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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
43/68

交差する思惑

カエサルのガリア総督の期間が始まる。

始まった早々問題が起きそうな気配を感じたカエサルは一路、

最小の軍団を率いてガリアに到着した。

「早すぎる。」

カエサルをよく知る者、

初めて従軍した兵士たち

後から属州総督の着任を聞いた人たち、

そして、ローマの属州総督が着任前に事を起こそうとした者たち、

全員が同じことを思った。

この信じられない進軍、行動の速さ、こそが、カエサルの真骨頂であることを彼らはカエサルが総督である期間のすべてで感じることになる。



ぜいぜいと大きく息を吸いながら、冷たい水を飲み、身体を休める。

多くのローマ兵士たちは荷物を生い茂る森林の側において休憩をとっていた。

カエサルに率いられた軍団は、軍隊の速度ではなく、斥候が突き進むようあ速さで冬を終えたばかりのアルプスを通り抜けて、ただひたすら早く着くことを目指す。

その結果、数日でジェノヴァからアルプスの渓谷の街を通り過ぎ、森林に囲まれた都市ジュネーブに到着した。

だが、到着しただけである。

とてもではないがすぐに戦うことはできない、というのが将校から一兵卒までの気持ちである。

疲れを取り休んでいる間、カエサルはこの緊急事態に最高速度で移動しつづけた彼らを褒め称え、ジュネーブで手配できる食糧を十分に渡すことを約束しながら労りと慰めの声をかけて回った。


ふう

皆が一息をついたところで、総督から司令官に新たな指示が届く。

本人はいたって元気な状態で司令官たちに、休憩したらすぐに全員仕事をするように指示を出した。

部隊を工兵、食糧調達、警護、偵察の4つに分けて交代でそれぞれの司令官に従うように指示したのだ。

「今度の総督は鬼だ。」

「人使いが荒いだけで現場を知らない。」

「必要もないのに急がせる無能な司令官。」

「すごい借金をしているそうだ。やはり無能だからに違いない。」

兵士たちの間ではカエサルの着任早々の評価だった。


皆、不満を持ったが、食事、備品整備、警護偵察の役については納得感もあり、皆疲れた身体に鞭を打って働いた。ローマ人の勤勉で真面目、粘り強さ、不屈の精神、仲間同士で助け合う精神が発揮され、女ったらしの借金王の言葉にも不満を持ちつつも働き続けた。

そうすることで、カエサルの軍団はジュネーブの近辺の状況を把握しつつ、食糧や機材などの準備を整える。

そして地理と近辺の状況を確認したうえで、ジュネーブの側を流れる幅の広いレーヌ川にかかる橋をすぐに落とさせて、軍団には近くに陣地を作らせた。

カエサルの軍団はそうしてヘルベテ族の斥候が現れるのを待つことになった。



「なんだ、あれは?」

その声はヘルベテ族の斥候の一人が声をあげた。

以前に来たときはレーヌ川にかかる橋を渡ってすぐにジュネーブに入ることができた。だが、その橋はない。

さらにローマ軍とおぼしき軍勢が陣を作り終わっているのが見えた。

「橋はどうしたのだ?」

「わからない。」

「それよりもジュネーブの手前に陣取っているのはローマ軍ではないのか?」

「あの旗はローマ軍だ。」

「ヘドゥヘイ族ではなく、なぜローマ軍がここにいる。」

ドゥイぞ。この辺りにはいないはずではなかったか?」

「それを論じても仕方あるまい、報告を急ごう。」

慌てたヘルベテ族の斥候は急いで軍勢に引き返した。族長はすぐに会議を行い、カエサルにローマへ侵攻するのではなくただ領土を通過したいだけであることを記載し、通行許可を出してもらうように使者を送ってきた。



ローマの属州総督からの返事は、曖昧なものだった。

「もう一度考えろ、だと?」

ヘルベテ族の族長は眉をひそめた。

そこに占い師と、相談役たち、近隣でヘルベテ族と共に動いていたスエビ族の族長たちが入ってきた。

「ローマの新しい総督は決断力に欠けるようですな。」

「無視しますか?」

「ローマは執拗な民族だ。あまり侮ってはいかんじゃろ。」

相談役たちがそれぞれ意見を言った。

「お前さんはどう思うんじゃ?」

質問を投げかけられた男は、自分の顎髭を撫でながら、

「ローマは、ガリア民族を軽く見ている。やつらは最終的にはガリアを全てローマの領土にしようとしているのだ。隙を伺っているにちがいない。」

「我らはローマと争う気はないぞ。」

「それでは、いつかローマに支配されるだろう。」と続けて言う。

「スエビ族の考えはわかった。しかし、我らは今、ローマとことを構えるつもりはない。ゲルマンの侵攻に対処するための移動を実現するまでだ。」

「そうだ、今回の目的は民の移動であって領土拡大ではない。ローマの意見は参考程度にしつつ、ローマの領土を避けて通る道を検討しよう。」

「かしこまりました。」

結局ヘルベテ族が、様々なことを考え検討をしている間にカエサルの下に遅れていた軍団が到着する。


ダインが、「さすがカエサル。策士だねえ。」

と言ったのをバルブスが理解できず「どういうことだい?」と聞き返した。

「最初、カエサルの軍団は一軍団、人数にして6,000人だろ?敵になる可能性は30万人。戦える男たちだけで10万はいる。兵の数が違いすぎる。だから待たせておいて自分の残りの軍団が到着するのを待っていたわけだ。許可するでもなく、許可しないでもなく、もう少し考えろ、というのは妙手だよね。これで兵力差はあってもかなり埋まる。10万対3万5千。これなら戦いようはあるだろう。」

「それにしても3倍だ。」

「後はガリアやロードス島、ヒスパニアなどさまざまな国の傭兵たちを加わることで、4万近くになる。これでだいぶ戦力差が埋まるだろう。6,000人の時とは大きな差があるさ。」

「もちろん、闘うと被害が大きい、と相手に思われることが大切だな。」とビブルスは同調した。

「これで闘える条件が整った。たぶん、闘うタイミングと戦場をカエサルが検討するだろう。」


結局その後もヘルベテ族とのやりとりは続いたが属州の通過許可をカエサルは許可しなかった。

そして、ヘルベテ族にもヘドゥイ族にも友人として助言。民を連れた大移動はすべきでないと言ってきた。


ヘルベテ族の族長はカエサルの助言には耳を貸さなかった。

「よし、ローマは拒否したが、少し北側のルートを通ることをへドゥイ族とセンドロ族から許可を得た。無用な戦乱を避けつつ移動しょう。」

「ローマはどうしますか?」

「放っておくのもまずいな。だが彼らの領土を犯すわけでも通るわけでもない。助言はありがたく頂戴しておくとだけ伝えておけ。」

そうしてヘルベテ族30万人はローマの領土を通らずに目的地に移動することなった。

民族移動を検討しているヘルベテ族に対して、人数の多さからリスクを感じたカエサルだったが、ローマの友邦であるヘドゥイ族が移動を許可した。

この判断がどのような影響を与えるのであろうか?

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