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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
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ルッカにて次の手を打つ

ルッカでのポンペイオス、クラッススとの会談は終わった。だが基本的なことを合意しただけだ。自分がいない間に実際に予定どおりに動くようにカエサルはさらに細かな決定事項を決めようとしていた。

豊かな流れのセルキオ川は、いつも以上に多くの船が出入りしていた。

普段はすぐ海に近い湖を漁場とする漁師たちが多いが、商人たちが多くの食糧、衣類、その他必要なすべてを荷下ろししていた。

今はローマの元老院議員たちが大挙しておしよせているためであった。


その元老院議員たちが集まるようになった原因であるカエサルは、ルッカを立ち去る時期を見計らっていた。

ポンペイオス、クラッススとの話し合いが最終的にまとまるまでの間、数日を要した。

やることは決まっても、その具体的な方法までしっかりと決めておく必要があったからだ。特にローマから離れて2人に予定どおり動いてもらうため、カエサルは全体を仕切れる頼れる男を呼び寄せる。

ローマでカエサルの留守を預かっていたパルブス達だった。

バルブスは浅黒く焼けた肌と焼けた黒い髪を短く刈り上げて、さっぱりしていた。

カエサルを見つけるとヒスパニア人はかけよってきて言葉をかえた。

「わざわざカエサルが私を呼ぶ理由がわかりました。ローマがこっちに来ていたとは気付かなかったんです。」

バルブスが笑いながら皮肉ってきた。

「新時代派を呼んだら皆が来た。わたしたちの影響力が他者を凌駕しつつある証さ。だが、門閥派は我らの付け入る隙を伺ってもいる。この先、私がいない間、ローマを頼むよ。」

皮肉を真面目に返されてバルブスは面食らいながらも、解りました。と答える。

カエサルから今までのような余裕を感じないのは、それだけやることが多いのだろう。真剣に頼られることでバルブスの気持ちが熱くなっていた。

これこそ私が求めていたものだ。そう思った。

カエサルに頭を下げて少し大仰にして言う。

「あなたのために新時代派を支えてローマを守る。このような偉大な使命を私に課してくれて感謝しています。あなたの期待に沿ってみせましょう。」

カエサルは笑顔を見せて、頼むよ、と言った。

2人は、初めてヒスパニアで会った時のことを互いに思い出して、少しの間そのころに語り合ったことを話す。

「夢を実現しつつありますね。カエサル。」

「まだまだだよ、バルブス。」

あっさり返した主を見て、笑って返す。

「夢が近づかないなあ。」

「やりたいこと、やらなければならないことだらけだからね。」

「ポンペイオス、クラッススをうまく制御しなければいけませんね。」

「制御より彼らの力を借りて共に歩むほうが成せることは多いのさ。」

「なるほど。じゃあ権力を欲しての同盟というよりは、あなたにとってはやることを実現する最短のコースがこの同盟なんですかね?」

「そうだ。」

「本当に何でも利用するなあ。」

「同じ方向に進むと互いに得だろう、何も損はない。」

眼を見てお互いに笑いあった。

その後もカエサルもバルブスと話をすることで少し余裕も出てきたのか、軽口を言い合って、次の打ち合わせに向かって行った。


地元の有力者の家に世話になっているカエサルは豪華な朝食を楽しむと、精力的に活動をはじめる。ガリアで怪しい動きがあることも把握していたが、各軍団長に任せるしかできない。できない以上は自分ができることをするのが、カエサル流だった。

新時代派の細かな決めごとで停留する以上、できることを実施しておこうとした。


少しずつ打合せが進んでいく間も、多くの地元の名士がカエサルと縁を持とうと招待をしてきた。

連日の話し合いで疲れているはずの痩身の総司令官は、周りの者が心配するにも関わらず、毎日のように招かれた晩餐会の出来る限り参加した。

人好きのする、そして宴や晩餐会などを心の底から楽しめる野心的なガリア総督は、自身と新時代派の足場固めを最優先させた。

地元の名士の晩餐会に招かれると、名士に連絡して中立の元老院議員を招いてもらう。そして晩餐会の当日、特にカエサル側から話しかけることもなく、宴を楽しむ。名士の奥様方、お嬢様方、カエサルのガリア戦記で胸を熱くした若者達とは進んで話をする。

宴において相手に合わせて知的でユーモアに富んだ話をすることにおいてカエサルの右に出るものはいなかった。

北ガリアやゲルマン人の、いわゆる蛮族との争いでも、彼らの文化や作法にまで理解を示すカエサルに多くの人は好感を覚えた。なぜならルッカ自体が早くからローマの支配地域になったとは言えども、ローマの属州であることに変わりはなく、ローマと属州の人の扱いに大きな差は大きかった。そして、新しい属州総督ユリウス・カエサルは過去にないほどに公正で寛大な措置をギリシャやローマの文化の香りを感じ、嫌みのない話し方は、ファンを劇的に増やした。

奥様やお嬢様方はカエサル個人のファンになり、若者はローマを変革する旗手としてカエサルを見た。頭の固くなった大人の男達でさえ何か変革と共に自分達に利益をもたらしてくれる幸運を持つ将軍に見えた。

周りがカエサルへ傾倒していくのを見て、招かれた元老院議員も、カエサルと話をしなければ、という気分になる。

だが、相手は取り巻きに囲まれて話しかける隙もない。

どうしたものかと思っていると、カエサルがつかつかと近づいてきて話しかけてくるのだ。

「やあ、久しぶりだね。」

こうされるとたまったものではない。周りのカエサルファン達は、カエサルが親しげなこの男はなんだ、となる。

そこへ我らが英雄がスマートに言うのだ。

「これなるは、ローマの元老院きっての才能を持つ議員。彼の言論で子供達は学びを深め、叡知で大人達は台地をうまく治めることができた。」

そう持ち上げられてはたまったものではない。

「ユリウス・カエサル様と志を共にする人ですね。素晴らしい。」誰かが議員を褒めるとその言葉で周りの人々からさらに褒められるのだ。

こうして警戒をとき、気がつけば、「カエサルならばガリア全土をを平穏に導く将軍である。」と太鼓判を押すことになった。

こうして、新時代派、そのなかでもカエサルに付くもの達は増えていった。

カエサルが日々の夕食や晩餐会を楽しんでいるこの時にはプブルから至急の指示を仰ぐ手紙が何枚か届いていた。心の底ではガリアに駆け出したい気持ちでいっぱいだったが、焦りを見せることなく、自分の部下達に最大限の助言と指示を出して、ルッカでの時間を費やした。

カエサルは時間を無駄にしなかった。

ルッカででポンペイオス、クラッススとあい、それ以外にも新時代派が大きな力を持つようにしむける。

だが、その間にもガリアでは不穏な動きがひろまっていっていた。

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