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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
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アリオヴィストスとの交渉

ガリアに侵攻してきているゲルマン人の王アリオヴィストスとのやりとりを続けるカエサル。

互いの主張は合わないままに、時間はすぎてきていた。

「うーん、この表現力にアリオヴィストスの限界を感じるね。」

そう言いながら手紙を他の仲間たちに渡してカエサルは笑って言った。

他の者たちは一読して怒りを露わにした。

「まるで、ローマがカエサル殿を不要というような物言いで断じて許せません。昨年はローマの民衆が期待する農地法まで成立させたカエサル殿に対してですぞ。」

そう怒りを見せる古参の民衆派の司令官に同調するように、幕僚たちは怒りを表した。

アリオヴィストスに繋がっている元老院議員を捕まえるべきだ、と。


怒ることも理解できる。

ローマの正規の手続きを通してきた総督のカエサルを裏切り、ゲルマニアと繋がっている者たちに腹を立てているのだろう。

カエサルは葡萄酒を呷って彼らをなだめるように言う。

「私が急にローマの中枢で力を持ったから、もともと権力を握っていた門閥派などは排除したがっているだろう。」

「ですが・・・」

「だけど、元老院のほうは放っておこう。」

「よろしいのですか?」

「彼らが実際アリオヴィストスと連携しているか、それともアリオヴィストスが勝手にそう言っているだけなのかわからない。一つ言えるのはゲルマン人の王の情報収集能力はなかなかなものだね。」

そう言って認めるべきところを認めたカエサルだった。

「おっしゃるとおりです。」

「それよりも、アリオヴィストスとは一戦しなければならないだろう。私の力を見せなければ彼は引き下がらないようだ。ついでに彼を倒せば元老院の反乱分子も何もできなくなる。」

「なるほど。」カエサルの考えに一部同調の意見が出た。

「しかし、戦いで決したいと思いますが、現状では尻すごみしている者たちもいて戦える状態にはありません。」

そっと言ってきたのはラビエヌスだった。カエサルの同年配で経験豊富な総司令官補佐は、苦々しい感じでそう言った。その言葉を聞いて司令官たちのうち、視線を泳がせた者たちが何人かいたがカエサルは気にせずに言った。

「これ以上手紙でのやりとりも無益だ。アリオヴィストスと直接交渉をしよう。どちらにせよ戦いになると考えて司令官である君たちは軍団の士気を高めてくように頼む。」

司令官たちはカエサルに対して、了解しました、と姿勢を正して言った。

それを見てカエサルはラビエヌスだけ残って後は解散させる。


「カエサル閣下、やはり司令官たちの半分はゲルマン人に怯えている状況です。このまま戦闘に入ることは困難だとおもいます。」

「私もそう思っているんだ。」とカエサルはにんまりと笑って副官の杯に葡萄酒を注ぎながら言った。

それからラビエヌスに座るように促して自分も座って言う。

「まだ戦うとは決まっていない。カエサルがその決断をしないかもしれないと思っている司令官や兵士も多いだろう。だが私は戦ってアリオヴィストスとゲルマン人を壊滅させるつもりだよ、ラビエヌス。」

「そのつもり、なのは私も感じていますが、今の我々の兵士のやる気は、ゼロに近いです。」

「そうだね。だが今私が手を打って皆のやる気をあげても、数日もしたら再びゲルマン人に対しての不安がよぎってくるだろう。まだ軍勢がいるかどうかもわからない状態だからね。だから敵と相対する直前に彼らの勇気をふり絞らせようと思っているんだ。」

カエサルには何か秘策があるようだった。有能な副官は、それを確認して葡萄酒を一挙に呷る。

「何か考えがあるんですね、であれば私からこれ以上言うことはありません。」

「ああ、任せてくれ。」

そういって2人は簡単に会話をして別れた。


こうしてローマ軍の全体の方針は決まった。

軍団司令官の配下の中にはまだ若い貴族でカエサルとのつながりで抜擢された者も多かった。彼らは見たこともない強大な敵と対峙する恐怖を感じていた。

プブルはそのうちの一人であったが、カエサルと個別で話をしたことでゲルマン人への恐怖を払拭することができていたが、仲間たちが腰砕けになっているのを見て、これでは戦闘にならないのではないか、と焦りを感じていた。


カエサルは従者として各軍団を回ることが多いジジにも意見を聞いた。

「実際、なんとか逃げ出さずに踏みとどまっている状態、だと思います。」ジジは自分が見た感想を述べる。

「逃げ出さない、というのは大切なことだね。彼らを踏みとどまらせているのはローマ人としての誇りだろう。培ってきた誇りの素晴らしさを感じるよ。」

笑いながら言うカエサルには余裕が感じられた。

「そうですね。しかし、すぐにでも瓦解しそうな状態です。プブル殿は自分で幻想の敵を打ち破ったようですが後の若い司令官たちは隠れて逃げてしまいそうですね。」と素直に自分が見てきたことを伝えた。

「さきほど新しい情報が入ってきて、ゲルマニアで新たな軍がライン川の対岸に集結しつつあるらしいんだ。」

「それは一刻を争う自体ですね。」

「そうだろう。そろそろ限界点は近い。」

ジジは、冷静に他人事のように言うカエサルに、危機感を持ってほしいと少し語気を強めて言った。

「現在のゲルマンの軍勢に、新たな軍勢が加わると、まずそれを引き入れているセクアニ族は彼らの側に立つと思われます。」

「セクアニ族か、前回のガリア部族長会議でもゲルマン人を討つことに賛成しなかったようだね。さて・・・だが彼らが全面的に敵に回るのも避けたいな。」

そこへ、ガリアの一般市民のようなくたびれた壮年の農民のような者が、カエサルの部屋に入ってきた。

「カエサル様、情報部のビブロです。」

「よく来てくれたビブロ。ゲルマン人の最新の情報を教えてくれ。」

ビブロと呼ばれた農民風の男は、顔をあげて話をしだした。服装は農民のようだがその話は明確だった。

「ゲルマニアのライン川沿いに集結している新勢力は10万を超えると思われます。ゲルマニアのかなり広範囲からガリア、ローマを侵攻するために兵士を募っているようです。あちらも戦闘をする意欲が高いと思われます。」

「なるほど。さらに追加で10万のゲルマン人か、アリオヴィストスの持っている10万以上の兵、それにセクアニ族が5万ほど、となると25万という大軍だな。」

「今、集結しつつある数のため、ガリアまたはローマと事を構えて侵略するとなるとさらに増えるかもしれません。」

「新しい軍勢はもう動き出しているのかい?」

「私が見てきたときはライン川渡河の準備のため、木を切り倒し始めていました。それから約1週間かかっています。」

「わかった、情報をありがとう。では渡河を開始していてもおかしくないな。ビブロ、引き続きゲルマニアからの兵士たちの動きに眼を光らせていてくれ。それから、誰かローマのインゴドに連絡を取れる者はいるかい?」

「若輩者ですが、私の娘が情報部の一員として動けます。」

娘と言われてもカエサルも気にした風はなく、ビブロに仕事を依頼した。

「そうか、インゴドに手紙をわたしてもらいたい。元老院の動きでアリオヴィストスから受けた情報を彼に届けて欲しいんだ。」

「かしこまりました。娘ですがよろしいでしょうか?」

「ああ、君が推薦するなら大丈夫だろう。道中気を付けるようにだけ伝えておいてくれ。」

「ありがとうございます。必ずや届けます。」

「頼むよ、それから我々は移動を開始する。行先はブザンソンだ。」

ビブロとジジはうなずいて、共に自分の仕事に戻っていった。


総司令官であるカエサルが、ゲルマン人の王アリオヴィストスとやりとりをしている間、兵士たちは緊張をしていた。そして数日後、全兵士に総司令官から最強行軍で移動する連絡が入る。

目的地はビブラクテから東部にあるガリアの一民族であるセクアニ族の都ブザンソン。

セクアニ族はガリア人でありながらゲルマン人とのつながりが強い民族でもある。ゲルマン人の巣窟に向かう、ということで最初恐怖を感じていた司令官や兵士たちだったが、カエサルの連絡で、最強行軍を受け入れた。

「ゲルマン人たちが大軍を集めつつある。ブザンソンに急ぎそれを防ぐ。」

ゲルマン人に恐怖を感じていた司令官や兵士は、少しでも優位に立とうとする総司令官の意図を理解してブザンソンに向かった。


アリオヴィストスと戦う必要がある、と感じながら粘り強く交渉を進めていたカエサルだったが、兵士たちはゲルマン人の名前に負けつつあった。

カエサルは軍を立て直していけるのだろうか?

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