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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
94/105

プブリウス・クラッススとの別れ

秋が近づいてきた。

カエサルは、弟のように、息子のようにかわいがっていたプブルとの別れがすぐそこに来ていた。

夏の終わりが近づきつつある日、カエサルは船の準備をしているブルータスと打ち合わせを終えると自分の天幕にプブルを呼び出した。


2人は侍従であるダインとジジ、プブリヌスを除いて奴隷たちにも席を外させる。

そして、向かい合って座る。

立派な好青年に育ったプブルを見てカエサルは初めて合った時のことを思い出して、つい笑みが溢れる。

プブルはそんなカエサルの表情を気にせず、尊敬する男の杯に葡萄酒を注ぐ。

それから自分の杯にも注ぎ席にドサッと腰を落ち着かせた。

静かに杯を合わせて選りすぐりの酒を口に含んで楽しむ。

互いに目を合わせるとカエサルが口を開いた。

「君と私の歩む道は、今日から別れていく。」

「ええ。」

プブルは神妙な面持ちで相づちをうった。

話はすでに聞いている。

最初は反発をした。

カエサルの下で働きたいと、子供のように駄々をこねたもんだ。

我ながら子供だった。

思い出して頬が赤くなる。

だが、この英雄的な将軍から未来の話をされて、プブルは自分がどうあるべきかを真剣に考え続けていた。


それは今年の春が近づいて来たときだった。ルッカでの会談が上手く進み、背後の憂いを取り除いたカエサルが、急いでガリアに向かっている中で急ぐ中でも街道沿いの街に寄った春の太陽が昇りきったばかりの昼食のときのことだった。

カエサルの下で働きたいと言った若者は、その後カエサルから距離を取って離れて歩いた。

自分の率いる部隊に戻る、というのはその場を離れる言い訳にすぎなかった。

プブルはそれでも冷静になる時間が必要だと離れて、その後は当分の間、呆然自失の状態だった。

そしてカエサルも何も言ってこなかった。ガリアの森林地帯に入って行軍を進めていたある日、カエサルの侍従のジジがやってきた。

「私は話すことなどない。」

ジジがどれだけの知識を持ち、カエサルに重用されているかは知っていた。侍従だから奴隷に近い身分だからとバカにしたのではない。彼はずっとカエサルと共にいるのだ。

自分にはできないことだった。

そう思うととても話をする気持ちになれなかったのだ。

それなのにジジは近づいてきてプブルに話しかける。

「代わってあげましょうか?」

一言そう言った。

「あなたの代わりに私がプブリウス、クラッススを演じて父を支えてあげましょう。あなたはカエサルの側にいるといい。」

プブルの顔が真っ赤になる。

何てことを言うんだ。

恥知らずめ、と罵りたくなったが、侍従は手慣れた手付きでプブルの腕を押さえ込んで言った。

「いい話だろ。坊っちゃん。あんたはカエサルの側でずっと甘えていたい。私はそろそろカエサルに学んだ知略を披露したい。私は彼からたくさん学んだ。あんたにはまだカエサルの授業が必要そうだ。」

「ふざけるな!」

「私はもう大人だ。」そう言って押さえつけられた腕を振り払い侍従の首を両手で押さえつける。

その瞳は優しさに溢れていた。

それを見てプブルは何も言えなくなってジジから目を反らした。

背後で大人の男の声がした。

「しゃんとしろよ。プブリウス・クラッスス。お前はカエサルが一番認めた男だぞ。一人立ちするときが来たんだ。」

「いやだ。私だってカエサルと共にいきたいんだ。あんたに私の気持ちがわかるもんか。」

子供のようなことを言った。

「お前な・・・。」

素直な言葉に、ちょっと苦笑しながら苦労人の侍従は、溜息をついて若者に諭すように言う。

「私たちはカエサルを支えることができる。だが、お前はカエサルの実現したいことを共に成し遂げることができる。どっちがお前のやりたいことかよく考えておくがいい。」

「じじ、あんたがここに来たのはカエサルの指示かい?」

「いいや、カエサルは私に何も指示を出していないさ。私が好きに考えて最善と思った行動をとれ、とはいつも言ってくれるけどね。」

そう言って笑った。

「かなわないな、と思うけど、私は私のやり方でカエサルをずっと手伝う。そのためにお前の尻を叩きに来たわけだよ。」

そう言うと高笑いをした。

つられてプブルも笑う。

敵わないな、と思いつつも追い付く努力をしたあ、とも思った。

その後プブルはジジを酒の席に招き、じっくりと2人で話し込んだ。



あの時から半年近くが経過しようとしていた。春の草花は、落葉に変わりつつある。時の流れは常に止まることなく続いている。

私は、尊敬するカエサルからの期待に答えたい。

最初にカエサルからクラッススの下へ行け、といわれた時と今では全く顔つきが変わっていた。


プブルはカエサルを見ながら言った。

「次に会うときは、クラッススの息子こそ真の英雄でありクラッススと呼ばれているでしょう。父はクラッススの父親と呼ばれているはずです。」


「クラッススを越えるのは大変だぞ。それでも越えられるか?」

「父を越えられなくて、あなたに近づくことはできないでしょう。だから越えて見せましょう。」

「そうだ。その意気だ。君こそがクラッススでありローマの将軍にしてパルティアを征した立役者であり、ローマ最高の財力を継ぐ者になっているだろう。」

歌うように言葉を続ける。

「私は私の後継者に、ポンペイオスとユリアの子をあてがうこともできる。」

そこまで言われてさすがにプブルは緊張して、喉がゴクリと鳴った。

ユリアが懐妊したとの話は聞いていたが、もしその子が私と結婚したら、新時代派の最高の実力者たち全員の血を引く家系ができる。

王に最も近い血。

プブルはそう思った。

プブルとの別れは、男同士の新たな旅路の別れだった。

プブルの行き先に祝福をしたいと、不安を思いつつもカエサルは送り出す。

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