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カエサル、執政官へ

三者同盟を成立させたカエサルたち。

ポンペイオス、クラッススの支援を受けて圧倒的な人気で市民集会で

来年の執政官になることが決定した。

晩夏になって行われた来年の執政官を選ぶ選挙はカエサルが圧勝した。

ローマの平時の最高権力者「執政官」は2名、1年が任期である。

その2名を選出する選挙でカエサルが圧倒的な一位をとり、

続いて大差を付けられて何とか門閥派の1人ビブルスが入ることができた。

その結果、来年の執政官はカエサルとビブルスになることが決定した。

民衆は、ひさしぶりの民衆派と目される執政官の誕生に喜びをもって受け入れる。

しかし、カエサルの素行、女ったらしと借金王の名前、最年少での最高神祇官への着任、そしてその後の様々な元老院内の事件もあり、話題性が非常に強く、市民たちは期待と不安の混ざった感情に見舞われていた。




選挙の結果が出てすぐに、カピトリヌスの邸宅の大広間に門閥派の者たちは集まった。

執政官の選挙が終わり、門閥派のメンバーは予想外の結果に慌てて集まっていた。

「カエサルの人気は予想外でした。まさかあれほどの人気とは。」

「そうですな。あれだけ彼の悪口を広めたのにな。」

「彼の悪評は以前からあるので市民達も慣れてしまっていたのかもしれません。そして常に聞く名前でもありますから。」

門閥派はその原因を特定できずにカエサルの圧倒的な人気に驚いていた。

「ポンペイオスは我らのほうを支援しなかったのか?」

「彼は結局、歩み寄りつつも、結局我々にもカエサルにも付かず、まだ別荘に引きこもったままです。」

「英雄と言われても、政治の世界ではなにもできないな。所詮、戦争でしか力を発揮できない男なのか。」

「ポンペイオスは当面放って置きましょう。」

「そうだな。隠居した者に用はない。」

門閥派の議員たちは次々にポンペイオスを見捨てるような発言を繰り返す。


けっきょく新時代派が故意に隠した同盟の存在は全く知られることなく、門閥派のメンバーはカエサルのみを警戒することにした。


そこに隠し玉を持っていたキケロが自慢気に皆の話を聞きながら笑って言う。

すでに元老院においてリーダー的な存在感を発揮しているキケロは、門閥派のなかでも特別視されていた。キケロが話をしだすと皆が注視する。

「皆さん、カエサルの執政官就任ですが、我々にとって朗報というべき話を持ってきました。カエサルが当選を確実にすると、直ぐに彼の信頼すべき部下のバルブスが我が家に来たのです。バルブスの言うところによると、カエサルは執政官になることを目標にしていた。なれたからにはローマを安定させるため、自分のためにも門閥派ともうまくやっていきたいそうです。ついては私キケロとポンペイオスのアドバイスを受けながらローマのために働きたい、と言ってきました。」

自慢気に言うキケロの話を聞いて、皆がほっとしたような表情になる。

「なるほど、カエサルも民衆の人気だけでローマは動かないことを悟っているか。」

「しょせん、女ったらしと借金しか脳のない男だよ。実務を考えて我々にすり寄ってきたに違いない。」

「彼が1人頑張っても民衆派が復活するわけではないしな。」

「良い心がけだ。」

「なぜ、キケロなんだ。我々のところに来て話をきくべきではないのか。」

さまざまな意見が出てきて議場がざわめく。

少しのあいだ、意見が出尽くしたあたりを見計らって、今度は、次年度の執政官としてカエサルと一緒に就任が決定したビブルスが壇上に立ち、門閥派の仲間たちに話しかけた。

「私のもとにもカエサルの使いが来ました、一緒にローマを盛り立てよう。そのために話合いをしたいと。そして自分はローマの伝統を重んじている。執政官の運営について旧来のローマの政治体制に戻さないか?と提案をしてきました。」

旧来の政治とはなんだ?と疑問に出す者たちがいるところでビブルスは説明をつづけた。

「王政を倒して共和制になった初期は、執政官2名は1ヶ月ずつ交互に行政の長になる月を担当していました。そして執政官につく警士も行政の長の役割を占めている期間だけにする。これはコストの削減の意味合いもありますが、共和制の原点にもどろう、というカエサルからのメッセージだと理解して良いと思います。」

ビブルスの発言を多くの議員は好意的に受け止める。

「ふむ、カエサルも自分の地位が不安定なことを理解しているのだろう。人気で当選しても実際の政治には実行するための力が必要だからな。古式なやり方を復活させて、我らと距離を詰めようとしているのかな。」

「信じられませんな。やつのことだ、どうせ見てくれだけですよ。」

「カエサルは何をしでかすかわかりませんからな。」

「しかし、あの若さで最高神祇官になったというのも事実。服装についてはチャラチャラしている面もあるが、見識も高い。古来よりのやり方を学ぶ姿勢は悪くないですな。」

門閥派の意見はカエサルを評価しようとする者たちと警戒する者たちに割れた。

しかし、結局門閥派全体として古式を取り入れようというのは悪くないと判断される。

カエサルの人気を甘く見ていた部分はあるが、女ったらしと借金以外で、元老院では反元老院的な言動が目立ってもそれも民衆への人気取りのパフォーマンスであり、大きな影響はないとみなされた。

ビブルスはカエサルに同意することにした。


これによって、2人の執政官は毎月交代して1月の間は担当の執政官が全体を取り仕切ることになる。

ビブルスは余裕を持ってカエサルに

「せっかくだ、最初は君がやりたまえ。」

と言って最初の1月目をカエサルに譲った。

それは大きな失敗だった。



誰もその件についてこの日の討議以上に追及はせず、カエサルとビブルスの同意をもって来年は月ごとに執政官が担当する期間が決定した。

1月、3月、5月、7月、9月、11月がカエサルの月となり、それ以外がビブルスが担当することになる。門閥派としては、カエサルが口を出さない月が半分あるのは悪くなかったのだ。

そして、準備は整い、年があけた。




執政官初日の朝


カエサルはいつも以上にはりきって、使用人たちに準備をさせた。

赤い縁取りのトーガは今までの執政官の誰よりも鮮やかな色だった。

そして身だしなみを整えたカエサルは当庁する。


ローマ市民も行き来するカピトリーノの丘をゆっくりと歩く。

市民にも気さくに笑顔を振りまきながらカエサルは段をあがり、元老院議員たちが待つ

会議場に向かう。


ついにローマ最大の権力者になった。


一息吸って、やっとここまで来たことを振り返る。

父が死んだ、という報告を受けた16歳の時だった。

そこから権力者キンナやスッラの手を抜けながら生きてきて

少しずつ昇り詰めてきてたどり着いた役職。


死にかけたことも何度もあった。

そして、自分の手の中で死んでいった者たちもたくさんいた。

街中を行けば、裕福な者がたくさんいるなかで笑うことも

食べることにさえ困窮する者たちも大勢いたことが思い浮かばれる。

世界は変わらなければならない。


その気持ちがこみあげてきた。

再び息を吸って、落ち着かせるように息を長く吐き出した。


穏やかな表情で上を見て、それから目を閉じる。

権力者になることが目的ではない。

世界を変えることが私の目的だった。

今、やっとそのスタートラインにたつ。


目を開いて自分の気持ちを高めながら、カエサルは議会場に入っていった。

ついにローマの最高権力者、執政官になったカエサル。

ここから彼は何をしようとするのだろうか。

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