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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
ユリウスとカエサルの年
34/68

ポンペイオスの結婚式

ユリアを暗殺し、暗殺者も片づけたカルビエンヌはこれからのことを考えて笑顔になっていた。

そんななかでポンペイオスが結婚式を行うという。

新時代派と対決する前に、門閥派自体では大きな変化が起きていた。

新時代派に対抗する方法を考えていたカピトリヌスはカルビエンヌの功績を裏で称えつつ、「ポンペイオスの家での葬儀」が終わり次第、傷心のポンペイオスをねぎらい、新時代派から門閥派に鞍替えするチャンスを伺うことになった。

農地法の成立と新時代派の影響力で自信を喪失していたキケロも元気になり、ポンペイオスとカエサルのつながりを断ち切るべく情報収集に動きだす。

最も大きかったのはカルビエンヌだ。門閥派の中でもベテランではあったが大きな力を持つほどではなかったカルビエンヌが門閥派のなかでも大きな発言権を持つようになり、本人もキケロやカピトリヌスと並び立ったと感じていた。最近全く顔を出さないルクルスを皆の前で笑いものにするような発言もしてみせた。その言い方があまりにも不快で、清貧を貫こうとするカトーが顔を赤くして抗議する。

だが、どちらにせよ門閥派に活力を取り戻させた立役者は平民出身で、論戦に強いわけでもなく暗い噂が付きまとっているカルビエンヌなのだ。一部の議員はすでにカルビエンヌにすり寄りはじめていた。


7月15日、カルビエンヌにとっては長い数日だった。葬式が終われば、カピトリヌスがポンペイオスを口説きにいく。もし、ポンペイオスが門閥派に入ってくれば、カルビエンヌはさらに高みが目指せるかもしれない。今まで縁がないと思っていた執政官への道が開けてくる。または表街道ではなく裏で門閥派を取り仕切ることもよいかもしれない。どちらにせよ、影響力の強化は間違いない。次はローマ市内での影響力を高めるため、ローマ一の金持ちクラッススとの関係構築も考える必要がある。そう考えて自分を支える部下たちにクラッススの身辺調査をまずは始めさせていた。


ポンペイオスの邸宅に招かれた人々は、邸宅の広さ、豪華さに感嘆する。

ポンペイオスが東方制圧をした証に多くの戦利品を国家ローマに寄贈していたのだが、それに優るほどの宝の数々、装飾品、飾り、旗、着飾った服などをその邸宅に飾っているのを見て感動した。

それから元老院議員たちが導かれたのは、ポンペイオス邸の青の間。多くの人々が十分に入ることができる広い室内だった。

青の間は正面に高い壇があり、そこで演説をしたりすることができるようになっている。

白い布で飾られて、まさにこれから結婚式のお披露目が開かれるような雰囲気を作っている。

幾つかの酒や軽い食べ物も持ち込まれて、待つ間に少し喉を潤すこともできるようになっていた。

それにしても、本当の結婚式のようですな、とだれもが顔を見合わせた。

ポンペイオス殿も、あまりの傷心だったのでしょう。又はカエサル殿の願いなのかもしれませんね。

と訳知り顔で夫になるはずの人、父になるはずの人の心を組んで、うなずいて待った。


それから、少しして、音楽が鳴り響いて、ポンペイオスが室内に入ってきた。

美中年は本当の結婚式のようにしっかりと正装、トーガに身をまとい、アキレス神のようなほれぼれするような体躯を少しだけ見せていた。

それから、ポンペイオス家の召使たちに囲われて、白い布が開いたかと思うと、そこには、妻となる女性の姿があった。

金色に近い茶色い長い髪を結いまとめて天にあがるように巻き上げて頭で銀色の頭飾りが支えて冠のようになっている。胸元は少し開き気味で豊かな胸元が大胆にも見えそうなくらいで美しい白い透き通った肌が皆の眼に飛び込んできた。その肌の上を金の細い首飾りが細い首にまかれて繊細さを強調している。

美しい。

だが、それ以上に亡くなったはずのユリアの存在感に観客がどよめく。

どよめく観衆をよそに、ポンペイオスに近寄り、ユリアはその手を取った。

神殿より呼ばれた神祇官がつめかけて2人を祝福する。

どよめきながらも観衆は2人の結婚を祝った。


「夫グエナス・ポンペイオス・マーニュス、そして妻ガイウス・ユリウス・カエサルの娘、ユリア。あなたたちの婚姻をここに祝福します。」

神祇官の声にあらためて死んだはずのカエサルの娘ユリアだと確認して、観衆のどよめきは収まらなかった。

だが、多くの人々は、ポンペイオスと妻の姿に見とれて、自然と結婚式に引き込まれていった。

カピトリヌスは青ざめた表情でカルビエンヌの姿をさがしていた。キケロも絶句してなにかしら威勢のよい言葉を出すのだがそれもできずにいた。

カルビエンヌは逃げるようにその場を脱しようとしていた。

そして、我先に青の間を後にして帰り始めたところで、ポンペイオス邸にいた兵士たちがカルビエンヌを心配して寄ってきた。

「体調を崩しただけだ。今日は帰らせていただく。出口へ案内してくれ。」

「かしこまりました。」

そういって兵士たちはカルビエンヌをポンペイオス邸の別の部屋に案内した。


来た道と違う。

そう感じたカルビエンヌは逃げ出そうとしたが、気が付けば何人もの兵士に囲まれているのに気が付く。

「わしは元老院議員カルビエンヌだぞ。お前ら、ポンペイオスの犬たちめが、何をたくらんでおる。」

そう口を開いた瞬間、カルビエンヌは腹を兵士に殴られた。

あまりの苦しさでのたうち回っているところへ両手を持たれて、奥の部屋に連れていかれた。


「ようこそ、カルビエンヌ。私のユリアを暗殺しようとした理由を聞かせてくれるかい?」

そこにはユリウス・カエサルが立ちはだかっていた。

「違う、わしは知らんぞ。カエサル殿、何かの間違いではないのか?」

そういうカルビエンヌを見て、いやらしい笑いをしながらカエサルは汚れた布を持ち出して見せる。

どこかで見たその布は・・・。

ゾヌリが付けていた帽子か?カルビエンヌは一瞬眼をやったが無視した。

「この布は、私の娘を狙った暗殺者が持っていた帽子。そこには暗殺対象者の名前と暗殺を依頼したものの名前、場所、どこで依頼をうけたかなどがかかれた紙が入っていたよ。カルビエンヌ。」

「馬鹿な。そんな文字がかける者でも、記録に残る者でもないだろう。」

「おや、暗殺者をよくご存じな反応だな、カルビエンヌ?」

ミスをした。と思ったがしらを切ることに決めたカルビエンヌが饒舌に言い訳をしようとした瞬間、足に何かが刺さった。

「いてえええ。」

カエサルは独り言のように続けた。

「どうも暗殺者は最初に足を矢で刺されて、そのあと身体に剣をさされたようなんだよ。可哀そうに。仕事を果たした後の報酬を受け取ることもできなかったとは哀れだと思うね。」

「うあああ、だから俺じゃねえ。俺じゃ、」

その瞬間、喋りかけたカルビエンヌの口に剣先が飛んだ。

ぶしゅっという音と共に口元から血が吹き出る。剣で口か鼻を切られたのか、痛みはわからないが血がそこら中にひろがっていく。この男はどうあってもここで殺す気だ。なんとか逃げなければ。

そう考えたカルビエンヌは隙を見てにげようとする。

カエサルはカルビエンヌにとどめをさそうと剣を構えなおし、兵士にカルビエンヌをおさえるように指示をした。そこに大きな黒い影が見えた。

「クラッススじゃないか。」

「ようカエサル。どうだ。新時代派の邪魔をしやがるやつはこいつか。」

クラッスス、ここでやつに縋ろう。カルビエンヌは痛みをこらえながら媚びた笑みを浮かべてクラッススを見た。

「誰だっけこいつ。まあいいや、おいお前、お前の邸宅の物はすべてクラッススに預ける、という証書を書け。そしたら俺が助けてやろう。」

クラッススの助け船にカルビエンヌは何度もうなずいた。

よーし、と言ってクラッススが部下から書類を受け取り、カルビエンヌはその書類にサインをする。

「へへ、いいだろ。カエサル。この利益でお前の借金を減らしておいてやるよ。」

「ありがとうクラッスス。こいつの役目は終わりですね。それでは最後はこいつをどうするかはポンペイオスに任せるとしますか。」

「ああ、そうだな。俺たちの役目は終わりだ。怒り心頭のポンペイオスだが、今日は結婚式だからな。数日は生かしてもらえるだろうよ。」

「助けてくれる約束は?」とカルビエンヌはクラッススになんとかすがろうとした。

兵士たちに動きを止められたカルビエンヌを見てクラッススは

「お前んところの奴隷たちを俺が救ってやるしお前の資産も俺が守ってやるよ。お前の身はポンペイオスに委ねるわ。」

そういってカエサルの肩に手を回す。

カエサルは、特に何の反応も示さず、カルビエンヌを見ることもなくクラッススと共に去っていった。

カルビエンヌは2人に追いすがろうとしたが、兵士に両手を捕まえられて、倒された。

叫び声をあげようとしたところで喉を突かれて咳しか出せなく倒れこんだ。


その後、カルビエンヌを見たものはいない。

数日後、クラッススの部下がカルビエンヌ邸を徴収してカエサルの借金が少し減ったことも誰も知らない。

門閥派のなかでも粗暴で実力行使を図ったカルビエンヌを排除した新時代派は3人の連携を密にして来年以降を見据えた動きをしていく。

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