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カエサルの娘、ユリア

ポンペイオスがカエサルと縁を結ぶのはどうだ、と提案してきた。

だがカエサルは珍しく拒否反応を示す。

面白く感じたポンペイオスは強く縁故を結ぶことをすすめようとした。

カエサルの一人娘ユリアは美人で明晰な頭脳を持っていると周りでも評判だった。

父親に似たのかローマの貴族の血筋にしては線が細いが、豊かな髪を綺麗に結い上げて座る様は存在感にあふれていた。

カエサルの母で賢母と名高いアウレリアが一手にユリアを育てたことも影響している。

父であるカエサルは海外に逃亡している生活も長かったせいで少女時代のユリアはカエサルをあまりしらない。そして、物心ついたころから、10代の半ばを過ぎるあたりまで、浮ついた話の多い父を毛嫌いしていた。

それからアウレリウス・コッタ家の研究家気質を継いだのか、非常に学問を好み、同世代の少女たちと比較して圧倒的に社会情勢や法律に通じ、叔父のルキウス・アウレリウス・コッタとも政策議論ができるほどに育っていた。

カエサルはその一人娘を愛していたが、ユリアの気の強さ、賢さはあまり貴族の政略結婚には向かないと思っていた。ユリアの気の強さや好奇心を受け止められる穏やかな性格の青年を探していた。有力な元老院議員と政略結婚をしてもユリアの気性と知識によって破綻すると思ったからである。


そしてやっと決まった穏やかな性格の貴族の青年との婚約だったところへ、突然のポンペイオスから、カエサルとの縁故をもつためのユリアとの婚姻の申し出だ。


焦りながら否定するカエサルを見て、面白くなったのかポンペイオスはぜひユリアにあわせろ、と言ってきた。

「カエサル、私と君の娘は合わないか?」

「私の娘はお転婆でして、ポンペイオスが不快に思うでしょう。」

「女遊び、金の使い方で古今東西並ぶものなしのカエサルにお転婆と言われる娘か!」目が輝きだした。

「ぜひ合わせてくれ。もしあまりに手があまるようであってもそれは君のせいじゃない。」

断りを入れても食いつくポンペイオスを拒否できず、カエサルは珍しく心が沈む気分でポンペイオス邸を後にした。もはやポンペイオス、クラッススとの三者同盟設立はユリアにかかってしまった。


いつも明るいカエサルが珍しく沈んでいたので、帰りにジジとダインが話を聞いた。

ポンペイオスがユリアと結婚して縁故を結びたい、と言った、というと2人もなんとも言えない顔で肩をすくめながら見合わせて、会ってもらうしかないですね、とつぶやいた。



それから数日して、カエサルはしぶしぶ娘のユリアを連れてポンペイオスの別荘を訪れた。

20歳を越えたばかりのユリアは、少女から大人の女性に代わり落ち着いた雰囲気を持っていた。

見た目は麗しい細身の身体はひきしまっていたが女を感じさせる胸や腰はしっかりと出て、結い上げた濃い茶色の髪は輝いているようだった。

おしとやかにふるまいながら、ユリアはこの刺激的な時間を楽しむつもりでいた。

いつも明るい父のカエサルが暗い顔をして、「ポンペイオスがお前に会ってみたいそうだ」と言われたのを思い出して笑顔になった。


自分を見せることについても、カエサルゆずりの思考を持つユリアはよりよく見せるために歩き方や座り方にも気を使う。少しだけ腰を動かすように歩き、足を交差させることで自分がどれだけ魅力的に見えるか、も理解していた。ポンペイオスの前で自分を最も魅力的にみせてやろう。そう考えていた。そしてその魅力的な自分に見合うものを英雄将軍は見せれるのかみてやろうと思って。


カエサルとユリアはポンペイオスの待つ広間に到着する。

まずは父のカエサルが恭しく挨拶をしたあと、ユリアがポンペイオスと顔見せした。

挨拶をしながら、ユリアは美中年であるポンペイオスを見て一瞬見とれた。

ポンペイオスの気品に満ちた顔立ちよりも、英雄将軍と言われて自己満足の男ではなく、哀愁をも感じさせる雰囲気にユリアは自分の心が動くのを感じる。

「こんにちは、ユリア。私がポンペイオスだ。君の父のカエサルに相談して今日は来ていただいた。ゆっくりしていってほしい。」

「はじめまして、グエナス・ポンペイオス様、マーニュスの名を持つあなた様にお会いできることを楽しみにしておりました。」

完璧な対応を見せたユリアは、挨拶が終わるまで大人しくしていた。

ポンペイオスが話しかけユリアが答える。その間カエサルは大人しくしていた。

それを見たユリアが笑った。

「どうなされたのだ。」そう聞くポンペイオス。

「いえ、わが父カエサルが大人しく沈黙している様が珍しかったもので。」そう言うユリアは楽しそうにカエサルを見て言った。

「父さん、私とポンペイオス様、お似合いじゃないでしょうか?」

と振った。

カエサルは焦りながら

「ああ、そうだな。似合っていると思うよ。本当に。」

と笑って回答する。

思った以上に2人の話が盛り上がってほっとしていたところなのだ。

「ふふ、だそうですよ。ポンペイオス様。ポンペイオス様は私をどう思われましたか?」

婚約する若い女性からそのような質問をすることは、はしたないとされていたがポンペイオスは気にせず答える。

「ああ、さすがあなたは豪胆でならすカエサルの娘、心持ちがしっかりしているのは素晴らしいと思う。」そう素直にほめた。

それを受けてユリアは笑顔で、

「ありがとうございます。でも私はカエサルの娘と言われるのはあまり好きではありません。尊敬している父ですが、ローマ市内に鳴り響くほどの女ったらし、そして借金もち。本人は良いかもしれませんが家族としては女性としては共感できない部分も多いのです。」

そういって厳しい顔を作って見せて父を見て、ポンペイオスには笑顔を向ける。

「あはは、そうだな。女たらしとして有名な父だからな、あなたが納得できない部分でもあろう。」

「そうなんです。私は、結婚するのであれば私を一途に愛してくれる方がうれしいです。」

ユリアはあろうことか英雄将軍に対して自分なりの結婚観、そして結婚の条件になりそうなことを言い出した。

女ったらしの元祖、カエサルは自分の娘がこの場でなんてことを言うんだ、と言いたそうな表情をして娘を見る。

だがポンペイオスはユリアに対して嫌な顔はしていない。

「もう前の話になりますが私の母がなくなり、義母がきたのです。義母は悪い人ではなかったのですがある青年に好意を持たれてうわさされるようになったのです。」

「ああ、騒ぎになったのは覚えているよ。女神バナの祭典で起きてローマ中がそのネタで大騒ぎになったな。」

「ええ、そうです。信じられない事件だったのですが、義母と青年の醜聞に対して、わが父である女ったらしは「カエサルの妻たるものは疑うことさえあってはならない。」なんて言って離婚したんですよ。信じられますか?自分はあれだけ遊び歩いて愛人を囲いまくっているというのに。なんてことでしょう。」

と怒って見せる。

カエサルは何も言い返さなかった。あまりに苦々しい思い出を振り切って妻と離縁したことを思い出したのだ。

ユリアの言葉と苦々しい表情の顔を見てポンペイオスは笑った。

元老院でも議論をキケロやカトー、ホルテンシウスなどと向かい合って高度な議論をできるカエサルがここまでやられっぱなしなのも面白い。ユリアは美人なだけでなく痛快な女性だと思った。

ポンペイオスは笑いながら言う。

「楽しいなユリア殿。だが安心されよ。私はカエサルと違って女遊びで勇猛さを発揮するつもりはない。このポンペイオスは戦場において勇猛さを発揮する男だ。」

自信満々にそう答えた。

ユリアはその解答に満足しながらもさらに言う。

「私は、嫉妬深い嫌な女です。ですが、本日はポンペイオス様の本音を聞けてうれしいです。ぜひその矜持を持ち続けていただきたいです。」

「このポンペイオスに二言はない。」

不敵に笑うポンペイオスを見て、ユリアも笑った。

「すばらしいです。」

最後は父カエサルに言い聞かせるように言って、ユリアとポンペイオスの顔合わせは終わった。


カエサルが2人の意見を聞いたが、ユリアはまんざらでもなさそう。

ポンペイオスも思った以上にユリアを気に入ったようだった。しかしユリアにはすでに婚約者が決まっていたので、改めて婚約を解消してから再度婚姻について検討することで話しは終わった。


こうして内々で血縁を結ぶ方向で話がまとまる。

ついにカエサル念願の三者での同盟はなった。



道筋は全く想定していなかったが、カエサルが実現したかったことはできた。

ユリアとポンペイオスに圧倒された会を忘れようとして、カエサルは強がりながらジジとダインに言った。

「三者同盟はここに成立した。」

2人は笑いながらうなずく。

居心地が悪い主人はめずらしく言い訳を続ける。

「三者同盟が成立することこそが重要だったがそれは成った。さらに結果としてユリアに最高の夫になる人を見つけられた。」

強がりな主君の言い分を笑って聞きながらカエサルたちは次に向かって進んでいく。

ポンペイオスと顔をあわせたユリアは話をしてみてポンペイオスに好意を持った。

そして、闊達で賢い女性であるユリアにポンペイオスも好意を持つ。

良い方向に話がなり、3者同盟の成立を実現することができた。

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