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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
ユリウスとカエサルの年
35/68

新時代派の勢い

カルビエンヌの暴力を抑え、ポンペイオスとユリアの結婚が実現した。

新時代派は元老院で力を示すことになる。

カピトリヌスの丘は高級な貴族や金持ちの邸宅が軒を連ねていた。そのなかでもひときわ豪華なで眼をひく建物がクラッスス邸だった。

建築は増築された部分が多く、全体でまとまっているわけではないが、豪華、という言葉がふさわしい邸宅に新時代派の実力者3人は堂々と集まっていた。


今後のことを決める重大な話し合いをするということで、最近、アルパの別邸に引きこもって新婚生活を楽しんでいるポンペイオスも不承不承出てきて会議に参加をした。


会議の議題は、今年の後半と来年以降についての細かな決定をすることである。

今年は、カエサルとビブルスが執政官をしていたのだが農地法の成立以降、ビブルスが職場放棄をして元老院に出てこなくなったため、カエサル一人が執政官を取り仕切っている。

ローマではその年を執政官の名前を取って呼んでいた。

例えば、「ポンペイオスとクラッススの年」のように。

今年は、ビブルスを抜いて「ユリウスとカエサルの年」とすでにして呼ばれ始めていた。

元老院議事録、属州統治のための公務員法、そして農地法と立て続けの施策によりカエサルが執政官として躍動してビブルスは反カエサル以外の何もできておらずに逃げていったためだった。

世間がユリウス・カエサルの年になりつつあった中でも痩身の男は冷静だった。

2人の実力者を無視してすべてを進めるつもりはなかった。

外交、行政、経済において方向性の確認を実施する。


流れはカエサルが主導、提案し、ポンペイオスとクラッススは意見を言う側になるのが3人の暗黙のルールだ。

外交においては東方諸国を制圧したポンペイオスポンペイオスとローマの近隣諸国全体の話し合いも行う。新婚ボケから覚めた英雄は自分の所感も含めて地中海全体の海賊退治からポントス、アルメニア、シリア、エジプトと駆け抜けて、現状東方においてはローマに対抗する勢力はないと断言する。その一方でローマの北であるガリア、南のアフリカについては懸念事項があるとの認識を示した。意見が一致したなかで、まずはポンペイオスの制圧した地域の安定化をさせるための施策検討に入ることを決める。

ローマの経済・法対策についてはクラッススと行う。

大都市ローマの問題と共和制ローマ全体の経済が膠着化している点について話し合う。特に互いに問題視したのは属州が増加したなかでの税制についてだった。クラッスス自身以前から元老院に提案している税制改革を実現するため、いつもの不真面目な雰囲気もなく真面目に内容の打ち合わせをした。

それぞれの課題について話し合いが終わり、カエサルが執政官である後半年で実施されることがまとまる。


そして、問題になったのは来年以降をどうするかとなる。

「俺とポンペイオスが執政官として立てばいいだろう。」というクラッススに対して

「私は今執政官になりたくない。」というポンペイオス。

「てめえ、新婚で浮かれるのもいいが、役目は果たすべきだぜ。」と文句を言うクラッススだったが、カエサルもポンペイオスを支持した。

「クラッスス、ポンペイオスが執政官になるのは切り札です。今はその時ではありません。」

カエサルの言うことを2人も肌で理解していた。


今は新時代派が全体を抑えているが、門閥派や元老院の主流派はどこかで新時代派を追い落とそうとするだろう。そのための切り札だと。2人は静かに頷いた。

結局話し合った結果、ポンペイオスの元部下であるガビニウスとカエサルが最近取り込んだピソ・カエソニヌスにすることを決定した。

ピソ・カエソニヌスは穏健派の中心的な人物であり、学者肌であった。年齢も近いカエサルとは政治や学問で語りあうことが多かったのだが、そのピソはカエサルの農地法成立の手腕を大きく称えていた。そういった経緯もあり、カエサルとピソは急速に接近していった。

ピソがカエサルと近づくなかで、ピソの娘カルプルニアをカエサルの嫁にしようという話も出てきたのだ。カエサルも今は独り身である。その申し出を断る理由もなかった。

「で、結局執政官殿は、親父を政治権力の道具として仕入れて、娘も嫁として手に入れる予定だ、と。鬼畜だな。」

と笑いながらクラッススがカエサルをからかう。

「力を手に入れてから近づいてくる者たちには注意が必要だぞ。」とポンペイオス。

カエサルは笑いながら、手厳しいですね、とだけ言った。

「ピソの娘のカルプルニアは気前の良い美しい女性だと聞いています。会うのが楽しみですよ。」

「あー、やってらんねえ、政略結婚なんてな、家と家のつながりなんだから気前とか関係ないだろうよ。」

「関係ある。」とポンペイオスとカエサルが合わせて言った。

「なんかやりにきーよ。お前ら。」

良い感じの雰囲気でそこからは会議というより飲み会になっていった。

酒を飲み、互いに豪華な食べ物を口に持っていく。


果実酒を呷ったクラッススは思い出すようにカエサルに言った。

「お前って、結構冷たいところあるよな。」

豪勢な食事を準備させた台を囲んで座っているのは今ローマを仕切っていると噂される3人の実力者。

「冷たくないですよ。」と軽くいうカエサルの言を無視して大柄の太り気味の男は、笑いながら

「カルビエンヌの糞やろうを兵士たちが捕まえて連れていく時、ゴミを見るような眼で見てたんだぜ。案外俺たちの中で冷酷なのは、優しいと噂の執政官殿かもしれん。」

そういってカエサルをからかう。

「カルビエンヌはそれだけ酷いことをしたから自業自得ですね。しかし、悪いのはカルビエンヌ一人、ガルビエンヌの家族、親族も部下も指示に従っただけなので、必要以上に攻撃してはいけません。」

「へえへえ、わかったよ。またいい人を気取りやがって。もっと本音でいこうぜ。カルビエンヌ一族は皆殺しにする、とかよ。」

カエサルは軽く笑いながら

「そんなに簡単に殺していたら、街中が怖くて歩けないでしょう。」と言う。

「ちげえねえ。そりゃ大事だ。街中で暗殺されるような時代はよくねえよな。」とクラッススも相槌をうってきた。

「ユリアに手を出すやつは誰であれ、私もカエサルも非情になるだろう。」ユリアが襲われた話を思い出したのか、今までの笑っていた表情を硬くして真面目にポンペイオスが加わった。

「そうですね。」とカエサルも短く同調する。

「へえへえ。みんなユリア様に頭があがらねえときた。こりゃローマを仕切っているのは俺たちではなくユリア様だな。」と笑いながら言った。

ポンペイオスもその言葉に表情を緩めて笑う。そしてカエサルと顔を見合わせて2人の実力者は笑いながら「違いない。」と認めた。


最後はクラッススも笑って会議と宴会は終わった。

3人の関係は良好さを維持し、これ以降、新時代派に関心を持つ議員、貴族、騎士階級は増えて勢力を増していった。

後世に「三頭政治」と呼ばれる新しい政治体制は樹立した。

どうやって元老院体制からこの体制を維持していくのか。

そしてカエサルの次の目標は何か?

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