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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
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ゲルマニア王アリオヴィストス

ガリアに侵攻をしようとするゲルマン人の王、アリオヴィストスとの会談が行われることになった。だが、すでに戦闘は不可避の状況になりつつある。

その日、カエサルとアリオヴィストスは少し小高い丘に準備された場所で会談を行うことになった。

アリオヴィストスからの指定で、互いに歩兵ではなく騎馬で集まった2人は、互いに騎兵を引き連れて丘に北、騎兵たちの大部分を途中で置いて互いに10騎のみを連れる。

カエサルの部下たちは騎兵での集合に反対したが、カエサルは、気にする風もなかった。

「1対1でも少々兵士がいても私は簡単にやられはしないさ。」

と総司令官は部下たちの反対を押し切る。

出発前、同じように心配する側仕えに対しても、

「この私を上回る馬の乗り手ものはどこにもいないよ。」

自信満々の主君を見て、溜息をもらしながらも心配する側仕えは、気を付けてください、と答えた。


小高い丘に騎兵を連れていき、丘の上の会談場所に着くと馬から降りた。カエサルは騎兵たちにも馬から降りて2人を引き連れて中へ入った。

すでにアリオヴィストスは同じく2人だけを連れて中で待機してカエサルの到着を待っている。

痩身の総司令官は、緊張した風もなく、優雅に、礼儀正しく準備された会談の場所を歩き相手に向かっていく。

「私はガイウス・ユリウス・カエサル。ゲルマニアのアリオヴィストスと話し合いをしに来た。」

「よくぞ来た。カエサルよ。私がアリオヴィストス。ゲルマニアの王だ。」

アリオヴィストスは、鍛え上げられた筋肉質の大きな体躯。そしてその身体に合った鎧をまとい、自信まんまんに痩身のローマ人を見て、軽く笑顔を見せる。

互いに礼をして席に着いたところでカエサルは直接、ゲルマン人の王に言った。

「この場を設置してくれたことを感謝しよう。互いの溝を言葉によって埋めることができればそれに越したことはない。」

アリオヴィストスにも異論はなくうなずく。

こうして始まった会談だったが、互いにその話の目的はすでに手紙のやりとりであったものの繰り返しの主張をするだけでありどちらも引く気配はなかった。

カエサルは、それでもしつこく話をする。

「アリオヴィストス、私が君に会って話をしたかったことは、新しくゲルマン人がガリアに来ないことだ。ゲルマンの地にはこれから開拓できる広大な土地もあるだろう。わざわざ危険を伴うガリアへの出征は必要ないのではないかな。それにヘドゥイ族その他のガリア民族から得た利益と領地の返却も必要だ。彼らはローマの友人であり、ローマは友人たちが手ひどく扱われることを許す民ではない。これが成されないようであれば、我らはゲルマニアを叩かなければいけない。」

「カエサルよ、その点についてはすでに返答している通りだ。我々はローマの領土を侵していない。ガリアについて言えば、そもそも彼らが我々に戦いを挑んできたのだ。そして負けた。負けたのだから敗者にふさわしく勝者に貢物をするのは間違えていないだろう。事実、ローマも戦いに勝つと多くの戦利品を得て、賠償金を得てきたじゃないか。繰り返しいおう、ローマの土地を攻めているのではない。戦いを挑んできたガリア人を撃退したのだ。それなのになぜローマが我らの進軍を阻もうとしているのか不思議でならない。だから私は元老院に問い合わせてみたよ。ローマはこのアリオヴィストスと戦いたいのか?と。」

「ほう、それで回答はどうだったんだい?」興味深くカエサルが聞き返す。

アリオヴィストスは笑って答えた。

「戦いたくないと言った。そして、ローマの法を守らず、理由もなくローマの領土外に兵を向けているカエサルこそ反逆者である、とね。」

反逆者、に力を込めて言ったアリオヴィストスに対してカエサルは微動だにせず返事をした。

「正当性では、このカエサルはローマの最高権力者である執政官を経てここに来ている。数多いる元老院の一人の議員の片寄った意見は間違えていると言うしかない。」

だが、アリオヴィストスも負けずに言った。

「一人ではないさ。30人はいるだろう。元老院の中でも重責を担っている者達が含まれている。カエサルと同じく執政官であったものもいる。そら、確認してみるが良い。」そう言ってアリオヴィストスはカエサルの目前で書を取り出して投げた。

カエサルはそれにも動じず、ちらっとだけ見て返事をする。

「その書面が正しいという証拠はあるまい。なぜなら字が下手すぎるからな。大方、我らの言葉を見よう見まねで書いたのだろう。」

「そこまで強情なのは残念だ。」アリオヴィストスは正当性の議論をあきらめて溜息をつく。聞き分けの無い家臣を優しく宥める王のように。そして再びカエサルを見た。

「お前の意見はわかった。カエサルよ。王である私が一時的に国家を代表する立場だったお前にチャンスをあげよう。私はガリアをものにする。奪い、侵し、蹂躙し続けゲルマンの民に力をもたらし続ける。この私と同盟し、お前の背中を狙っているローマの権力を確実に自分のものにしてみないか?」

「なんだと?」

「お前はローマのお前に敵対する者たちを討ち滅ぼしローマの王になるんだ。そして私がガリアを抑える。なんなら私の兵を少しお前に貸しても良い。私の兵力は15万にも達する。すべての兵力が集まれば30万にもなるだろう。」

その提案をカエサルは耳にしながらアリオヴィストスの眼を見る。

アリオヴィストスはさらに話を続ける。

「そもそもローマの兵士は4万足らず。我が大軍の1/3にも満たない兵力だ。我が軍の暴力的な力を前になすすべもなく破れさるだろう。大方ガリアの腰抜け族長達に担ぎ上げられて来たのだろうが、ガリアのためにローマ人のお前が尽くす必要もないだろう。私の軍門に下り、共に行こうではないか?」

そうしてアリオヴィストスは大きく笑いながらカエサルを見た。

カエサルは、鼻で笑いながら言った。

「このユリウス・カエサルが、ローマを裏切ることはない。私こそが信義を大切にするローマ人の中のローマ人であるからだ。そして、この私が率いる兵は立ちはだかる敵を打ちのめし続けるだろう。それがどんなに多くの敵であってもだ。」

2人は互いに視線を合わせた。

「それでは私の案を断った自分を死ぬまでの間、呪うが良い。」とアリオヴィストス。

カエサルは気にした風もなく、

「これ以上話し合っても歩み寄りは無さそうだ。」

そう言うと会談を終わらせてその場を去って行った。

アリオヴィストスは素早く兵に動くようにいい、カエサルは近衛として連れてきた第10軍団の兵士と共に席を発った。

予想通り、物別れに終わった会談。

ローマとゲルマニアは自分の主張を貫くため、戦うことになった。

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