ヘルベテ族との争い
ヘドゥイ族からの依頼によってカエサルは大義を得てヘルベテ族を攻撃する。
ガリアはこの争いを発端に大きな戦乱を迎える。
「だから私は移動に反対だったんだ。」
軍団が散り散りになったなかで、愚痴るように文句を言う長老格の1人は、自分の部族をまとめながら、森の奥に逃げ込もうとしていた。
子供たちは泣きわめき、女たちは必死に必要最低限の家財道具を持って右往左往している。自分達を守るべくヘルベテ族の男たちがローマ軍の強襲を受けて散り散りになっていくのを目前にして、恐怖を感じていたところに女子供、老人たちばかりの引っ越し部隊の周りをローマの軍勢が囲っていた。
それを知り皆がパニックに陥った。
へドゥイ族の領地に入り、時に豊かな領地にあるものをもらったりしながら、悠然と移動をしているはずだったヘルベテ族の大軍勢は、阻むものもなく新天地に到着する予定だった。
長老格は、その時にも、すでに人がいるのにそんなに都合良くいくものか、と一人愚痴っていた。
だが誰も彼の言葉には耳を貸さなかった。
彼の言葉を誰も軽く聞き流して旅は続いた。
しかし、大きな川を船を準備して順番に渡っているところで、ローマの軍勢から攻撃を受けて、ヘルベテ族の軍隊は分断され、共に移動していた部族の女子供も泣きながら逃走することになった。
カエサルはヘドゥイ族からの要請を受けるなり、族長デビチアクスに話をつけるための会合を持った。それからヘルベテ族をローマ軍が追い払うと約束した。
すぐに軍団を整えると川を渡るところを強襲することで敵10万の軍勢を完全に無力化した。ローマの兵士の死者はゼロ、怪我人も数人と圧倒的な勝利であったが、追撃はせずにヘルベテ族の動きを待つ。
ローマ軍の攻撃を受け、散り散りになったヘルベテ族からカエサルのもとに講和の申し入れがあった。
カエサルはすぐに使者に会い、あらかじめ準備していた講和を成立させる条件を伝える。
1,ヘルベテ族の元の領地に戻ること
2,ヘドゥイ族に出した損害を賠償すること
3,ヘルベテ族の身分の高い若者たちを30人をローマに人質として差し出すこと。
だが、ヘルベテ族はこの講和条件は飲めない、とした。
「自分たちは人質を受けても、出すことはしない。」
そうして使者が行き来している間にヘルベテ族は体勢を立て直しながら、北に向けて移動を開始する。
カエサルは最後に使者に、よく考えるように族長に伝えろ、と言って話を終わらせてヘルベテ族の移動にあわせて追跡行を行う決定をした。
さらに近隣のガリア諸部族に使いを送った。
「ヘルベテ族を助けたものはローマの敵とみなす。」
こうして近隣の諸部族は様子見を決め込んだ。
そこから自分たちの居場所を求めて北にあるヘドゥイ族の首都ビブクラテが近くなるまで、ヘルベテ族は女子供を抱えながらローマ軍をけん制して移動しつづけた。カエサルの軍団は、移動については余裕があったがヘドゥイ族に依頼していた食糧の配給が滞る問題が発生し、兵站の維持に苦労していたが外にはその苦労を見せることはなかった。
それでも兵站が完全に不足しそうになっていた。
カエサルは考えながら呟いた。
「兵站を切らすことはありえない。ここはヘルベテ族の追跡をあきらめて、すぐ近くなったビブクラテに全軍団を持っていき、食糧を補給すべきだな。」
ヘルベテ族は進路を少し東よりにさせつつあったが北西に少しいけばヘドゥイ族の首都ビブクラテがある。食糧供給の責任をヘドゥイ族の族長デビチアクスに頼んでいる以上、彼に配給が遅延していることを説明し食糧を準備させるべきと思っていた。
ヘドゥイ族内で何か問題が発生している可能性は十分考えられたが、そこは彼に任せるしかないとも考える。
「ヘドゥイ族の首都、ビブクラテに向かう。」
カエサルが全軍にそう指示する。
ローマ軍団はすぐにその指示にしたがった。
その間もカエサルは斥候を出して近辺の状況の把握に努めた。
「斥候の数が多くないですか?」とダインが不思議そうに聞いた。
「多く出しているんだよ。どこかで戦闘が起きる可能性があるからね。」
「なるほど。さすがですね。」とビブルスが相槌をうつ。
「でもいつ、が想定されないと斥候の人数が大変になりますね。」とダインがいう。
「私たちがいつせめて来られたら困るか、の時が敵の攻め時だろ。今回でいえば追跡していた我らがビブクラテに転進した後だ。機に聡ければ背後から攻めてくるだろう。」
「なるほど。攻めさせるんですか?」
「攻めてきたら対処できるようにはしておこうと思っている。そうだ、騎兵隊長を呼んできてくれ。」
「わかりました。」
それからカエサルはローマ軍の補助戦力として私財を投じて雇っている騎兵隊の隊長を呼んで何か指示をしたようだった。
ローマ軍団がビブクラテに向きを変えて少し行ったところで、軍勢の後ろが騒がしいことに気が付いた。
「どうした?」
カエサルは状況を把握しようと周りの者に聞く。
すぐに物見の兵が戻ってきてカエサルに報告した。
「我らが向きを変えて移動したところを、背後からヘルベテ族が大軍を持って攻めてきたようです。」
「距離は?」
「もうすぐにです。」
カエサルは伝達をする者たちを集めて指示を出す。
「よし、騎兵団は敵の前面に立ち、一時の足止めを行うように言え。これができれば第一の功績である。けして深追いをするな。ローマ兵は急ぎ、北にある斜面の山に陣取る。今の移動のまま、第11、12は斜面の上方面に駆け上がれ。第10、9は中腹、第7。8軍団も中腹の前のほうに。平坦な土地ではなく斜面にて密集隊形となれ。急傾斜の山だ、ガリア兵も攻めあがるのは苦労するだろう。」
素早く出された指示はすぐに伝達された。
傭兵主体の騎兵団はガリア、ゲルマン、ヌミディアなどの騎馬になれた人たちから構成されていたが、彼らは自分たちの役割をよく理解してすぐに足止め工作に入った。
「我らの活躍の場所だぞ。」と騎兵団が声をあげる。
そこにヘルベテ族の兵士たちが攻めよってきた。
背後から強襲するつもりだった兵士たちは、騎兵団を相手に手間取る。
特に騎兵団が戦うのではなく時間をかせぐのが目的のため、なかなか相手を仕留められない。
それでもヘルベテ族の兵士たちが大量に群がり、どんどん騎兵団に詰め寄ってきたことで、騎兵団は時間稼ぎの限界を感じて、先に進んだ軍団がいるほうに向かって散り散りになって去っていった。
逃げたローマ軍を見てヘルベテ族の兵士たちは叫び声をあげて追撃をする。
「ローマ軍が逃げたぞ。今こそ我らの力を見せる時だ。」
指揮官の掛け声に、ヘルベテ族の兵士たちは、ローマ軍が逃げた山に向かって総力を結集して襲いかかっていった。
再編して強襲を図るヘルベテ族
それに対してカエサルは事前にある程度の準備をなしていた。
初戦で戦士たちが減っていてもまだローマ軍の倍はいるヘルベテ族に
カエサルの戦略は身を結ぶのだろうか。




