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偉大なる将軍の意向

門閥派に対抗し、自分が執政官となるためにカエサルが動いた。

クラッススを説得することはむつかしいことではなかった。

次にポンペイオスを説得に動く。

クラッススと話しをした翌日の朝、カエサルは白い馬を駆り、自分の従者であるキロ、ダイン、数名の仲間を引き連れて、ローマ郊外にあるポンペイオスの別荘に向かった。

英雄として迎え入れられてから1年が過ぎてポンペイオスは別荘に住み、ローマに顔を出すことはなくなっていた。情報組織エピステラに頼むまでもなく、ローマ市民たちも知っている有名な話だった。


朝早くにローマを立ち、朝のうちにポンペイオス邸にたどり着いたカエサルは、自分が先頭に立ち声を上げる。

山の麓にある別荘はすでに使用人たちは働いているが靄が立ち込めている。

門に来るとカエサルへ声を張り上げて言った。

「ポンペイオス。ポンペイオス・マーニュス。ガイウス・ユリウス・カエサルが来た。あなたと話をしたい。会ってもらえないだろうか。」

直ぐに別荘の使用人たちが出てきて、カエサルたちを個室に連れていき待機させた。

それから少しの時を経て、従者達を置いてカエサルだけ使用人の中でも格の高いだろう男性に別の部屋に連れていかれる。

その部屋は広く、明るくなっていた。調度品が邪魔にならない程度に置かれており、オリエント風の置物と、明かりが部屋を暖かく照らす感じだった。

その真ん中に、くつろぐように横たわる男が見える。

使用人はカエサルを案内して男に言った。

「ポンペイオス様、ガイウス・ユリウス・カエサル殿です。」

男は、ゆっくりとカエサルに向きを合わせて眼を開く。

うすらぼんやりと開いた眼でカエサルを確認して

「やあ、ガイウス・ユリウス・カエサル。久しぶりだな。」

「偉大なるポンペイオス、久しぶりです。」

そこでカエサルは言葉を止めて、ポンペイオスをじっと観察している。


横たわったままのポンペイオスはカエサルが何かを話すのを薄く開いた眼で待っていたが、カエサルが何も言わないことに気づいて声を発した。

「君は今日、私に話が合って来たのではないのかい?」

「ええ、話をしたいと思って来ましたが、どうやら話を聞いて頂ける状態ではなさそうだ。」

ポンペイオスの身体は少し赤みがかっていて、偉大な将軍はだらしなく横たわったまま。ほどよく酔っているのだろう。酩酊しているのかもしれない。

「今日は久しぶりにあえたことを喜んで退去いたします。また日を改めましょう。」

そう言って立ち上がろうとしたカエサルの手をポンペイオスはとつぜん起き上がり荒々しく止める。

「待て待て、せっかく来たんだ、話せよ。色男。要件くらいは聞こうじゃないか。」

「私は、私たちにとって重要なことを相談しに来ました。しかし、あなたは今日はしっかりと話を聞ける状態ではないようだ。酔っぱらっている。日を改めましょう。」

「この私が、少しよっばらっているから、君の話を聞くこともできないだと?そんなことはない。話をしてみろ。」と酔っ払いは強く命令口調で言う。

「いいえ、私とこれからのローマを掛けた話を、酔っ払い、朦朧としている者に話すわけにはいきません。」カエサルはその口調に威圧されることもなくさらっとかわす。

酔っ払いは目を閉じて、それからあきらめたように嘆息して言った。

「ふん、そこまで言うなら少し待っていろ。顔を洗ってくる。」

再び沈黙が訪れた。




ポンペイオスは、カエサルに顔を洗ってくる、待っていろ、と言って席を立ち顔を洗い、奴隷に身支度を整えさせながらカエサルの前に再び表れた。

その間カエサルは使用人が出す飲み物、食べ物を軽く口にしながら、主人は昨日は宴を催したのか、と聞いた。使用人は、主人は外出して夕食を済ませて帰ってきたことだけを伝えた。

使用人はそれ以上何も言わずに席を離れて、代わりに召使を傍に送り込んできた。

召使と少し話をしていたカエサルのところに、ポンペイオスが表れる。

酔いを醒ましたポンペイオスは服も着替えて、眼も冷めた状態で、冷ややかにカエサルを見た。

「これで良いだろう。カエサル。では君の話を聞かせてもらおう。大した話ではなかったら許さないからな。」

「ありがとう。ポンペイオス。」

礼を言い、一息吸ってカエサルは話をはじめた。

「ポンペイオス。私は来年の執政官になります。そこであなたが元老院に抵抗されて実現できていないいくつもの法案を制度化してみせましょう。」

「なるほど、その代わり私は君が選ばれるように支援する必要がある、というわけか。」

それくらいは想像がつく。そんな感じの反応だった。

「いいえ、それだけではありません。」

「ではどういうことだ?」

「私は執政官になる、という目的のために動いてはいません。今のローマをもっとよくしていきたい。そのためにあなたと長く同盟を組みたい。我々が同盟を組むのは、執政官に就任して終わりではなく同盟によってさまざまな取組を行い、そこから元老院とローマ全体に影響を与え続けるのです。その一つがあなたが反故にされている条約の締結や兵士たちの恩賞の実現なのです。」

怪訝な顔をしてポンペイオスが聞き返す。

「そんなに変わらないのではないか。そして私たち2人が手を組んでどこまでの影響力を与えられるか疑問ではないか?影響力かを低いならメリットはあるとも思えないな。そもそも君が私を裏切らないとも限らない。」

と切り捨てるように言った。

そして、笑いながらさらに言う。

「カエサル、私に目をつけるあたり、君も悪くないと思うよ。私の影響力は大きい。兵士たちや市民たちに支持されている。だがそれでも元老院を動かすほどではない。」

ため息をつきながらさらに話す。

「ところで私は昨日、キケロと夕食を一緒にした。キケロに誘われて有名なルクルスの晩餐に伺ったのだ。その意味が判るか?」

先ほどの使用人の話したことはこれか、とカエサルは話を聞きながら考える。門閥派のキケロが先に手を打ったということか。昨日話をして門閥派との仲を取り持ってもらえそうとなるとポンペイオスはカエサルの申し出を断る気なのだろう。

門閥派の重鎮であるルクルスは食事に信じられないほどの金を賭けて優雅な生活を楽しんでいると有名だった。そのルクルスと中の悪いポンペイオスの仲を取り持ちつつ、ポンペイオスを門閥派に引き入れるきっかけづくりにキケロは「ルクルスの晩餐」に連れていったのだろう。

この一年、面目を潰され続けてきたポンペイオスにとっては門閥派につながるチャンスであり、ルクルスにとっては不快な後輩に自分の権威を見せつけるチャンスだった。

キケロの機を見る目に感嘆しながら、カエサルは瞬時に次の一手を模索した。


「ルクルスの晩餐ですか。それは羨ましいですね。どのような食事でしたか?」

「ありとあらゆる幸が品良く調理されていた。正にあれこそ世界を手にしたローマの、貴族の中の貴族が楽しむ晩餐なのだろう。仲の悪い私とルクルスが共に笑顔で話し合うほどに。」

「それは素晴らしい。私もいつか伺いたいものですね。」

「君もぜひ味わってほしい。」

そういってポンペイオスは言葉を続けた。

「その帰り道、キケロから門閥派と私の間を取り持つと話をもらった。門閥派も私と距離を置き続けるのは諦めたようだ。」

自信を取り戻したポンペイオスがカエサルにに言いきった。

「私は門閥派が手を取り合う時が来た。」

話は終わった、そう感じる言い方だった。

「残念です。」

カエサルは一言そう言った。

ポンペイオスと門閥派がすでに関係修復に動いていた。

カエサルの構想ではポンペイオスを味方に引き入れることは必須。

カエサルはそのための打開策を練りだしていた。

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