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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
55/69

オクセンフェルトの戦い②

3倍にもおよぶゲルマン人の大軍と合戦で勝負することになったローマ軍。

カエサルはどのような戦場を思い描くのだろうか?

「このままでは押し切られてしまいます。」そう近くにいた隊長から報告を受けた軍団長ラビエヌスは、少し高くなっている岩の上に素早くのぼり、戦況を再び見た。今まで戦っていた敵と同じくらいの数の敵が詰めかけてきているのが見える。

その勢いは強く、粗野で戦術を持たないと思われたゲルマン人たちとは思えないほど見事に、疲れた兵士たちの間を超えてローマ兵に向かってきている。

疲れた兵士たちが後ろに引いて、休むところまで見えた。

このままでは押されていく。粘り強いローマ軍の兵士といえども耐えられない。

そう思った先で、総司令官の深紅の旗が視線の縁に入った。

旗は少しずつ動いて兵士たちを叱咤激励しているように見えた。


ラビエヌスは、総司令官の意思を感じたように思えた。

すぐに降りて前線に大声を響かせる。

「ローマの兵士たちよ。持ちこたえろ。敵は今が最も勢いづいているだけだ。我らの辛抱強さを信じろ。総司令官を信じろ。」

兵士たちに声が通じたのか、忍耐強く新しいゲルマン人たちの攻撃を絶えている。

だが、先ほどまで攻勢で剣を振るっていた兵士たちは今や盾で自分たちを防ぐのが精いっぱいの状況になりだした。

ラビエヌスは全軍に一歩ずつ引くように指示した。

「盾をかかげて一歩ずつ下がれ、反撃までもう少しだ、絶え続けよ。」

軍団長の指示はローマ軍の兵士たちに徹底されていたが少しずつ前線は下がってきていた。


ラビエヌス以外の軍団長も同じだった。やっと敵を押し始めたところで敵の新手の大軍が来たことで兵士たちの疲れもピークに達しつつある。

「このままではやられる。」

今までゲルマン人にも互角以上に戦えると思っていた自分たちが、実は敵の手のひらで踊らされてきたのではないか、という猜疑心が芽生えてきだした。

だが、自信満々に翻るローマの総司令官の深紅の旗とその元にいる総司令官が全軍を鼓舞して回っているのが目に入って、何とか戦い続けることを継続しようという気になり、周りの者たちを励ました。

それでも、ローマ軍が瓦解する姿を誰もが感じつつあった。


突然、ゲルマン人の軍団が慌て始めて、さらに混乱に陥り、騒ぎが敵の左側から起きる。

多くのゲルマン人の軍勢が集まって特に集中していたところだ。だがローマ軍はすでに出す兵もなく少しずつ前線を後退させつつあったところだった。

「ぐわあ、敵襲だ。ローマ軍が攻めてきたぞ。」

敵の悲鳴や混乱が聞こえてくるなかで拾い集めれた言葉だった。


その言葉を聞いたローマの兵士たちが見たのは、ローマの騎兵隊が敵を蹂躙していく姿だった。

先頭には、騎馬の旗を掲げて切り込んできた騎兵たち。そして、少し幼い顔を真っ赤にしながら叫ぶようにして若きプブリウス・クラッススがいる。

カエサルからプブルと呼ばれ可愛がられてきた若き隊長は敵を屠りながら、左から右へとゲルマン軍全体を切り裂いていく。その横には大きな男が旗を背中に靡かせて槍をふるい、敵を蹴散らしているのが見えた。

「ゲルマン人どもを叩き潰せ。」

とローマの旗を掲げた騎兵隊が側面から敵を崩していくのが見えるとローマの歩兵たちは勇気をもらって、敵を倒しはじめた。

あれよあれよという間にゲルマン人たちの部隊は総崩れしていく。

もともと、前面が強い密集隊形が、敵を倒せそうだとして前のめりになっていたところを横から騎兵隊によって攻め入られたのだ。

しかも、ゲルマン側が総力を投入してローマ軍を押し切ってやろうとした前がかりになった、その無防備の横を狙われたのだ。

押し込み始めて前線を戦っていた全体が、疲れた兵士、新しく投入された兵士で混乱気味のところもあり、側面攻撃を受けたことで雪崩のように崩れていく。

痩身の総司令官は、手が白くなるくらいまで振っていた剣を握りしめて皆を鼓舞していた。ローマ軍が側面からゲルマン軍を蹴散し始めたのを見ると「よしっ、ここが最後の正念場だ、ゲルマン人たちをライン河の向こうに押し戻すぞ。」と言って自分もさらに前線に出てゲルマン軍の追撃に出るように全軍に指示を出した。


総くずれしたゲルマン軍は立て直すことができなかった。

疲れ切っていたローマ軍だが、騎兵を中心に崩れたゲルマン人を叩きつぶし、もともと統率力の弱かったゲルマン人たちの混成部隊はすぐに壊滅して兵士たちはちりぢりになって逃げだす。

少し前まで戦況を安心して見守っていたアリオヴィストスは、家族を逃がしながら、全体の立て直しを測ろうと、各族長に指示を出すが、族長たちもすでに逃げることに気持ちが行っていた。


一度流れが来てからは4万のローマ軍は粘り強く掃討戦を行い、ゲルマン人の多くが打ち取られた。大混乱の中で自分たち同士で逃げるために斬りあいや仲間に押しつぶされた者たちも多かったが、哀れなほど無秩序で無残な戦場になった。

ゲルマン人たちは、多くの自分の家族を引き連れて遠征にきていたが、彼らも慌てて逃げだす。だが、すでにゲルマン軍は壊滅しており、多くの人たちは逃げることができたが、一部にはローマ軍、そしてローマ軍が引き連れた傭兵隊などに捕まるなどした。

こうして、途中まで激戦であったローマ軍とゲルマン軍の戦いは、1日で決着が着いた。

勝利した喜びと追撃まで行った疲労で多くの兵士たちは疲れ切っていたが、3倍にも及び兵力を持つゲルマン人たちを撃退して、完膚なきまでに叩きのめしたことに誇りを感じることができた。


ついにゲルマン人を撃破したローマ軍。

ゲルマニア、ガリア、ローマは大きく動きつつあった。

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