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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
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戦勝のあと

アリオヴィストスとの戦いに勝利したカエサルは戦後処理を行っていた。

ゲルマンの軍勢が敗戦して逃げ惑うゲルマン人たちの間で、傷も追っていない一部の兵士たちがいた。

そのうちの一人は背も高く体格も優れていた。旗を見るとどうも傭兵のようである。

彼らはゲルマン人が逃げるのを横目に途中から北部ガリアに向かって悠然と動いていった。遠くから見ても敗残兵には見えない。

「ヴェルチン、どうだった?」

「ゲルマン人って言っても大したことはねえ。俺の力には及ばねえよ。ローマ人なんてサルだな。」

ぶっきらぼうに言う若い男は体格もよくゲルマン人の中でも大柄と言ってよかった。だが彼はガリア人だった。そして美しい顔をしていた。

「強いのはゲルマン人だろう。だが、勝ったのはローマ人だ。俺たちの部隊は何できていない。ゲルマン人の間抜けたちが密集しすぎたせいで、敵と対峙して本来の力を出して戦う時間すらなかった。そのうち撤退ときたからな。」

そういって小柄なほうの男に向かっては自嘲気味に笑う。

「そこだよ、ヴェルチン。弱いのに勝つことができるローマ人の秘密は考えなくてはな。」

「ああ、せっかく傭兵になってローマを討ち滅ぼそうとしたのにアリオヴィストスの間抜けが負けやがった。」

「お前ならどうする?」小柄な男が聞いた。

「ユリウス・カエサルをどうするかってのか?」

「ああ、ガリアの族長会議は今回のことでカエサルに全く頭が上がらなくなっただろう。今後はカエサルの動向に族長会議は左右されるしかない。」

「なんでまた、あんなひょろいのがいいか不思議なんだぜ、俺は。」

「だが、カエサルは剣にも優れているというぞ。」

「勝てば良いんだよ。剣かを使えなくても、手を縛られていても、顎で敵の喉元を食いちぎってやるさ。」

「分かったよ、ヴェルチン。」

「しかし、仲間は増やしていかないとローマ軍には対抗できねえな。アリオヴィストスが負けるとは思わなかった。ゲルマン人の王の胆力、知略はガリアの誰も敵わねえものがあった。それを倒したローマの将軍様な本当の実力はどんなものだろうな?」

「運もあるかもれない、と?」

「いや、アリオヴィストスの前にヘルベテ族の大軍を倒しているからな。運ではねえだろ。単なる女ったらしの借金王ではないことが露になったと見るべきだな。」

「ああ、その通りだ。」

「だが、俺が軍を率いたら違う結果になっていた。だから、お前集めておいてくれ、ヴェルカッシ。」

有無を言わさない迫力で美男の大男は言った。

「わかった。だがまずは我らの一族の統一からだぞ。」

「わかってるぜ。ユリウス・カエサルか。やせっぽちめ。女と遊ぶことにおいても、殴り合いでも、戦争でも俺は負けねえ。」

そう言って美男の大男は笑いながら森の中をその体躯に似合わず静かに歩いて行った。

大男の後ろには何人もが続いていった。




ゲルマニアへの勝利を達成したローマ軍は再び多くの積み荷や奴隷を手に入れて、十分な休息をとってから意気揚々とブザンソンの街に凱旋した。

先日のガリア諸部族会議で、カエサルにゲルマン人からガリアを守るようにと提案し、ヘドゥイ族の族長に依頼した者たちは安堵し、大きな喜びを見せた。

ブザンソンにひきあげてきたカエサルたちは祝宴に呼ばれた。

カエサルと軍団長、そして幕僚たちが参加し、諸部族会議に参加した多くの部族もその祝宴に参加した。


「我々はアリオヴィストスと強力な軍隊の前になす術もなかったがローマの将軍カエサルが我らを救ってくれた。」

へドゥイ族の族長はそういって、近隣の部族にもローマ軍の力強さ、そして正しさを宣伝する。そして周りの皆が同意したのを確認して、「我らガリアの諸部族とローマの絆の強さに乾杯。」

そう言って乾杯を行った。

カエサルと参加した軍団長、幕僚たちには多くのガリアの族長や関係者が群がり、礼とその武勇伝を聞こうとする。

最も人が集まったカエサルのところだったが、演説と人ったらしの名手は、さきほどヘドゥイ族の族長が挨拶をしていた壇上の周りに人々を巧みに誘導して自分がそこに立って話を始めようとした。多くの観客が興味を示すが、すぐに話を始めず、皆を見ている。話をしないカエサルを見てじれったく思った人が動き出そうとした瞬間だった。

「今日は私たちの勝利を祝いに来てくれてありがとう。」

そう言うと皆から拍手があがり、誰もその場から動けなくなった。

「皆さんからの食糧の支援と場所の提供があったからこそ勝てた。ローマとガリアが共になってゲルマン人を退けたのです。」

ここまでは普通の挨拶だった。だがその後、カエサルの言葉にガリアの人々は刺激を受ける。

「ローマはゲルマン人に対して負けない。今回はそれを知らしめることができた。これからも勝ち続けることは容易に想像がつく。では、なぜローマは負けないのかだろうか?私たちの文明が優れているからだろうか?」

そう投げかけたところで、誰も返事はなくカエサルの次の言葉を待つ。

「文明が優れていても滅んだ国はいくつもある。文明が優れているから勝つなんてのは単なる幻想ですね。今回15万のゲルマン人の大軍を5万を割る兵で勝利できたのは、ローマ軍の組織の教育と司令官の教育、そして技術力が違うからである。もしあなた方ローマの友が我々の技術、知識を学びたいのであれば私は歓迎しようと思っている。そういった積み重ねがローマとガリアをより強いものにしていくでしょう。」

カエサルの挨拶は、ローマよりのガリアの族長たちに留学を検討させる気持ちにさせ、ローマと距離のあるガリアの族長たちになぜゲルマン人の大軍が負けたのかを考えさせることになった。


その後は人好きのする痩身の司令官は、挨拶にきたさまざまな人々と土地柄や各地の文化や風習などについても話題にして大きくもりあがった。

多くの民族の代表がカエサルと顔を合わせて、その人柄にも触れる。知的で寛容な人格を認めつつ、荒々しさを持つガリアの部族の者たちはその寛容さを、弱さと受け取る者たちもいた。

カエサル自身、ガリアの一部の者たちが未だにカエサルを軽く見ていることを知っていたが全く気にしなかった。

「2つも戦争に勝ったのに、カエサルを見下しているやつらがいることが許せません。」

そうプブルなど若手の指揮官は憤慨することもあったがカエサルは全く気にせず、

「彼ら自身が私とローマ軍を軽んじてみたいのは彼らの願望でもある。放っておきなさい。」

そう言って相手にしなかった。

ただ、やるべきことをカエサルはやっていた。

その祝いの席のうちにカエサルはブザンソンを統治するセクアニ族の族長と話をして、ローマ軍が冬営すること、その食糧はセクアニ族が責任を持って行うことを了承させた。

そしてローマの友と相応しい言動であった部族とそうでなかった部族を整理して表にさせた。

ヘドゥイ族やセクアニ族はローマに忠誠を見せていたが、半分くらいの部族は懐疑的だった。


ゲルマン人とともに動くガリア民族が一部で動いていた。

カエサルはその間にも次の動きを行っていた。

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