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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
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アルプスの旅

ブザンソンで今後の方針を決めたカエサルは冬営のために属州に戻る。

しかも兵士たちを連れていくのではなく総督自ら隊商と一緒に交易ルートを旅すると言い出したのだった。

大男のダインは歩きながら、初めてカエサルと共に長い旅をした時を思い出していた。

その時はスッラから逃げていたはずだった。だがその旅に悲壮感はなく、楽しい旅になっていた。緊張する時もあったが、その旅路で仲間を得て、イタリア半島を脱出。アドリア海をわたり、サロナエに到着。

その時はサロナエまでが大冒険、のつもりだったが、そこからエフェソスまで旅をしたの。そこで落ち着いた下と思ったらレスボス島や隣国にまで足を伸ばし、戦争に加担したり、エフェソスでも好きに振る舞うカエサルに付いていくことで様々な経験をしたものだった。

もう大人になり、あのような冒険は内と思っていたし、ローマの政治の階段を駆けあがる主人をサポートすることで現実を受け入れ、昔の輝かしい時代を思い出す日々を過ごしていた。

それなのに、いまだに主君カエサルはあの時と同じ気持ちを持っているようだった。ローマでも大きな権力を持っていながら、喜んで冒険を繰り返す。

いつまでも少年のような探求心を持ち続けているのは良いことだと考えよう。

そう思って溜息をついて、それでも尊敬しているカエサルの面倒は自分が見なければいけないな、と思い今度の冒険は何をもたらすだろうか、と笑いそうになる自分を自戒しなおして道を歩き続けた。


ブザンソンからジュネーブまではローマ軍の大勝を受けて、いつもより安価にゲルマン軍の持っていた食糧や服などが通りすがりの街で売り買いされていた。しかし、ガリアでも比較的裕福なこの都市間のあたりではゲルマン人を奴隷として買い入れようとする動きが強く、ビチウが買える奴隷を連れていないことで落胆されることが多かった。カエサルは好奇心でガリア人に話を聞くと畑の作業に力のあるゲルマン人奴隷を開墾に使いたいとのことだった。

「荒らくれのゲルマン人であっても、首輪と繩を付けることで行動を制限し、食事と水でしつけをすることで半月程度で言うことを聞くしかない状況にできるのさ。」そう過去の経験をもとに語る地元の商人の話が印象的だった。人生を諦めるのはゲルマン人が早いと言って彼は笑っていた。

「ローマ人はしつけができないから人気がないんだ。あいつらはしぶとい。あきらめたようにみせかけて逃げようとする。だからローマ人は安値になるんだよ。」と笑って言う商人に、カエサルは笑顔を作ってその場を去った。

それを近くで聞いていたアリアはカエサルに言う。

「ゲルマン人が悪いってあんたは言うけどガリア人だって私たちに酷いことをしているじゃないか!」

「ああ、民族に関わらず酷いことをするやつはする。しないやつはしない。そういうことだ。」

「ローマ人だって格好付けていても奴隷に酷いことをするのだろう。」と奴隷の話でカエサルを責めようとする。

だがカエサルは気にする様子もなく、

「民族によって決まるのではない。人によって奴隷がどう扱われるか決まるんだ。そして、このカエサルの元にいる奴隷という身分の者に不都合を感じさせることはしない。」と自信満々に言った。

アリアはその言葉を聞いてはっとなる。

カエサルの奴隷にされてからも一度も酷いことをされたことはなかった。側仕えをしている大男のダインは同じく奴隷であるが、いつでも奴隷身分から解放する、とカエサルに言われては断っているという。

アリアは同胞のひどい扱いについてこれ以上カエサルを責める言葉を持っていなかった。

「捕まったゲルマン人の人たちがあまり酷い目に合わないようにしてあげれないでしょうか?」とカエサルに頼み込む。カエサルは笑顔で言った。

「ローマの覇権を認め、奴隷であることを受け入れることができたものについては、できるだけ良い主人に会えるように努力しよう。」

カエサルがそう言うと感謝の気持ちを込めてゲルマン人の少女は頭を下げた。


ジュネーブを越えると行き交う人の数が大きく減った。へドゥイ族もセクアニ族も含めてアルプスの険しい山を超えて行商をするものは少ないようだった。それでも道に雑草が少ないのは大型の隊商が馬や馬車を引いて旅するからだった。カエサルが通りたいと希望したのもこの交易路を旅して見たかったのだ。


アルプスのふもとからだんだんと上に登ってきながら、ビチウの声が響く。

「よーし、今日はここで休憩だ。休みをとる準備を行うぞ。」

指示が出ると奴隷たちを中心にテント作りが始まる。

カエサルたちは立てたテントの一つを借りていた。ビチウはガリア総督ユリウス・カエサル様の軍団長火一人からの依頼を受けて、たまたまブザンソンにいた行商人の卵であるガイウス殿をピアチェンツァまで一緒に旅してほしいというものだった。

ブザンソンでローマ軍がゲルマン軍に大勝したために、多くの資財を安く買い取れたビチウは運搬係が増えたとして喜んでその依頼を受けた。

「ガイウス殿は気さくで話しやすいし、旅も順調でいいねえ。」

少しきな臭さを感じなくもないが、あまり相手の深い事情を詮索してもろくなことがないと知っているビチウは任された仕事だけをこなそうと自分の馬を休める準備を始めた。


ビチウの一行とガイウスの一行は別々で食事を取り別々のテントで寝た。というのもほぼ男所帯のガイウスの一行(一人だけアリアという側仕えの女性がいた)と家族連れで配慮しようとガイウスからの申し出もあったためだ。

だが、それ以外は常に一緒で元貴族というガイウスの話は子供や女性にも人気だった。

ビチウは、ガイウス殿は人気者だな、という言葉でそんなに関心を持つことはなくただガイウスも含めて真面目に働き、かつ力持ちが多いことに感謝していた。

「この行商で生活に余裕ができる。子供たちに危険な旅をさせずにピアチェンツァあたりに住まわせてることもできるかもしれない。」と未来への希望を想像していた。

それからも旅はきつくはあったが人数も多いためか安全で平和な旅が続いた。

カエサルは、昼はビチウやその関係者と話をして、夜はアリアやザハの話を聞く日々を送りながらゲルマニア、ガリア、ローマの関係を今までにない視点で見聞きすることができた。


未来を考えながら隊商は多くの荷物を持って渓谷を超えて旅を続ける。

そして、ついにアルプスの峰にあるアオスタの街が見えてきた。

「安全な旅ができてよかった。」そう言うビチウに対して仲がよくなったダインは

「刺激がちょっと足りなかったですね。」と笑って言った。

「刺激なんていりませんよ。安全が一番。」とビチウが反論する。

「アオスタを通り抜ければアルプスも緩やかな下りになる。より安全になるでしょう。」そう言って旅の終わりを見据えて話をした。


ここまで来れば安心だ、と思ったビチウだったが、アオスタの街に入ろうとしたところでベテランで大柄な門番が剣をぶら下げながら、にやにやしながら行商の代表を呼べ、と言ってきた。

行商が山のような積み荷を持っているのを見て門番は笑って言った。

「街道の安全を守るアオスタの街に対しての感謝の気持ちをみせてもらおうか。」

ビチウは素直に懐から金貨を一枚出して門番の手に収めようとした。

「これでは人は通せても荷物は通せないな。」

と門番が厳しく言った。


交易ルートを問題なく旅していたカエサルたちだったが、アオスタの街に入るところで門番に止められてしまった。

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