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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
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カエサルの流儀

ガリアでの勝利を経て、カエサルは自分自身が考える未来を切り開くため行動に出た。

色付きはじめた広葉樹が束のように折り重なって人々が通った道に落ち始めていた。

昼も強い日差しは差し込まなくなってきて、旅人も服を一枚重ねて旅をする時期になる。

街道を馬や人が落ち葉で足を取られずに歩ける時期ももう少しで終わりそうである。もう1月もすれば

黄色、赤色、茶色、鮮やかな色に染まって道が落ち葉でかき消されるようになるだろう。


落ち葉が増えた道をぼんやりと見て考えながら痩身の総督は隊商に紛れるようにしてローマ街道とは違う、足で踏みしめられた土でできた細い街道を連れて進んでいた。


「どうしたんだい?ガイウスさん?」そう声をかけてきたのは行商人の代表だった。

考え事をしている瘦身の男を見て、後ろから声をかけた。

「いや、この街道を使えるのもあと少しかな、と思ったんだ。」

痩身の男は笑顔を見せて、行商人の代表を振り返る。

「へえ、よくわかったね。以前にも使ったことがあるのかい?」

「いや、だけど木々の変化を見ていると秋が深まると道がわからなくなるだろう?」

「注意深いね。確かに秋が深まると道がわからなくなって交易も難しくなってくるのさ。君は今回はアオスタからラベンナまで向かうんだろう、だが戻ってくる際にガリアに行くには冬を超えていないと無理だな。」

アオスタはアルプスの山々の間にある都市で、イタリアとガリアをつなぐ要衝でもある。だが勾配も急で道も細いため、ガリアへの商売や軍隊はもっと東側、マルセイユ方面のより平坦で安全な道を回っていくことが当たり前だった。そのため、ガリアは近くて遠い地域だったのである。

「やはり冬は通れないのかな?」

「アオスタでさえ山地にあって秋は落ち葉、冬はすごい量の雪があってままならないからな。もちろん、ローマ街道のような整備された街道があって、落ち葉や雪が除かれていれば、ある程度使えるはずだけどね。」

行商人としてヘドゥイ族やセクアニ族、そのほかの部族とも交流があり、アオスタの街も何度も通ったことがある商人の経験からなる言葉を聞きながら、男は相槌をうつように言った。

「そうか。荷物を運ぶには難しいね。」

「もちろん、人員があってキレイに道も管理されていればある程度の時期までは運べるだろけどな。ガリアと通商を続けるんであればそれかマルセイユを回っていくのが正解さ。」

そんな話をガイウスと呼ばれた痩身の男と小柄だが黒く焼けて精悍な顔をした行商人の代表と商売について話をしながら、ゆっくりと馬を進めていた。


旅を共にしているのは、行商人ビチウの一団だった。40人程度の商人たち。ビチウ本人とその家族及び親族が20人、奴隷が10人程度。それから貴族出身の行商人が使用人も含めて10人程度だった。

そのうちの一人、護衛の大男は憮然としていた。


相変わらず好き放題をする主君とブザンソンでの意見の言い合いを思い出す。

「絶対止めたほうがいいですよ。」そう強く言ったのはカエサルに長年仕える大男のダインだった。

「なぜだい?どちらにせよ属州総督としての役目を果たすためにイリリア属州まで赴く必要があるだろ?」不思議そうに言ってきたのは痩身の総司令官であり、イリリアを含む3つの属州総督だった。

「危険ですから。」とダインが言い、プブリヌスが頷く。

「整理しよう。プブリヌス、君は体調を崩したカエサルと共に、正規のルートを通って一部ローマ兵を連れてマルセイユを経由して、アンコーナから船でサロナエまで来てくれ。私たちはザハが見繕ってくれた隊商と一緒になってアルプスの街アオスタを経由してサロナエに向かうよ。隊商についていくから危険は少ないし今回はザハも一緒に動いてくれるから大丈夫だろう。」

「いやいや、待ってくださいよ。カエサル。あなたはローマの元執政官です。自分で現地を見るとかしなくていいんですよ。」そう言ったのはプブルだった。

プブルは軍団と共に冬季をブザンソンで過ごす予定だったが、司令官であるカエサルを送る名誉を賜っていたのだ。その軍団に司令官であるカエサルはおらず、自分たちだけで危険な山道を抜けたいと言ってきたのだ。

「なぜですか?」

副司令官のラビエヌスとプブルたち軍団長クラスでも一部の者と、カエサルの従者たちだけの話し合いが行われた時、実直な副司令官がそう聞いてきた。

「ガリアをどう扱うか。2つの戦いを通して私は考えた。そのどうすべきか、の最後の答えがこの行程にあるんだよ。」

「さっぱりわかりません。カエサル。」すぐにそう質問したのはプブルだった。プブルと同じ年の好青年でカエサルの遠い血縁でもあるデキムス・ブルータスは静かに頷いた。

「君たちが分かる必要はない。私を信じて、私の指示どおりに動いてくれればそれで大丈夫だ。」

「しかし閣下、私たちを納得させる理由であってほしいと思います。」そう言ったのはラビエヌスだった。

「そうだな、言葉で表現してみよう。」

そういって笑いながら話をはじめた。

「今回戦争で勝ったガリアはローマの支配下にすべき、と私は考えている。だがアルプスより北のガリアについては交易を行うにも難しいのが実情だ。実情を把握しながら最終的な調整を行うため、というのが今回の訪問の意図だよ。そして私は現地を見ることを大切している司令官だ。報告をしてくれる者たちが優秀なのは理解しているさ。だが私は自分自身でその地の空気に触れ、人々と会話をし、同じような食事を取ることも大切だと考えている。それがカエサルの流儀だ。」

「それであれば兵士たちとともに行けば良いのではないでしょうか?」真面目な副司令官が質問した。

「ラビエヌス、私は実情を見たいと言ったはずだ。ローマ軍の兵士たちを引き連れて見る景色はいつもの光景だろうか?」

「いいえ、失礼しました。」ラビエヌスにはカエサルの希望が伝わったのだろう。指摘を撤回するのも早かった。

「そう。今回の私は今後の政治的な策定を行うための重要な視察を内密に行うものと理解していてくれ。そして、サロナエに着くまでの行程を確認しつつ旅を続けよう。」

カエサルにそこまで言い切られて他の者たちは、わかりました、としか言えなかった。

こうして行商人に姿をかえた3州の属州総督カエサルとその追従の旅がはじまった。


副将ラビエヌスをブザンソンにおいて、一部の兵を連れてカエサルはイリリア属州の州都サロナエを目指す。その行き方は驚きを持って迎えられる。総督が隠密の旅をして兵士たちだけで向かうというものだった。この度でカエサルは何を見出そうとするのだろうか?

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