執政官カエサルの外政
エジプト王としてプトレマイオス12世を認めることを決定したカエサル。
次にはゲルマニア、ガリアへの対応をポンペイオスと話す。
「ゲルマニアからはどんな話が来ているんだ?」
「ゲルマニアからは、アリオヴィストスという一大勢力を持つ王から「ローマの友邦」として認めてもらいたいという書簡をもらっているんです。ローマとの友好関係を示してさらにゲルマニアの統治を完成させたい、と。なかなか有能で野心的な王なようですね。ガリアが各民族でばたついているので、その横にゲルマニアが安定した王国として立ってもらえると国境が安定しやすく、ローマとしても安心できると思います。」
「ほう、というのは?」
「ゲルマニアはそもそもローマやガリアと体制が全く違っていて、我々が麦を育てパンを作り食べていきているのに対して、彼らは狩猟をしてたべていきているんです。そのため街や畑を作るという概念がないんですね。彼らが定住してくれればよいのですが、今はその日暮らしで移り住んでいるので少しやっかいな存在です。国家としてしっかり立てば、定住していくでしょう。実は一部のゲルマン人の移住が問題になったことが以前あったそうなんです。そういった移住問題を解消できる可能性もあります。」
「なるほど。そうなるとガリアで騒動があっても後ろにいるゲルマニアが落ち着いてくれていれば我らも安心できるという感じかな。」
そうポンペイオスが言った。
「そうです。」
ローマの北部、アルプス山脈より北の広大な大森林地帯に広がる100を超えると言われる民族が住むと言われるガリアは、ローマにとって常に悩みの種だった。
他の地域でも問題が発生することはあったが、共和制ローマにとってガリアは常に問題がおきやすい場所だった。
ガリアはローマに地続きで近い。
これが最大の理由だった。
そして次に問題になるのが、多数の部族が森林信仰を持って生活しているためローマと文化的な差異が少なからずある。さらに言語も違うためコミュニケーションも取りづらかい面があった。
それでも、定住して豊かな森で狩猟をしたり農地を作ったり、鉱石を掘ったりするので、ゲルマニアと比較するとお互いの考えかたなど一致点も多くローマとの交易も盛んだった。
そのガリアは森林地帯ということでまとめられていたが実際には常に多数の部族間での紛争が絶えなかった。その中で商売を通じてつながったガリア諸民族とローマだったが、特に主要な部族はローマの文化や商売を歓迎する親ローマ派とローマの文化や商売はガリアに害をなすとみる反ローマ派の2つに分かれていた。そしてローマは親ローマ派が強い部族と仲良くし、親ローマ派の人々を優遇することでガリアとの関係を良好に保っていた。
だが、最近は通称に行ったローマ商人が殺されたり、親ローマ派のガリア人が反ローマ派に襲われたりと不穏な状況も続いていたのだ。
カエサルはガリアに睨みを効かせられる人物が必要だと考えていた。
その最適な人物は自分かポンペイオスだと考えていた。
「ポンペイオス、私は属州総督として、北イタリアとイリリアの2つの州を治めたいと思っている。」
「ふふ、いいんじゃないかい。わたしも賛成だよ、カエサル。ガリア人が反抗してくるなら躊躇わずに戦うといい。必要だったら私を呼んでもいいぞ。」
「それは心強い。」と2人の男は笑って乾杯をした。
「北イタリアはガリアの勢力だが、それでもローマの傘下に入って長いし、ほぼローマ化したと言っていいだろう。やはりアルプスの北の広大なガリアが問題だな。攻めるにもアルプスが邪魔だ。」
「ですが、最近は民族間の動きが非常に活発だといいます。一部にローマ領に入ってくる者たちがいたら、それを逆手に中部ガリアに攻め入って、二度とローマに攻め入れないようにしてやろう、とも考えています。」
「それはよいだろう。そうすることで今後こそ凱旋式をあげるといいだろう。」
ポンペイオスはにやりと笑ってカエサルを見た。
「私はユリアと一緒にカエサル、あなたの凱旋式を祝う日を楽しみにしているよ。」
この時、ポンペイオスは本気でそう思っていた。
ユリアの父としても、政治家としてもカエサルを心の底から尊敬していたから。
そしてカエサルの武人としての才能をポンペイオスは感じていたので、凱旋式をあげるほどの業績も残してくるだろうと信じていた。
それを自分が祝うことができないとは考えてもいなかった。
凱旋式とは、ローマの司令官が、外敵に対して勝利を得るなどの一定の成果を治めた時に首都ローマでその栄誉を称える行進を行うことで、ローマの男たちの夢でもあった。
カエサルは執政官になる前に、前法務官としてヒスパニア属州に赴いた際、蛮族をけちらしたことで凱旋式の資格を持っていたが、執政官に立候補するため、その権利を放棄した。
そのため、まだ凱旋式をあげたことはなかった。
ローマ最強の将軍とされるポンペイオスはすでに3度の大規模な凱旋式を20代のころから実施していた。
ユリアの父でもあるカエサルにポンペイオスは凱旋式をする栄誉を得る用に進めてきたのだ。
ローマを仕切る大物2人は、こうして外政の方向性を定める。
カエサルが北イタリアとイリリアの属州総督になるためには、元老院の決定を必要としたが、元老院はすでに3人の男のいいなりになっていた。
元老院はすでにカエサルが来年統治するべき役割を決定していた。
なんと「全ローマ街道の整備」という前代未聞の総督だった。
これは門閥派からの嫌がらせであり、カエサルに軍隊を持たせる気も、州を任せる気もなかったのだ。
ヒスパニア属州の総督時代にすでに凱旋式の権利を得たことがあるカエサルだから、門閥派もカエサルの軍事的才能がある程度あることは理解していた。だからこそ軍隊を持たせたくなかったのだ。
前代未聞の役割についてカエサルは当初気にするそぶりを見せなかった。
だが、ポンペイオスと話がまとまた瞬間に、その役割に意義をいうこともなく、ただカエサルの属州統治場所は「北イタリアとイリリアである」と決定した。
元老院では文句を言う者もいたが、3人の実力者の前に門閥派も抵抗できずに簡単に変更させられた。
あわせてカエサルはゲルマニアの王、アリオヴィストスが「ローマの友邦」になることも一緒に認めさえた。
これによってカエサルが執政官の年のローマの外政はまとまった。
ポンペイオスの制圧した東方地域の整理と、エジプト王国にプトレマイオス12世を「ローマの友邦」としてローマの支援で戴冠させる。ゲルマニアの王アリオヴィストスにも同じ「ローマの友邦」の名を与える。そして、最近反ローマで騒がしくなってきたガリアには、執政官を退任したあとのカエサルが総督として着任して抑え込む。
ここまでをポンペイオスとの話し合いで決定した。
これがカエサルが執政官をはじめてした年に決定した外政のすべてだった。
ゲルマニア、ガリアへの対応、そして自身の属州の決定など
すべてをポンペイオスとの話し合いだけで決めたカエサル。
外政はこれですべてまとまった。




