ルッカ会談(下)
ルッカに集まったポンペイオス、クラッスス、カエサルの3人は互いの利益とローマの国益の成立のために未来の体制についての話し合いを行った。
ポンペイオスは、自分はローマを支える地中海を守る。安定化させ各都市を結ぶことを約束した。それこそポンペイオスにしかできない仕事でもあったからだ。
マルセイユ、エフェソス、シラクサ、チュニス、アレクサンドリア
世界の偉大な都市はローマ、その中でもポンペイオスに恩義を感じ、ポンペイオスの依頼であればどのようなことでも成そうとするはずだった。
クラッススもそこについて異論をとなえることはなかった。
代わりに自分の希望を言ってくる。
「俺はシリア属州に行きたい。」
珍しく残りの2人の反応を気にしながら言ったクラッススを見て残りの2人の戦争の天才は眼を合わせた。
シリア属州というだけで狙いは分かる。
それからいつものようにカエサルが切り出した。
「クラッスス、あなたは戦いの場から離れて久しい。しかも敵は他と違います。ローマが何度も苦渋をなめさせられているパルティアと事を構えるところです。」
「そんなことは先刻承知よ。厳しいところでこそ価値がある。深い森でガリア、ゲルマンを退けて来ているおまえのようにな。」
「しかしクラッスス、私もシリアには足を運んだことがあるがローマとは全く違うぞ。太陽もあの地はローマ以上に厳しい。植物でさえ人に切りかかるような装いのものがある。」
「だからだよ。おめえたちはそれぞれ名を挙げた。そりゃお前達なりの苦労もあったろう。だが成し遂げた。俺たちの中で成し遂げていない、たまなしは誰だ?もちろん俺だ。だからやるんだよ。お前らに比肩しうる偉業を。」
「判りました。クラッスス、あなたの気持ちを尊重します。私もあなたの気持ちが判らなくもない。」
カエサルはそう言って珍しく本音でシリア属州に行きたいと言ったクラッススに同意した。
だが、カエサルの本音では、自分かポンペイオスのどちらかが行くべきだと思っていた。
昔、若い頃にアシア属州に行ったときに足を伸ばしたアルメニア王国で出会ったカエサルと同じように革新的な意識を持つパルティアの王族を思い出した。戦術レベルでも戦略レベルでも自分と比肩しうるのはポンペイオスとパルティアであった貴族だけだと感じていた。彼がそのまま成長してパルティアで軍事を取り仕切っていたら私も苦戦するかもしれない。そう思うほどの男がいた。
「シリアは私も言ったことがあるがローマやアシア属州、エジプトとも違う環境だ。私も馴染むのに苦労した。それからクラッスス。君の根幹は商人だ。」
クラッススが認識しているであろうことをさらっとぶつけながら偉大なる将軍は話続けた。反論しかけたクラッススを制してポンペイオスが続ける。
「ローマ軍の総帥としての地位に就くだけの実力はある。それでも何が起きるかわからない土地でもある。だから我ら新時代派のために私は君に私の戦争の経験の豊富な部下をできるだけ出そう。」
ポンペイオスからの予想外の助力の申し出にクラッススも頬が緩んだ。
「いいのか?」
「ああ、だからこそ我が部下達を必ず返してくれ。彼らにも活躍の場が必要だ。」
ポンペイオスの言葉に力を得たクラッススはカエサルを見た。
「もちろん、私も最も優秀な者をあなたに届けましょう。プブリウス、クラッスス。あなたのかけがえのない息子はガリアの地でその実力を示しました。北ガリアの大洋の諸部族の制圧は彼無くしてはなし得なかった。なので必ずやあなたの助けになってくれるでしょう。」
「おお、ありがてえ、カエサル、ポンペイオス。俺がシリア総督に就いてパルティアを撃破して見せようとも。」
クラッススの腕に力がこもる。
「あまり力を入れすぎず自然体でお願いします。」とカエサルが笑いながら言う。
「やはりローマの総督として立ち振舞いにも気品をもって欲しいですからね。」
「気品なんざ持ち合わせてねえ。だが、ローマにパルティアの富を持ち帰ってやろう。」
途中からはからかうように笑いながら言うカエサルに対して勢いをもって返すクラッスス。
パルティアを屈服させた史上初のローマ人としてぽ、カエサルを越えることを夢想しながら、机の上を叩き酒と食事を要求した。
その後、クラッススの思い描いた夢の話が始まり、カエサルもポンペイオスも時には嗜め時には激励して美味しい酒を飲んだ。
この時こそローマの3人の実力者の連合体後の世に言われる三頭の絶頂だった。
ここからは実質的な領土を広げているローマの拡大、防衛と首都ローマのコントロールを行う具体的な話になる。
ポンペイオスとクラッススは来年の執政官に立候補する。
カエサルは2人が当選するための支援を行う。
ポンペイオスとクラッススが執政官になったら、2人の名前で以下のことを決定する。
・翌年の属州総督は、ポンペイオスがヒスパニア、クラッススがシリアとする。
・任期は5年。
・2人に組み込まれる軍団は各10軍団で必要な運営費は国庫から供出する。
・カエサルのガリアの権利は2人にあわせて5年とし、管轄する軍団も同じく10軍団とする。
結局3人はローマを取り囲む課題のあるエリアを3人でわけた。しかも強大な権力を持たせた状態でわけた。10軍団を個別の属州総督が5年もの期間にわたって持たせることを、しかも同時に3か所は過去の洗礼を大きく逸脱していた。
これは、ローマ史上にない空前の内外を政治、軍事、経済の全てで抑える体制である。
3人の実力者は満足して会合を終える。
これでローマは長期間にわたり新時代派が実権を握り盤石となるはずだった。
ルッカでのけって事項は秘密裏に実行されることが決まる。
多くの元老院議員たちが集まり、情報収集にせいを出しても、3人のルッカでの会談でどのような話が行われたかは全くわからなかった。
ローマは大きく変動しようとしていた。




