表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
47/69

束の間の休息、そして

ヘルベテ族を撃退したカエサルたちは、戦後処理のためにヘドゥイ族の都ビブクラテに

足を踏み入れた。

「カエサルはヘルベテ族の申し出を受けて、彼らが故郷に戻ることを許した。」

痩身の総督は頭をこすりながら、声を上げる。

そのラテン語の響きを自分で聞いて、頷く。

「うん、この一言で良いな。ギュッと締まった文になる。」

「ちょっとシンプル過ぎませんか?それに、ヘルベテ族にはあなたが故郷に戻るように指示したのであって、彼らが帰りたいと言ったわけではないでしょう。いろいろと説明がないと読む人がわからないのではないでしょうか?」そう口を開いたのは彼の秘書の役割も兼ねているプブリヌスだった。ベテランは言葉を重ねたいようだった。

横で聞いていたバルブスも口を挟む。

「そうですよ。いろいろ講和をまとめるのも苦労したのに。宣伝するのであれば、もっと言葉を足すべきだと思います。」

2人の意見を聞いてカエサルは答えた。

「説明を重ねるなんてことをこの書でしたくないんだよ。そこは読者が想像すればよい。簡潔、明瞭、的確であること、これがこの書の目的だ。」

「事実と少しずれているように感じますが・・・」とプブリヌス。

「しかし、私が帰るように促し彼らは応じた。間違えではないだろう?」

「もっとその中のやりとりも書いたほうがよいでしょう。」とまだ不満をあらわにするバルブスに

「君も人を分かってないな、バルブス君。」笑ってカエサルが言う。

「分かりません。」

「ヘルベテ族を敗退させた、というのが大きな事実だよ。そして彼らを故郷に戻るよう説得し、彼らはそれに応じた。その事実と実績を伝えれば、どのように、などの細部は読む人が想像してくれるだろう。それを私がこうした、と書くのは自分の成果を見せたガリすぎなだけだ。読む人は私の文章を通して、ガリアとガリアの民族を知り、ゲルマニアを知る。」

カエサルの言葉に力がこもる。両手を広げて忠実な部下に語りはじめた。

「自分がカエサルになって想像するんだ。時にアルプスを駆け上がり、時にジュネーブまでの密林を走破して、この後、ゲルマニアの軍勢と対処することになるときも、カエサルの視点ではなく、客観的な目で見て、カエソルは正しい、と判断してもらいたい。だから、的確に、空の鷲が見ているような視点にしたいんだ。もしくはユピテルが綴ったようにね。」

わかったかい?と2人に言う。側にいたダインなどはずっと頷いているだけだった。

「ふーむ。あなたの気持ちはわかりました。しかし、それでも私はもっとしっかり説明した方が良いと考えます。」そういってバルブスは譲らなかった。

「皆さま、文章のことで悩んでいらっしゃいますが、ヘドゥイ族から使者が参っております。お通ししてよいでしょうか?」冷たい感じでジジがカエサルたちに言った。


ヘドゥイ族からの使者は、ヘルベテ族を撃退したことの祝いだった。そして遅れがちだった食糧も届く。

だが、カエサルは使者をそのまま帰らすようなことはしなかった。

「今回、約定がありながら食糧の手配が遅れたのは大きな問題である。族長のデビチアクスにそのことを厳しく申しつけてくれ。我々はビブクラテに行くのでそこで話をしよう、と。」

ヘドゥイ族の使者は震えあがって去っていった。

カエサルはそれを見てからビブルスとプブリヌスに指示を出した。


ヘルベテ族は結局カエサルの前に全面的な降伏を申し入れる。戦いで負けただけでなく、近隣のどの部族からも支援を得ることができずに行き場も失ったためだった。

結局カエサルは当初の予定どおり、ヘルベテ族に元の領地に帰るように勧めた。

それに対してヘルベテ族は異論を唱えることもなく従う。

さらに人質の供出についても出すことを了解した。カエサルは人質たちは、ローマの文化や技術を学ぶためと位置づけ、丁重に扱うように指示した。

10年後には新しい知識を手に入れたヘルベテ族の若者がローマ文化を理解して自分たちの民族を導いてくれるに違いない。

さらに自分たちの土地に戻るヘルベテ族に対して、食糧支援を行い、町や村の復興ができるように自分の管轄下の属州からも支援を行うようにしたため、ヘルベテ族もカエサルに感謝を示し、すべての決定に素直に従った。


そして、ヘドゥイ族の族長デビチアクスと面会をするため、戦後処理をして、さらに体力を回復した全6個軍団を持って、カエサルはヘドゥイ族の都ビブクラテに向かった。

その移動の間も覚書の書き出しを考えていたカエサルだったが、ついに自分の素晴らしい考えを思いつき、整理をはじめる。

移動の間も現れる情報部のメンバー、特にザハと会話をしてカエサル自身がガリアの現状にきわめて詳しい状態になって、整理した内容をさらにしっかりとまとめあげていた。




「どうだい?」

どや顔で小柄な青年に質問をしたのはガリア近隣の3属州をまとめる痩身の総督だった。

ヘドゥイ族の都ビブクラテにつくと、軍団に休むように指示を出してカエサルたちは、借りの住まいを都の近くの豪華な家をヘドゥイ族が準備してくれたため、そこで待機をしていた。

総督の文章を読みながら、小柄な青年ザハは、頷きながら言う。

「わかりやすいと思います。」

「そうだろ?やはり、ガリアという広大な地方をまとめて説明することが無理があるんだよ。だから最初の段階で3つに分けたんだ。こうすると読んだ人も頭の中で少し整理がつくだろう。」

「そうですね。」

「なるほど。」と横で言ったのはダイン。この大柄な好青年は、頷き、なるほど、としか言わなかった。

「そこで、我らと交流をしたことがないベルガエ人たち、そして少し交流のあるアクイターニア人、それから我らとの接点も強く多くのローマ人が想像するガリア人、彼らの言葉でいうケルト人にわけるわけだ。適当な分け方でもないから理にも適っているだろう。」

「カエサル、それよりも今、デビチアクス殿が来られていますよ。」そう言ったのはバルブスだった。

「そうか、せっかく出だしの重要な部分が良い流れで文章がかけているんだけどな。後にできないかい?」と軽い感じで聞くカエサルに対して、

「ガリア部族長会議が終わったのでその報告に来たようです。すぐにお話を聞かれたほうが良いでしょう。」とプブリヌスが言った。

「わかった、それではデビチアクスと話し合おう。」

そういってカエサルはデビチアクスと会うために、借りているヘドゥイ族の豪華な家の応接室に向かった。


「これはこれはカエサル様、お時間を頂きありがとうございます。」

「いや、デビチアクス殿、こちらこそご足労いただきありがとうございます。」

そう言って2人は笑顔で向かい合った。

「ガリア部族長会議は、カエサル様の先の戦いの勝利によって領土の略奪が阻止されたことを歓迎するとともに、感謝を伝えます。そのうえで、昨今ガリア全土において問題が沸き起こっていることについて、カエサル様に何卒力添えをいただきたいと思っております。これはヘドゥイ族だけではく全ガリアの総意と考えていただいてかまいません。」前置きをしっかりと伝えた族長を見ながら、カエサルは答える。

「なるほど。私ができることであればお手伝いさせていただきましょう。どのようなことでしょうか?」

一息入れて、ヘドゥイ族の族長は頭を下げながら言った。

「ゲルマニアからの侵入者たちをカエサル、あなたの武勇を持って倒してもらいたいと考えております。」

カエサルは表情を変えることなくヘドゥイ族の族長が頭を下げるのを見ていた。

「そうか。」一言だけつぶやいたカエサルの気持ちを測れないでいた族長はさらに言葉を続ける。

「もしも、あなたとローマ軍団がこの問題に対して手をこまねいておりましたら、ガリアの全部族はヘルベテ族のように故郷を追われることになるでしょう。だが、カエサル。あなたの武勇を持ってすればゲルマニアで王を名乗るアリオヴィストスも打ち倒すことができるのではないでしょうか?」

「そうだ。私ならばできるだろう。」

「ぜひ、引き受けてもらえませんか?」

「族長、ガリアの諸民族の気持ちはわかりました。前向きに検討しましょう。」

その一言で族長は深々と頭を下げて感謝を伝えた。

そこにカエサルの言葉が続いた。

「だが、ヘルベテ族と対峙した際に、食糧が遅延する事態があった。ゲルマニアと対決するとき、同じことがあった場合、私は許さない。」

「ははー。」深々と頭を下げて二度と食糧遅延が発生しないようにデビチアクスはそこでカエサルに約束をした。


ヘドゥイ族の族長デビチアクスより、ガリアに侵攻してくるゲルマン人を倒してほしい、と依頼されたカエサル。

ガリアへの侵攻を目指すゲルマン人の長がアリオヴィストス。

カエサルが執政官の時、ローマの友邦という名を与えたゲルマン人の長だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ