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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
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カエサルの見立て

ヘルベテ族との闘いになったカエサルたち。

過去にない大規模な戦闘、そして敵は自分たちの倍以上に対して

カエサルはどのように戦うのだろうか。

ヘルベテ族は、ローマ軍の敗走した後を、うなり声をあげながらおいかけていった。

「ローマ軍を敗走させたぞ。敵を打ち滅ぼぜ。我らの力を示すのだ。」

必死においかけるヘルベテ族に対してローマの騎兵隊は、死に物狂いで馬を走らせてヘルベテ族から離れることに成功した。

そして、敵を失ったヘルベテ族は我先にとローマの騎兵隊の後を追いかける。

ローマの騎兵隊とヘルベテ族との距離が広がっていき、ついにヘルベテ族も騎兵の追撃はあきらめた。

だが、まだ日は昇って間もない時間である。

ヘルベテ族は、ローマ軍が上がっていった山の裾野に集結して、息を整えた。

軍勢が再びやる気に満ちていく。


少しの間をおいて、全軍でローマ軍を叩くと決定されて指揮官の突撃命令が下った。

「戦士たちよ。我らの戦いを小さなローマ人に見せつけてやれ。敵は我らの半分もいない。蹴散らしてやろう。」

ヘルベテ族の戦士たちは太鼓を響かせ、旗を振り、叫び声をあげながらローマ軍に突撃していった。



だが、ヘルベテ族の勇猛な突進はそこまでだった。

怒号は朝からはじまり、夕方になっても続いた。



放り棄てられた人だったものが、森の草木にのしかかり、重なりあって

夜の闇が辺りを包み込むようになり、死にぞこなった戦士たちの苦悶の声が森の中に広がっていた。

ローマ軍は体勢を立て直すために山の上部に陣を移して兵士たちを休息させていた。


「敗走したヘルベテ族の追撃を今考えるな。兵士たちを休ませろ。元気な兵士たちには哨戒に当たらせろ。」

そう指示が飛んで、安心してゆっくりと休息を取る。

カエサルは軍団長、軍団の各司令官を呼び状況を整理する。


「戦友諸君、よくぞ今日の戦いを最後まで戦い抜いてくれた。あらためて勝利を祝おう。」

皆から歓声と拍手が沸き起こる。

皆が思い浮かべていたことは同じだった。

強襲を受けてから騎兵隊による時間稼ぎを行ってからはカエサルの采配の通りだった。

騎兵隊がある程度時間を稼いでいる間に、山沿いの高い位置にローマ軍は急遽簡易の陣を築き、体制を整える。

それだけ準備するのが精いっぱいだったが、陣取ったローマ軍に対して突撃をしたヘルベテ族はローマ軍の兵士たちが待っているところに到着する頃には疲れを見せていた。槍を投げても高い位置にいるローマ軍に大きな損害を与えられず、逆に高台から山のように投げてくるローマ軍の投げやりは盾を貫通してヘルベテ族の戦士たちの戦力を減らし、突撃する足にとまどいを生じさせた。

それでもローマ軍の二倍以上の兵力を擁するヘルベテ族はローマ軍に迫っていく。

その間もカエサルの指示が飛び、ローマ軍団はその指示に従う。時折見せる軍団の間で指示の確認をしている総司令官の赤いマントは、軍団長以下の兵士たちを奮い立たせた。

そして、ヘルベテ族が総力を結集して山をかけあがっていくところで、ローマ軍はゆっくりと山の上に向かって下がっていった。

ヘルベテ族は最後の力を振り絞るように下がるローマ軍に襲いかかろうとする。

その時、上から新手のローマ軍がヘルベテ族に襲いかかった。

カエサルによって新しく組織された二つの軍団だった。最初、大軍に驚いていた新軍団だが、ベテラン達が敵を圧倒している姿を見てやる気を燃え上がらせ、疲れの溜まったヘルベテ族に襲いかかった。

これにはヘルベテ族もたまらず、最初は踏みとどまっていたが、だんだん崩れ出していき、最後には全軍総崩れで逃げ出していった。

新しい二つの軍団はヘルベテ族を追いかけようとしたが、カエソルはそれを制止させた。

そして最初に活躍をした騎兵隊に軽めの追撃だけをするように指示した。


死者は少ないものの多くの兵士が怪我をして、疲労困憊でもあった。カエサルはヘルベテ族の追跡を斥候に任せて、初の大規模戦闘を超えた疲れを癒す休憩を取ることにする。

騎兵隊によって近辺にいた残党も取り除いたローマ軍は安心して休息を取ることができた。

兵士たちはその場に座り込み、長時間に渡って戦った者たちは自分たちがヘルベテ族を撃退したことを喜び、総司令官が休息と、十分な食事を配給したことに感謝をする。



そのころ、総司令官の幕舎ではもう1つの戦いが行われていた。

「これから追撃をすべきです。ヘルベテ族を壊滅させましょう。」軍団長の一人がそう叫ぶ。

「いや、これ以上は必要ないな。ヘルベテ族から恭順の連絡が入るだろう。」そう答えたのは痩身の総司令官だった。

「なぜそう思うのですか?」と聞いたのはカエサルの盟友クラッススの息子であるプブルだった。

「プブル、良い質問だね。他の皆も聞いてくれ。彼らヘルベテ族は我らの領土を侵しに来たわけではない。彼らはゲルマン人の侵略に耐えかねて部族ごと移動してきたのだ。30万もの人々が、だ。もはや半数に減ったと思われる彼らは君たちの活躍によってローマ軍を撃破することはできない、と考えるだろう。そして変わりにゲルマン人と戦う力もなくしている。」

「ですが、近隣の民族と連動してくる可能性もあります。放置するのは危険ではないですか?」

「セクアニ族など近隣の民族にはすでに伝達してあるよ。ヘルベテ族を助けた者たちは、ヘルベテ族同様にローマの敵とみなす。とね。」

「では?」

「近隣の民族はヘルベテ族が助けを求めても手が出せない。ヘドゥイ族も自分たちの領土を荒らされたから助けないだろう。彼らは八方ふさがりだよ。少し時間を置いてヘルベテ族を追いかければ彼らはどこかで講和の使者を送ってくるだろう。」

「すごい、すごいですよ。カエサル様。」そう声をあげて驚いたのは他の軍団長だった。

そして他全軍団長がカエサルの構想を聞き、なるほど、と頷いた。

軍団長たちは、納得とカエサルへの尊敬を示す。

彼らが改めて自分の戦略に納得したことを見て会は解散した。

その日の夜、軍団長を通して、各隊の司令官や百人隊長に至るまでカエサルの構想が届き、皆が自分たちの総司令官の当初のうわさ、女ったらしの借金王でポンペイオスとクラッススの腰巾着ではない、ということを認識しつつあった。


ヘルベテ族を圧倒したカエサルとローマ軍団は、次に向けて動き出す。

ヘルベテ族との戦後処理、ヘドゥイ族との話し合い、ローマへの報告など

カエサルがやるべきことはすでに山のように積みあがっていた。

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