レミ族防衛
カエサルの行動によってガリアの一部族、レミ族は同じガリアの者たちの攻撃を受けることになった。カエサルはどのように動くだろうか。
ガルバ率いる北部ガリア連合はレミ族の離反に怒りを見せた。
諸部族の者達はレミ族を滅ぼせ、と強い言葉を吐く。怒りを見せる戦士たちに対して連合軍の首脳は落ち着いていた。
だが、レミ族だけが離反したとして北部ガリアの連合軍がローマ軍に負けるはずもない。30万以上もの勇猛なガリア兵を有しているのだ。
事情を知る者達はローマ軍がレミ族の本拠地に現れたことで仕方なくローマの軍門に下ったという意見もあった。事実その通りなのだが、連合軍の士気にも関わる。ガリアの結束を示す意味でも離反したレミ族への対応は協議された。
「ローマ軍とたたこう主力、ローマについたレミ族をくだしちゃーよかろう。」
ガルバの案は直情的なガリアの族長たちを喜ばせた。感情に任せた戦術だったが北部ガリアの圧倒的な兵力で行うと十分な効果を生むと予想された。
ガリアの主力がローマ軍と対決姿勢で向かっていくなかで、別動隊は5万という十分すぎる兵力を持ってレミ族の町に襲いかかった。
レミ族の街はガリアの中でも守りの堅い強固な城壁を持っていた。それでも大軍に包囲されることで逃げ場も失いつつあることがわかった。
「俺たちだけじゃ守れねえ。なんでガリアの兵士が俺たちを襲ってくるんだ。」
街を守る首領はそう言って大至急の使いを出した。
「ローマ軍に連絡をしろ。奴らの味方になったせいで大軍に襲われるんだ。」
街を守るレミ族から救援の使いがユグニに届いた。
ユグニは躊躇することなくすぐにカエサルに連絡を取りレミ族の町を守るように依頼をした。
「カエサル様、我らの町が襲われています。勇猛なる我が兵士が奮闘しており、まだ町は陥落しておりませんが、ローマを支持したため襲われたのです。何とか助けて頂けないとレミ族の結束は緩いでしまいます。」
カエサルは族長の願いを二つ返事でその要請を受けた。
「レミ族の戦士たちの奮戦頼もしく思う。ローマは友を見捨てることはないということを見せよう。」そう言ってユグニに安心するように言った。
すぐにカエサルは近くにいる側近たち、傭兵団の団長を集めた。本当にその場にいた者達だけを集めて会議を始めた。
状況を説明して言葉を続ける。
「我らの友であるレミ族の町が襲われた。我々には彼らを守る義務がある。」
カエサルはユグニと共に集まった者達にそう言った。
とは言え、ガリアの主力が迫っているのも事実。予備兵力を含めても5万程度のローマ軍と30万近くいるガリア連合軍だ。
多くの将校はカエサルの言葉はパフォーマンスだと感じていた。主力を倒すだけで精一杯のはずなのだ。
しかしカエサルは違うことを考えていた。軍団長たちの後ろのほうにいた傭兵団を率いるもの達に声をかける。
「ベルトラン、お前が騎兵たちを率いてレミ族の町を強襲しようとする奴らを牽制してくれ。攻撃をかけて反撃を食らいそうになったら機動力を生かして逃げろ。」
「逃げて良いのか?主よ?」かぎ鼻、ギョロ目の小柄だが体格の良い男が細身の総督に聞き返した。
「十分だ。君たちの攻撃で街を攻める兵士たちは浮き足立つ。」
満足そうに笑っていう。
「だから下手に追いかけて一人でも無駄な兵を失う必要はない。城壁と騎兵に挟まれて敵はあわてふためくからな。街を落とせないと判断してそのうち逃げ去るさ。」
「それからバトゥ、お前たちは町を囲って攻める奴らを背後から遠距離で潰すんだ。敵が君たちを攻めてきたら同じく逃げろ。絶対に対決するなよ。倒せない敵が後ろにいると戦い続けることはできなくなるからね。」
素直に頷いた傭兵団の頭達はカエサルの言うことを理解したようだった。騎馬を駆ったり投石器などの遠距離攻撃を得意とする傭兵たちに撹乱させようという。それによってガリア軍の士気を下げるのだ。
「そんなことで街を守りきれましょうか?」
そう問いかけたのはユグニだった。
傭兵たちは自分達の出番が来たとやる気を見せてカエサルとレミ族の町を守るための策を検討する。カエサルの言葉に何度か質問をしつつも誰もが納得して自分の部隊にもどっていった。
「町は傭兵団の活躍と街を守る兵士たちによって守られる。」カエサルは傭兵団だけを送ることでレミ族を守れると思ったようだった。さすがにカエサルの腹心たちは、もっと兵力を向かわせなければレミ族の町が陥落する危険があると言ったがカエサルは結局傭兵団だけに任せた。
「しかし、奴ら傭兵だけでだいじょうぶですか?」
「もちろん!腕利きの傭兵たちが、自分達の晴れ舞台をもらったんだ存分に傭兵たちの長所を活かして暴れてくれるさ。そして北部ガリアの兵士たちを苦しめてくれるだろう。」
自信満々にカエサルは答えた後で思い出したように言う。、「傭兵たちの舞台とは別に我々は敵の本丸を叩くとしよう。」
そう笑いながら言う痩身の総督を見て自分にはどうにもできないことを理解したユグニは作戦がうまく行くことをひたすら祈ることにした。優しいが今まで負けたことがない総督の手腕を信じるしかなかった。
地平を覆うほどの大軍がローマ軍に向かってきているとの連絡を受けても、ローマ軍の大部分は浮き足立つことなかった。決められた通りに動き、大軍の動きが近づいてくる頃にやっと動きは慌ただしくなった。正確には新しい軍団は慌てていたが、すでに戦争をくぐり抜けた軍団は各自が与えられた役割をこなし続けていた。
そうして陣をしき、戦える体制を整える。
その間に傭兵団がレミ族の町を守りきったと報告が入り、カエサルはすぐに全軍とユグニに戦況を伝える。
ローマ軍の士気は最高潮になり、レミ族の長老たちはカエサルに感謝の意を伝える。ひとり、ユグニは複雑だった。部族の者たちがローマの助けに感謝をし、自分達を攻めた北部ガリアの部族に反感を持ったことでレミ族はガリア側に立って戦うという選択肢を完全に失った。どこまでもローマに付いていくしかなくなったのだ。
首を振ってレミ族の長は自分の気持ちを整理した。
「カエサルはローマ人でありローマの総督であるがそれ以上に一代の英雄である。ガリアやゲルマニアという民族の枠を越えて行くに違いない。私の判断は間違えていない。」
言い聞かせるように自分に向かって呟いた。
レミ族の街を守ることに動いたカエサル。
だが、その先には北部ガリアの連合軍との戦いが待っていた。




