下準備
ゲルマン人の王、アリオヴィストスとの対決が日に日に近づいてきている。カエサルは準備を整えている。
騎馬の紋章を団旗に掲げるローマの第10軍団は、興奮とやる気に満ちていた。百人隊長まで参加させたカエサルの会議によって、一般の兵士にまでまたたく間に軍団全体に最高司令官の気持ちが伝わっていた。
ガリアに来る時から最高司令官の時に無茶な指示と思われた高速移動にも文句を言わず忠実であった第10軍団は誇らしい気持ちと、今後も何があってもカエサルについていく気持ちになった。
カエサルに率いられている他のローマ軍の第7軍団から第9軍団、そして私設した第11軍団と第12軍団は第10軍団と比べられて自分達がカエサルへの忠誠心、やる気で劣っていると見られたことに、恥辱を感じ、第10軍団を超えてやる、とやる気を漲らせた。
カエサルは自分で兵士たちを見てまわり、さらにジジやダイン、プブリヌスからも全員のやる気が非常に高まっていることを確認する。
そして、その全軍の勢いを生かすため、アリオヴィストス率いるゲルマニアの軍勢のすぐ近くまで一挙に詰めよった。
ゲルマン軍のいつものやり方であるが女子供を連れてゆっくりと全軍を率いて来ていたアリオヴィストスは、ローマ軍の進軍の速度に驚いたがそれでも落ち着いてカエサルに使者を出した。
「カエサルがわざわざゲルマニア軍の近くまで参ったのであれば、会談を設けても良い。」と、連絡をしてきた。そして、会談の条件は細かく指定されていた。
「何で今さら会談をしようと言ってくるんですかね?」とダインが質問した。
「お互い、戦争をする理由は相手にある、と、言いたいんだよ。」
「でも、すでにアリオヴィストスの野郎はカエサルと戦う気持ちが一杯なんですよね?」
「まあね。」
「私には分かりませんねー。しかも、歩兵ではなく騎兵のま引き連れることを可とさる、というのもよくわかりません。」と諦めたように言うダインを笑いながらカエサルを見た。
主は、特に気にした風もなく、ローマ軍の配置を眺めている。
「ゲルマニアにも一定量の反戦争派がいるんだろうよ。会談を騎兵のみと制限したのはローマの歩兵の強さを恐れているからだね。」
「ローマの歩兵の強さを理解しているんですね。なのに戦いをするのが不思議です。それよりも反戦争派の人たちとうまく連絡を取れば、平和に進めるのではないですか?」といつもより少し食いさがってきている侍従に対してカエサルは回答しつづける。
「いや、アリオヴィストスが実権を握っている時点で、平和主義の者達は少数派だよ。一度ゲルマン人を叩くと言うことは変わらないね。」
「ダイン、もしかして怖いのですか?」
素直なジジの突っ込みに、勇敢なカエサルの側仕えである大男は首を左右に振って否定した。
周りの者達は笑ってそれをみる。
「ダイン、今度の戦いでは私は最前線で皆の活躍を見るつもりだ。だけど、後方にいて良いよ。」
その一言でやる気に火のついた大柄な側仕えは、
「カエサルが最前線に行くのなら、必ず付き添い、盾と槍を持って総司令官を守ります!」
そう言い切った。
だが、結局ダインの言葉は実現しなかった。
アリオヴィストスとの会談の前にカエサルはすぐに戦争になることを見越して、全軍に作戦を指示する。
まずは、カエサルに忠実な第10軍団の中の精鋭達を乗りなれていない騎馬に乗せる。騎兵の多くはガリア人が多かったが、最も信頼できる兵士たちを連れていくためである。こうしてアリオヴィストスとの会談に向かいながら、その間も残った部隊は迎撃体制を準備した。
各軍団は並列に並んで敵と対決しやすい少し高台になる場所に陣を張った。そして軍団を並べるとともに陣を作っていく。ローマ軍の優れているところは、少しの停泊でもしっかりとした陣を作るところである。ここでも敵が攻めてきても苦労しそうなくらいに念入りに陣を作り上げていった。さらにプブルに騎兵団を率いる騎兵隊3000騎は、カエサルの命を受けて、迎撃体制を整えている主力の軍勢の横に友軍という形で残った。
大柄なカエサルの側仕えの青年は、馬乗りの天才であるカエサルに付き従って生活していたため、馬乗りも全体の兵の扱いについても他のローマの兵士と比較にならないほど理解をしていた。そこで、騎兵隊を率いるプブルがカエサルの考えをよく理解しているダインを補佐に欲しいと言ってきた。
カエサルは今回だけ、ということで許可をしつつ、ダインにも話をした。
「ダイン、お前は解放奴隷だし、もう立派な大人だ。プブルから補佐役としてきて欲しいと言われているが、これを期に独り立ちするかい?」と素直に聞く。
「やめてください。私はカエサルの側にいるのが一番いいんです。」少し不満そうにそう言った。
「もし一人立ちするのであれば、ローマに家を手に入れて妻を娶って自分の人生を歩めるんだよ?」
「私はこれからカエサルが成すことを私は手伝いたいんです。」
そこまで側仕えに言われてカエサルは笑顔で答えた。
「私はダインにもジジにも皆に愛されているね。」と言って笑う。
結局ダインは今回に限り、プブルの補佐に回った。
プブルはそのまま自分の補佐に居てもらいたかったが、ダインの言うことも理解して笑って今回のみの補佐をしてくれる側仕えに感謝を伝えた。
陣を整え、会談の後にすぐにでも戦える準備をしたローマ軍
ゲルマン人たちとどのように向かい合っていくのだろうか?




