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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
ユリウスとカエサルの年
40/68

反ローマへ、ガリア胎動

カエサルが属州総督としてイリリア、ガリアの2州の情報強化をしていたエピステラ(情報部)は集めた情報を整理することにしていた。

インゴドは日々の忙しさに謀殺されていた。

今はローマから急ぎマルセイユに来たのだ。

馬は苦手なのだが、ローマ街道を使えば数日で着くとカエサルに言われて駆けてきた。


ギリシャ人たちの作り上げた美しい交易都市は、半面、ガリアとの交易を実質独占している強欲の街でもあった。今は新時代派の1人、クラッススの関係者がどんどんこの美しい街に伸びてきていて従来の商人たちは気が気ではない状態になっていた。旧来街を作ってきたギリシャ系の人たちは特にクラッススを強欲の塊と呼び、門閥派や経済改革派など元老院の反新時代派になりうる勢力と忙しく接触している。


また、ガリア全体もうさんくさく、最近は反ローマ派が勢力を増してきていた。

半分は属州総督の部下である徴税役人が過剰な税を搾取しようとしたいわゆるローマ側の失態。半分はガリアの各民族同士での主導権争いやお家騒動だ。

醜い争いを繰り返していることが、平和な証拠なのかもしれねえな、そうインゴドは考えて、主要な柱の一つ一つのデザインにも拘って作りあげられた都市を5階の隠れ家から見下ろしていた。


景色を身ながら、茶を飲んでいたインゴドの後ろから、

「帰ってきました。」そう言ってひょっこりと部屋に入ってきたのは農民のように見える青年。しかし、ローマの剣士である小型の両刃の剣を腰に差している。

小柄な青年の名前はザハ。カエサルとエセイオスが天才と呼んでいた剣士。

今日も気配を全く感じさせずにインゴドの背後をとった。

このやろう、と思いながらも、何も考えていなさそうなザハに優しく声をかけた。

「お帰り、一休みしてから話を聞こうか。」

そう言ってインゴドは自ら水の入ったコップを出し、果物を準備してザハを休ませようとした。


少しザハも落ち着いてからインゴドと向かい合って話をしだした。

「良く帰ってきた。久しぶりだな。ここで幾つか情報共有をしときたかったぜ。」

「私もです。」と青年が言う。インゴドに促されてザハは続けた。

「ガリアの北部は反ローマ勢力が力を増してきています。リンゴネス族などが主導して主戦派が台頭してきています。」

「なるほどな。しかし北部っていうとこの北の海のほうまでか。」

「ええ、そうですね、今回私も初めて北の海に行ってみたのですが、結構開けていて南部よりも木が深くないところもあります。さまざまな部族が切り開いたのか、植生的に高い木が育ちにくいのか、両方が原因っぽいですけどね。さらに北に大きな島があり、そこにも多くのガリア人が移住しているようです。」

「それはうわさでしか聞いたことがないがブリタニーとか呼ばれている島らしいな。」

「ブリタニー、またはブリタニアと現地の人たちは言うらしいですね。北ガリアの住民の一部が船で渡ったそうですが、ローマからシチリア島くらいの距離です。」

「なるほどね。その口調だと渡ってみたいのかい?」

「ええ、タイミングもよかったので。ですが渡れなくはないですが、波の高さがひどいので小舟だとかなり船酔いに苦しみますね。」

「ほう、お前がそこまでいうのはなかなかだな。」

「ええ、ただブリタニーはそんなに豊かな土地には見えませんでした。麦を育てるには良いですが、少し寒すぎるのかもしれませんね。ブリタニーの帰りにガリアの部族会議が開かれるというので近くに行って聞き耳を立ててみました。」

「ほう、部族会議ねえ。」

「どうも最大勢力の2つ、ヘドゥイ族とオーベルージュ族の族長は親ローマ派なのですが、年々反ローマ派が力を増しているようです。民族同士の小競り合いも多く起きているようです。その一員というか問題なのがゲルマン人がレーヌ川を越えて侵入してくることが増えているようなんです。」

「レーヌをこえてゲルマン人が来ているだと?」

「ええ、実際に渡っているところも見ました。」

「そりゃ、問題しか起きないじゃねえか。」

「そうでしょうね。今のところ、ゲルマン人の移動は限定敵なので、リンゴネス族など、一部の強硬的な部族が押しとどめているようです。」

「じゃあ、そのうち流れてくるのも問題か。」

「ゲルマニアの人口が増えているので、自分たちの土地にあるものを荒らしつくしたみたいなんですよね。ゲルマニアにも足を伸ばしてみましたが、奥地に行けば行くほど、実も動物もとりつくしている感じでした。私も生きていくのに食料を得ることが本当に苦労しました。ですが人々は増えています。」

「人口が増えていて、食べ物がなくなってきているか。」

「ええ、そうなると・・・」

2人は顔をあわせて言った。

「ゲルマン人が肥沃なガリアに入ってくるのは時間の問題だ。」

「さらに悪いことに、ゲルマン人の王であるアリオヴィストスはローマの友邦である、ということも喧伝しています。ゲルマニアにおいてローマの友邦がどれくらい効果があるかわからないんですが、少なくとも宣伝戦においてアリオヴィストスは非常にうまくやれているようです。」

「なるほどな。」

「ローマはどうですか?」

「ローマは今のところ順調だ。カエサルが前執政官の役割で統治する属州は、ガリア・チザルピーナ、イリリア、ガリア・ナルボンヌもしれっと加えたから3つの属州を5年、4個軍団をまとめるという破格の条件で属州総督となったようだ。今は新時代派が強いからな。カエサルがこうしたいといえば実現できるのさ。」

「なるほど。では、南ガリアをとりまとめるカエサルにとってもちょうどよい情報をお伝えできますね。」

「そうだな。だが、問題もある。」

「問題、というのは?」

「5年もカエサルがローマを離れるだろ。ローマは大丈夫か?という問題だよ。」

「なるほど。確かに新時代派はカエサルがいるからまとまっているのにそのカエサルがいなくて大丈夫かということですね。」

「ああ、クラッススはそもそも政治への関心が弱い。経済は詳しいがな。ポンペイオスは軍事、外政一辺倒だ。さらにその2人は会談を自分たちでしない。以前よりはできるようになったらしいが2人だけだと何もまとまらないそうだ。」

「そうですか。わからないですね。そういった人の気持ちは。」

「まあな。俺もわからねーわ。」

「来年の執政官は、カエサルの養父になった小間使いとポンペイオスの小間使いに決まった。だが彼らにローマをうまく回す政治ができるかは微妙だろ。それは門閥派など他のやつらにつけ入る隙を与えることになる。」

「そうですね。」

「というわけで俺はローマ市内を駆けずり回って、クロディウスを味方に引き入れることに成功したぜ。」

「クロディウス?誰でしょう?」

「カエサルの奥さんに手を出した怖いもの知らずの若者だよ。政治にも明るく、攻撃的な性格なので、門閥派を抑える役割をカエサルが与えたいと言ってきたんだ。」

「なるほど。」

「あ、お前どっちでも良さそうな顔をしたな。」

「よくわからない人ですし、カエサルの人選は時々私の理解を超えますからね。」

「まあな、自分の奥さんに手を出したやつを味方にするなんて意味がわからねえよ。とはいえカエサルもさんざん人の奥さんに手を出しているからそのあたり気にしないのかもしれないね。お偉いさんたちは。お偉いさんたちの奥様方も自由だしな。みんな好きにすればいいんだよ。」

「私は結婚もしていないのでわかりません。」

「俺もわかんねーよ。」

「というわけで、ザハのおかげでカエサルに最新のガリア、ゲルマニアの情報は伝えれそうだな。俺からのローマの状況は以上だ。ある程度落ち着いているが、新時代派がいつまで全体を仕切れるかはカエサル次第だな。」

「そうですね。我々もさらに頑張らなければいけませんね。」

「ああ、だがちょっと範囲が広すぎるんだよなあ。」

「確かに。」

「お前、自分でばかり動かずに仲間を作っていけよ。」

「ええ、さすがにゲルマニアに行って、ブリタニアに行ってみると無理だと思って何人か信頼できそうなガリア人を雇ってみました。」

「おお、いいじゃねえか。」

「ローマに留学したことがある身分の高いガリア人ですが親ローマ派として迫害されていた者たちや、ガリア内部で新しい社会を目指す者たちです。」

「なるほどな。金は足りているかい?」

「そこも今回追加でいただきたいと思っています。」

「ガリアでローマの通貨って通用すんのかな?」

「大きな街では通用しますね。安定した通貨価値を持っているからでしょう。もちろん嫌な顔をする者もいますけどね。」

「そうだろうな。さてこれからどうする予定だい?」

「カエサルも来る予定なら、ナルボンヌの州都にいようかと思っていますが、どうも状況が良くならなさそうであればヘドウィ族の街にいて情報を収集していましょう。」

「ヘドゥイ族は安定しているだろう。」

「レーヌ川沿いのヘルベテ族が落ち着かないようなんです。」

「ほう、それは怖いな。」

「ガリア西部への移住を検討しているみたいです。」

「なるほど。そこまでカエサルに伝えておくぞ。」

「ええ、そうですね。ヘルべテ族は30万人だったな。どれくらいの人数が動くか情報を集めときたいな。人をよこそう。」

「ガリアにいけて隠密活動ができる人材がいますか?」

「俺だろ、俺だろ、俺かな。」

「それは頼りになりますね。」とザハもさすがに笑った。

「冗談だ、ガリアにいける人材を探してみる。そして俺も出て、情報を整理する担当を俺以外に任せよう。俺も現地にいるほうが合っているからな。」

そう言ってインゴドは笑いエセイオスも苦笑いをしながら追随した。


カエサルの|エピステラ(情報部)はフル回転して他の人が知らない情報を集めてきていた。そして各地域にもその情報網を広げていた。これはカエサルとエピステラ(情報部)のメンバーしか知らない秘密で、ザハとインゴドのおかげでガリアからローマの中枢までの広さの地域の情報を本当に的確にカエサルに伝えていた。

それでも、インゴドやザハが情報を掴む前で、カエサルが属州総督として動き出す前に、アルプスの北は様々な部族の思惑が蠢いていた。


インゴドとザハは打ち合わせをするとすぐに二手に別れた。インゴドはカエサルにガリア情勢を伝えにローマに戻る。ザハは最新の情報を求めてジュネーブへ駆けて行った。


ガリアに不穏な空気が漂っていた。

これからカエサルは属州総督として属州をうまく統治できるのだろうか。

そのためにカエサルは何を準備していくのだろうか。

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