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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
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ブザンソン、カエサルの演説

ローマ人を遥かに超える体躯を持つゲルマン人とついに対峙する時が近づいてきた。

しかし、ローマ軍団は、ゲルマン人と戦うことに対して腰が引けてきていた。

ブザンソンを囲うように陣取ったローマ軍は数日の休息をとる。

強行軍を実施して疲れたローマ軍は、食糧を十分に手に入れて肉体を休めることができた。

だが、休息の間にゲルマン人とも取引をしているセクアニ族の商人たちからゲルマン人の強さを聞かされて兵士たちの恐れは限界点に達してしまっていた。

ローマ軍の中ではゲルマン人への恐怖と最高司令官であるカエサルの戦略に不満が募っていく。カエサルがアリオヴィストスと手紙のやり取りをしていることも臆病者であるとして、最高司令官は自分たちを置いて逃げるに違いない、などのうわさが流布された。

いつ逃亡者が出てもおかしくない、という状態になった時、カエサルから全隊長に集合の声がかかった。




いつもは、部隊長以上の者しか参加しないカエサルからの戦略、戦術の会議だったが、その日は違った。

部隊長のさらに下の階級である百人隊長全員まで参加するように総司令官から指示された。

およそ500人にも上る隊長たちを集めたカエサルは、準備された壇上にあがり、皆を見る。

そして、全員が注目しているのを確認してから演説を始めた。

「今日、ここに集まってもらったのは、君たち一人ひとりに私の考えを知ってもらうこと、そして兵士たちに伝えてもらうために集まってもらった。私の説明を理解したら皆に伝えてほしい。」

そう言って始まった演説だったが、最初のやんわりとした口調の次に叱責がきた。

「戦場において、最高司令官である私の戦略を批判するのは間違えている。特にここに参加してもらった諸君のように責任のある者たちの振る舞いではない。ヘドゥイ族にもあれだけの兵力差。3倍以上の兵力差を覆して圧倒的に勝利した私を信じずに何を信じるというのだろうか?ゲルマン人には剣が通らないという迷信か?それとも私以上に今の状況を詳しい者がいて、君たちにローマは勝てないという話を勇敢な君たちが信じてしまっているからだろうか?」

少し間を置き、カエサルは遠くから近くの隊長に視線をあわせながら言う。

「最高司令官の責務を私が放棄して君たちを死地に陥らせているとでもいうのだろうか?」

目があった隊長は慌てて首を横に振った。

カエサルは改めて自分の指揮を信じるように言った。

その信頼する根拠の一つとして、カエサルはゲルマン人の動きを把握していることを説明する。

それから、最も問題になっていたゲルマン人の体躯、戦闘力についてカエサルも具体的に話をはじめた。はじめは総司令官の演説にあまり耳を傾けていなかった者たちも気が付けば耳を傾けていた。

「ゲルマン人は我々よりも大きく、体格が良い。戦闘力もあるだろう。だが、そのゲルマン人もガリア人に負けたことがあるし、我らの祖父の時代にはローマ軍も打ち勝っていたことがある。彼らは瞬間の力は優れているが、耐久力や忍耐力に弱い。ひと振り目の斧は鋭いが、二振り目は我々と同じ。三振り目はへばっているだろう。なぜ彼らはそうなのだと思う?」

辺りを見て、全員が総司令官の言葉を待っているのを感じて再び続きを言う。

「彼らには信念がないからだ。彼らはローマのような先祖や家族への愛、ローマであることの誇り、を持っていないからだ。だから我々は我々の長所を生かしながら戦えば必ず勝てる。そしてその戦略は私が君たちに授ける。」

そういってカエサルの演説により隊長たちの気持ちは高まっていった。

多くの隊長たちは、カエサルの言葉の一つ一つに共感して頷いていく。

そして、カエサルはさらに話を続けた。

「ここからは出陣の時に言おうと思っていたが、今皆に伝えておこう。」

皆が総司令官の言葉を待つ。

「私は、明日の明け方に陣を引き払う。お前たち自信の勇気と誇りが勝つか恐怖に負けるかを試すためである。もしも付いて来る者が誰もいなくても私は第10軍団を引き連れて行くだろう。第10軍団であれ忠誠心に疑いはない。だから私は第10軍団を私の近衛軍団と決めた。」

言葉の途中から隊長たちからどよめき、歓声、そして、拍手と自分たち自身を勇気づけるような足を踏み鳴らす音が聞こえた。第10軍団と言われたとき第10軍団の者たちが集まるほうから一段と大きな歓声があがった。

最高司令官の演説が終わり解散されてから、第10軍団は即座に最高司令官に自分たちの忠誠を信じてくれた礼を伝える。そして、それ以外のすべての軍団は第10軍団に負けていられないとして、反省の使いを送り、全員がカエサルに従うと宣誓した。


「さすがです。全部隊のやる気を引き出しましたね。」とジジがカエサルを褒める。

「第10軍団ができるなら俺たちだってできる、という気持ちが沸いてくるんでしょう。さすがカエサル様ですね。」とプブリヌスも笑って同調する。

褒められた最高司令官は、してやったりの顔をして、何も言わずに酒で喉を潤している。

「さすがの人ったらしですよね。本当に人を好きなように操ってしまう。怖いなあ。俺もカエサルに操られているんでしょうね。」とダインが言葉を選ばずにいうと周りにいた者たちも笑った。

カエサルは笑顔で、良い感じになったな、と笑いながら、しっかり撤収の準備をしよう、と皆に言った。


少しして、プブルが息を荒げて最高司令官の幕舎に入ってきてカエサルを見つけるなり、叫ぶように言った。

「すごかったです、カエサル。」

その一言を言ったら、読書した本など荷物を片付けているカエサルの横にきて口を開く。

「あれだけ皆が逃げ腰だったのが、今や全員が一人でもゲルマニア軍に突撃していきそうな雰囲気になっています。」と興奮気味にカエサルに状況を伝える。

「そうか、それは良かった。だが興奮しすぎて眠れない、なんてことにならないように気を付けてくれ。後片付けもね。」

「はい!」プブルもやる気がみなぎっている様子だった。

こうしてカエサルの演説で、やる気を漲らせたローマ軍は予定通り夜明け前にブザンソンを後にして、ゲルマン人たちのいる東へ向かっていった。


ローマ軍団のモチベーションは上がった。

カエサルはこれを利用して、ゲルマン人との対決に向けて動き出す。

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