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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
ユリウスとカエサルの年
36/68

ローマのプトレマイオス12世

新時代派が元老院を席巻し、権力強化にすすんできている。

そんななかでカエサルは休むことなくポンペイオスと

外交についての話を進めていた。

背が高く凛々しい姿をした中年は、肉体美を見せるように上半身は裸でエジプトの王位継承者を示す腰布に金と緑の縞模様をあしらい、何重にも巻かれた首飾りは輝きながら上半身を隠すように大きかった。


恭しく礼をすると、ゆっくりと最高神祇官の執務室に向かう。

そして、中に2人の人物を認めると


「我こそは、太陽神ラーの子プトレマイオス。その12番目の子である。」


そう言って中に入った。

エジプトを追われた王、プトレマイオス12世である。

だが、入口まで威厳を保っていたその顔は、美中年を見ると、急に親しげに近寄っていく。

「やあ、ポンペイオス殿。今日は重要な話として私を呼んでいただいたとのこと。どのようなご用件でしょうかな。」

好感の持てる笑顔で亡命した王は、東方を制圧したローマの英雄に話しかける。

それから対面にいる現ローマ最高の権力を持つはずの痩身の男に眼をやった。

「やあやあ、こちらの方はローマの唯一の執政官と言われるユリウス・カエサル殿ですかな。すでにローマの執政官の中でも優れた結果を出されていると伺っております。初めてお目にかかります。」

ローマの2人の著名人にそれぞれ愛想をふるまって中年の王は自分の居場所を探した。


憎めない中年の男の服装を見ながら、好奇心に駆られたカエサルは自分を抑えながら要件を話す。

「プトレマイオス12世殿、今日はよくぞこちらに参られた。ありがとう。あなたを追い出したエジプトの処遇について確認、相談がしたくて来てもらったんです。どうぞおかけください。」

カエサルとポンペイオスの相対している机の間に一つ立派な椅子が置かれていた。

特に飾り気もない、ローマらしい質実剛健を表したような椅子だ。

美的センスもない。

これを亡命した直後であればエジプトの王たる自分に勧めるとはどういうことだ、と憤慨したかもしれないが、すでに数年ローマに居候させてもらっているなかで、プトレマイオス12世は、華美を好まないローマ人に気質を理解していた。

そのため、ただ礼儀正しく椅子に座った。


「はっきりさせておこう、プトレマイオス殿。」

そう切り出したのはプトレマイオスが逆らえない絶対的な英雄、ポンペイオスだった。

「はい。」ポンペイオスに対しては完全に借りてきた猫のようになってしまう。

「悪いようにはしないから、落ち着きなさい。」緊張しているプトレマイオスを見て付け足した。

「はい。」他に言葉も出ない。プトレマイオスはそう思った。

「まず、エジプト王国だが、「ローマの友人であり同盟者」として今後もローマは仲良くやっていきたいと考えています。」ポンペイオスの前で固まっているプトレマイオスを見て、カエサルが結論を先に言った。その言葉についてプトレマイオスは頷く。

「そのエジプトはそもそもあなたのものです。我々ローマは友邦としてのエジプト王国を取り戻してあなたにしっかりと統治してもらいたいと考えています。いかがですか?」

ポンペイオスもカエサルの話を聞きながら頷いているのが見えた。

プトレマイオスは争いは嫌いだった。だが、ポンペイオスが頷いている以上、Noはできない。

敵に追われながらもローマに亡命できたのも、ローマで平和な時間を過ごせたのもすべてポンペイオスのおかげなのだ。

「はい。」取り戻すとはどうやって、と疑問を抱きながら素直に返事をした。

「ありがとうございます。ポンペイオス、王にエジプト王国を取り戻す手段をお伝えください。」

「わかった。プトレマイオスよ、王権を取り戻すためには軍備が必要だろう。そこで私の部下を貸そう。」

「ありがとうございます。」エジプト王国を自分が取り戻す算段もしてくれていたのか、とうれしい気持ちがあ一方で、ポンペイオスのいう部下が気になったがポンペイオスはプトレマイオスの気持ちは気にせず話を続ける。

「私の兵士たちを使って、あなたがエジプト王えあることを証明してもらう。激しい争いになるかもしれないが、きっと大丈夫だ。」

激しい戦い、と言われて腰砕けになりそうなプトレマイオスはそれでも英雄ポンペイオスができると言っているのだ。水を差すようなことは言えなかった。

「私と共に戦ってくださるのはどちらでしょう?」

ポンペイオスが来ないとなると部下は誰だろう。もしかしたらユリウス・カエサルがポンペイオスの代行者としてエジプトに来てくれるのか?そんな期待を込めた質問だった。

「私の部下、ガビニウスがその任を果たす。」

誰?と思ったがポンペイオスが自信満々に言っているのだ。信じるしかなかった。

カエサルに助け船をだしてほしいと懇願する感じで見た。

雰囲気を察した現役の執政官は笑顔で答える。

「ポンペイオスは激しい戦いになる、と言いましたが、ローマの友邦という立場はあなたのものだ。それだけでも一万もの兵士が付いているようなもの。自信をもってもらってよいです。」

「はい。」溜息のような返事をした。現役執政官はどうも弱者の気持ちを汲んでくれない。

「では、ガビニウスの準備が整い次第、エジプト奪還にむかってもらおう。何か質問はあるかな?」

「いえ、ただ日が悪いのではないかと思います。ローマが快晴なとき、エジプトは突然の天気の悪化を招くことがありますし、すごい洪水を引き起こす大雨だって発生します。」

「なるほど。」とうなずくカエサルにポンペイオスが言った。

「大丈夫だろう。雨も洪水も沖に出ていれば影響はない。ガビニウスは海賊掃討作戦でも活躍した勇士だ、王よ自信を持つんだ。」

そう言って肩を強くたたかれて、王はこれ以上粘っても無駄なことを感じて2人に感謝の言葉を伝えて、残念そうに執務室を後にした。



王が去った後には残された2人が話をする。

「やっと新時代派がローマの中心になってきてほっとできそうなのに、まだまだ解決する問題は多いな。」とポンペイオスはカエサルにわらいかける。

「そうですね。それにしても思ったより頼りない王ですね。」とカエサルはプトレマイオス12世を評価した。

「血統が良いのが最大のとりえだからね。エジプト王の血筋だ。そして善人だ。民をいたずらに傷つけるようなことはないだろう。」

「それは素晴らしい資質ですね。今は頼りなくても足りないものは足したり、借りたりしながらいけばいいですしね。」とカエサルも前向きな意見を述べ、

「そうだな。」とポンペイオスは同調した。

「それよりもすべてローマが助けてくれる、と思われても困りますからね。当初の予定どおり、少し厳しくしたことで彼も腹をくくるでしょう。」

「そうだな。腹をくくってもらおう。」

「ポンペイオスに行けと言われたからには行くしかないですよ。」とカエサルは笑った。

「私の言葉にはそんなに力があるかい?」

「もちろん。彼にとっては自分を助けた英雄ポンペイオスがいうことですからね。死に物狂いで頑張るでしょう。これで一皮むければローマの統治も安定できるでしょう。」

「そうだな。」

「これでポントスからシリア、アルメニア、エジプトまでの東方諸国への対応は決定しましたね。あと外交に関して問題になると思われるのは当面ひとつ、ゲルマニアからの使者についてです。」


ポンペイオスに守られながらエジプトを逃れたプトレマイオス12世は、ローマの執政官カエサルと英雄ポンペイオスの計らいでエジプト王国奪還を目指す。それとはべつに外交問題を整理しつづけるカエサルの前にゲルマニアの問題がもちあがってきた。

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