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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
93/105

ゲルマニア遠征の終わり

ゲルマニア最強のスエビ族はローマ軍を警戒して村ごと森の奥に逃げることを選択した。残されたカエサルはゲルマニアでやっておくべきことを次々と行っていた。

鬱蒼と繁る暗い森を見てもローマ軍の兵士たちはたじろがなくなっていた。

スエビ族が移動したという報告から半月、森林の奥に逃げ込んだことを確認すると、カエサルの元にウビィ族や他の幾つかのゲルマニアの部族から感謝の連絡が入る。そこでカエサルはゲルマニアの中央に広大に広がる深く暗い森の探索をし、スエビ族の位置や森の生物などの情報を自分達で調べて、時には聞いて理解を深める。それからこれ以上スエビ族を追いかける必要なしと判断して暗く深い森を抜けてガリアに戻る道をたどった。


ライン川にかかる橋を渡り、ライン川の畔に陣を構えたローマ軍は、川の横に陣を張り、橋を撤去する作業に取りかかる。

その夜、カエサルは一つの仕事をやり終えたことを実感し、天幕の中で落ち着いて葡萄酒を口にしながらゲルマニアの遠征を手記にまとめていた。


カエサルはいつものように自分が書いた内容を読み上げて、過不足がないかを確認した。

「ローマ軍はライン川を渡りさらに奥に入っていった。今までローマ商人でさえ誰も足を踏み入れたことがなかった森のさらに奥深くまで足を踏み入れる。深く暗い森はほそく鋭い葉を持つ木々が多く、柔らかい緑ではなくなった。草花は少し低くなり、動物は鹿や猪、熊がいるが深い森の奥には珍しい美しい角を持つ馬までいた。」

「景色が思い浮かんで来ますね。」

一言、褒めたのはプブリヌスだった。

その後、ダインが笑って言う。

「一角の獣は噂話しか聞けておらず斥候も含めて我らは目撃できていません。」

「そうだね。しかしアフリカには巨大な身体と牙を持つゾウがいて、顔の倍も開く口の大きな獣や首の長い大きな獣までいた。ゲルマニアの奥に角の生えた馬がいてもおかしくない。私たちが本物を見れなかっただけだよ。」

「そうですね。話には何度も出てますからね。自分が見たというゲルマン人がいないだけで。」少し皮肉がかった言い方でダインがカエサルを見て笑った。

侍従の指摘を受けてもカエサルも笑って言う。

「もしかしたゲルマン人の想像かも知れないが、たまたまこの辺りにいなかったのかもね。これだけ伝承であるんだ。ここは一つの探索の目玉として残して置きたい。」

「翼のある馬の伝説もありますが?」

「馬は飛ぶようにはできていないよ、ダイン。私も多くの鳥を見てきたが鳥は軽いんだ。だが、馬は重い。馬を飛ばすのならもっと軽くならなくちゃね。現実的に存在するのは難しいと思っているよ。」

「角は良くて羽はダメなんて、勝手じゃないてすか?」

「現実により近い記述をしておきたい。一方で夢を信じる若者の期待にも答えたいのさ。」

「カエサルが良いのであれば。」

侍従たちはさほど文句を言うこともなく笑い、その後は皆で乾杯した。


「今回は戦争というよりゲルマニアへの旅の要素も大きいですね。」

振り返りながらジジが言う。

「そうだね。ワクワクしてくるだろう。新しい土地、新しい発見。」

「そうですね、既存の読者たちも喜ぶでしょう。」

「スエビ族が逃げたのは予想外だったが、無駄な戦闘はせずに済んだ。読者たちは不満かも知れないが司令官としては一人も兵士を失わなくてて良かったよ。」

「ゲルマニアには侵攻しないのですか?」

「ゲルマニアには侵攻しない。少なくとも今は。新時代派がより強固になり、ローマの力をもっと外に使えるようになれば、ローマとゲルマニアの境をもう一度検討して良いと思う。」

「ゲルマニアはローマに帰属させるのが難しいからでしょうか?」

ゲルマニアで手に入れたガリアの奴隷女が質問をした。

「いや、あくまでもローマの都合だね。ローマから遠く離れてガリアは半分は味方、半分は敵の状態でさらに外に攻め入るのは危険だ。」

「ガリアの部族でカエサル様の敵はおりません。」

奴隷女の強い言葉に笑う。

「もちろん、私もそう思う。だが人は自分の信じたいものを信じる。ガリアの人たちの一部ではローマ軍を叩き出すことを考えているだろう。」

そういって次の話に移る。

「さてさて、それよりも明日にはここを発って今度は西に向かうぞ。そして船に乗ってブリタンニアへ向かおう。だが、その前にしなければならないことがある。」

酔っていた皆の顔が引き締まり真面目な顔になった。


ゲルマニアでやるべきことをやったカエサルは、すぐにライン川を渡りガリアの地に戻ってきた。だが、夏が終わろうとしている。カエサルとプブルとの別れの時が近づいていた。

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