追撃、そして別動隊の始動
北ガリア連合軍が敗走しはじめた。
カエサルは追撃をすることになる。
カエサルの頭にはどのようなゴールが想い描かれているのだろうか。
遮二無二な敗走。
ローマとの会戦から地元での殲滅戦に切り替えた北ガリアの連合軍が方針を変更した実態は、ヴェルチンが失望するほどにひどい有り様だった。
もはや後ろの守りを自分達がしたくないから、我先にと各部族が焦って動いたからである。
カエサルは撤退する兵士達の情報を得ると、撤退が本当か真意を探るべく情報収集に動く。情報部だけでは全く人数が足りないため、各軍団からも騎馬による哨戒を行わせた。
そして、情報が集まり切る間を無駄にせず軍団長以下には兵士達の休息と食料や消耗した武器や防具、食料などの準備をさせた。
ガリア軍が撤退していることを斥候の情報で確認すると、休憩を挟んで追撃する軍団、全体に睨みを利かせる軍団に分ける。そしてプブルを呼び出した。
すぐにカエサルの下に訪れたプブルはカエサルを見つけると駆け寄って、
「カエサル、我が軍団こそ、ガリア軍の息の根を止めて見せましょう。」と言った。
気合いの入ったプブルの言葉にカエサルは笑顔を見せる。
「プブル、お前なら私の期待通りの活躍を見せてくれるだろう。」
カエサルの言葉に感激しながらプブルは言った。
「もちろんです。」
「だがプブル、君にはもっと困難な仕事を任せたい。北ガリアの大軍を撃退した今こそ良い機会だ。ここより西に向かって進み大洋海岸のガリア諸部族を平定してきてくれ。」
「大洋海岸沿いですか?」
追撃戦をするつもりだったプブルはやる気を削がれた気分になった。顔にあからさまに不満が出ていたのだろう。カエサルが自分を見て嘆息している。
だが、私はカエサルと共に戦いたい、と思いプブルは強く申し出た。
「カエサル、私はあなたと共に北ガリアの残党をローマの下に組み入れたいです。」
カエサルは笑って若者の気持ちを受け止め、少し待ってから微笑み言った。
「私も同じだ。プブル。だが、真に信頼する君にこそ任せたいんだよ。今我々がすべきなのは北ガリアの勝利の影響を使って全ガリアに影響を与えることだ。それによってこそ、ガリア全土の平定は成る。」
「ガリア全土の平定!」
力強い言葉を耳にしてプブルは頷いた。
「そうだ、北ガリアの大軍との戦いに勝利したローマ軍は、これを機に、全ガリアを平定した、と言われたい。それこそ平和への最短距離になるだろう。そしてそれを成したのは北ガリアの諸部族を撃退させたカエサルと、大洋海岸の諸部族を平定したプブリヌス、クラッススの力で成せたことである、そう後世に伝えられることだろう。」
プブルは、笑いながら頷いた。
「ええ、私ごときがカエサルに並ぶ名声を受ける可能性があると聞いただけで感激です。大洋海岸のガリア部族を平定して見せましょう。」
カエサルはその言葉を受けてプブルをガッチリと抱き締めた。
それからカエサルはプブルに現状でわかっている状況を説明して、行軍の道までカエサルの情報部がサポートすることを伝えた。プブルへの情報伝達は、太っちょ、が受けることになった。
プブルは太っちょの身なりや太り具合を見て、一瞬嫌な顔を見せたが、他ならぬカエサルの指示である。眉間にシワを寄せながら情報を受けることにした。
大洋沿岸のガリア部族の平定をプブルに任せたカエサルは、レミ族と共に全体を監視する軍、ガリア全土ににらみを効かせ、ヘドゥイ族と共に動ける軍を準備して残った軍団を連れて北ガリア連合軍の総大将であるガルバの部族であるスエシオス族の元に向かった。
カエサルが軍団長達偉い人たちと話をしている間無言を貫いていたダインとジジは、プブルが去って行った後に質問をした。
「なんかプブルを口車に乗せて遠方に追いやったように見えますよ。カエサル。」
「そんなつもりはないさ。才能、若さ、実力、そしてタイミングの全てがプブルに行けと言ってたんだ。」
「ちょっと寂しいですね。プブルはずっとカエサルを慕っていましたし。」少し感傷的になりながらジジも呟いた。
「お前たち、まさかプブルが危険な目に会うとでも感じているのかい?」
「だって北ガリアでこれだけの大軍が集まって、カエサルだからこそ撃退できたんですよ。それを1個軍団だなんて。」
「それは思い違いだ。お前たち。何で私がプブルを死地に赴かせるなんてことするものか。大洋沿岸にはスエシオス族のガルバのように求心力のある者も、そもそも強力な部族もいないことは確認済みだ。」
「そうなんですか。」
「ああ、私たちは今回の連合軍に参加してまだ反撃を考えている北ガリアの軍勢を倒しながら、全土に睨みを効かせるわけだ。プブルはその隙に沿岸の諸部族を抑えていけるだろう。ガリアの部族はこれで抑えられるはずだ。」
「そこまで考えていたのですね。」
「もちろん。」自信を持って2人の従者に言うカエサルに、最近口が立つようになってきたダインが言った。
「プブルを失ったらクラッススも黙っていない。そう考えるとプブルかを死地に向かうようなことはさせないですよね。」
一人呟いて納得していた。
「そういう側面もある。だが、プブルの戦での才能は本物だ。彼がどこまでできるか見てみたくも思うのさ。」
自分の子供を見るようにカエサルは若きプブルを頼もしく思っていた。
「クラッススがプブルを生むのは、鳶が鷹を生むってやつですね。」
「違いない。」そう笑っている侍従2人を笑いながら流してカエサルは遠くの空を眺めた。
ポンペイオスとクラッススは今、何を思っているだろうか。
プブルを大洋沿岸の部族攻略に向かわせ、ガリア全土を視野に入れた動きを見せるカエサル。対するスエシオス族はガルバが逃げかえって反撃をするのだろうか。




