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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
86/89

ルッカ後

時代を切り開きだした新時代派。

カエサル、ポンペイオス、クラッススは同じ方向を向いて、それぞれに歩みをはじめる。

カエサル側のローマでの実質的な担当者バルブスも来たことで、新時代派がこれからやることを具体化して指示までできたカエサルは、次の準備に移っていた。

晩餐会をこなしながら、日々入ってくる情報を元に、三属州の統治課題も整理し、ガリアに旅立つ日を決める。

それから留まっている邸宅の一室に机一杯に地図を広げて、敵と味方に分けた兵士や騎馬の形の像を持ち出して熟考した。

プブルからの報告は日を追うごとに悪くなっていた。

ヴェネティ族というガリアの北西部で最も協力な部族が、最初は食料購入のために訪問していたローマ人を捕まえるということだったが、徐々に過激に走り、ローマの統治を認めて出した人質の返却を求めつつ、周りの部族にも話に乗るように進め出した。そしてヴェネティ族を中心に一部の部族が軍事行動をはじめたという。


一度恭順を示しておきながら、急に態度を変えた民族を許す気にはなれない。

これはカエサルの流儀にも反する。

冷たい気持ちになりながら、プブルの報告を読み続けた。一通り読み終えると、筆を取り考えをまとめる。

ヴェネティ族を許すわけにはいかない理由が次々に出てきた。

痩身の総督は理由をキレイに纏めながら、ラビエヌスとサビヌスに指示を出す。ガリア民族の良くない特性として、時に周りに流されやすいことにあった。近隣で同調するガリア民族が出ないように警戒しつつ、恭順と制圧を目指すために2人を動かした。

さらに大洋を面した町でプブルには捕まった人質は置いて船の建造を急がせる。ヴェネティ族はブリタンニアとも繋がりが強く、多くの船を抱えているとの情報を掴んでいた。反旗を翻したヴェネティ族は許さないとするカエサルの気持ちを表していた。

対ヴェネティ族の指示を出して半月が経過したころ、ポンペイオスとクラッススにも別れを告げ、カエサルを名残惜しむルッカの人たちを置いてカエサルは属州の官吏を理由に去る。

カエサルがルッカを離れた時は戦場に行く様子も見せない少数の仲間だけだった。誰も属州のどこかの都市に行くのだろう、と思っていた。

笑顔を振り撒いて別れを惜しむ市民たちと歩きながらルッカを離れる。

市民が誰もいなくなると、カエサル達の動きは早くなり、街道沿いを走るように進んでいった。



ルッカでの会談を終えた後、ポンペイオスは海軍長官の役目をこなしにジェノヴァに、クラッススはローマでの商売をしに移動する。他の議員たちも祭りは終わったとしてルッカを後にした。

ルッカに元老院が移動していた、と言われた日々が終わりローマにすべてが戻ってきてから少ししてクラッススとポンペイオスが執政官を目指すという話がローマで話題になる。具体的な名前が出ることで多くの人は新時代派の時代が続くと予想して、縁を繋ごうと躍起になった。

カエサルの支援を受けている現職の執政官ピリップスにも明らかに多くの議員が相談事を持ってくるようになったとローマでカエサルの代わりを務めていたバルブスに報告をあげる。

「嫌になるほど、やること成すこと的中するな。」

ボヤくバルブスを尻目に人の良いビリップスは素直に新時代派が受け入れられていることを喜んで、

「これからの時代を切り開くのは新時代派だ。私もがんばらなければ。」

と言っていた。

頭の固い議員達でこうである。若者たちの新時代派への傾倒は圧倒的だった。

さらに若者たちの間ではカエサルの書いたガリア戦記の話がどんどん口コミで広まっており門閥派の父を持つ若者たちもカエサルの活躍に胸を熱くして心踊らせていた。古き良き時代を懐かしむ父との間に溝ができつつあった。

この点について門閥派はジェノヴァでの役割を早々に片づけて妻に会いにローマに帰還したポンペイオスに盛んに近寄り、ポンペイオスを嫉妬させカエサルとの仲を裂こうとした。

「カエサルはあなたの地位を奪おうとしている。」

「ガリアに来るように誘ったのも偉大なるポンペイオスの命を狙っていた。」

そんな噂を流した。

ポンペイオスはそういった情報を笑って受け入れて、「私の身を心配してくれてありがとう。だが、カエサルが私を殺そうとするならその前に私が彼を真っ二つに切り裂いてやろう。どうだい、それでも私が心配かな?」

そう答えると、門閥派の者たちは、ポンペイオスに敵うものなどおりますまい、と答えるしかなかった。

その反応を見ると偉大な将軍は笑って、

「ふふん、私を軽んじてもらっては困るな。」と尊大に笑って見せた。

こうしてポンペイオスを靡かせることもできずに去っていく門閥派の議員達を見送ると

、そそくさと歩いて、議員を追い返した報告をユリアにしに行く。

美しく若い妻は、美中年かを笑顔で報告をしに来ることを予想していて、味わい深い30年ものの葡萄酒に、干した鹿肉と甘い果実のビスケットを出してつまみにする。

2人は寄り添い、ポンペイオスは酒を注がれながら満足げに議員の狼狽ぶりを笑い話にして妻に聞かせた。

「父であるカエサルの活躍は私たちの幸せだよ。彼は広大なガリアの多数の民族を抑えてローマの偉大さを広げた。偉大な将軍だ。」

素直にカエサルを褒めるポンペイオスを見てユリアも笑う。

「心の広い旦那様で父も幸せでしょう。良かったわ。」

そんな会話を重ねているとポンペイオスからカエサルを褒める若者の話が聞こえてきた、と言われた。

「実際、私はカエサルと戦ってみたいと思ったことはある。」

ポンペイオスはユリアにそう言った。

さすがにユリアも焦るかと思ったが、ユリアは笑って

「殿方が優越をつけたがるのは生き物としてのサガなのでしょう。あなたが勝ちそうでも負けそうでも、私はあなたを応援します。」

そう言うとポンペイオスの手を掴み、

「カエサルがあなたにとどめを刺そうとしたら背後から私がカエサルを刺すでしょう。」

そんな覚悟を言われてポンペイオスは笑って、君を不幸にはしないさ、と言って抱き締めた。


ルッカ会談の後、新時代派は盤石だった。

ポンペイオスとユリアの仲は誰にも壊せないほどに。

そして時代はローマの3人の実力者の下にゆだねられる。

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