないですよ。私はカエサルに相談事があって来たんです。重要な相談です。なのに、こんな面白い本を読まされると何が重要か分からなくなってしまったのです。ローマのカエサルの家を相談したいのに頭のなかはライン川の橋やブリタンニアに気持ちがいってしまうんです。」

皆が混乱して必死に言い訳をしているバルブスを見て笑った。


「最高の巻です。」

苦笑いをしてやっとヒスパニア人は感想を述べた。


バルブスの気持ちをカエサルも理解することができた。

その一方で、ガリア戦記はローマ市民の心をつかみ、忠実なヒスパニア人を惑わすこともわかり、カエサルは笑顔になった。

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