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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
ユリウスとカエサルの年
31/69

カエサルの娘

ユリアはカエサルの一人娘だった。

数多くの愛人をかかえる男の一人娘はそれでも父に愛されていた。

カエサルの娘、ユリアは母であるコルネリアと共にカエサル家で育った。

父、カエサルはユリアが生まれた年には、スッラからの追手から逃れるために遠くアシアまで行っていると聞かされていた。

その時、ユリアは母から自慢げに、

「父さんは最高の人よ。権力者スッラにも負けず、お腹にいるあなたと私を守ったの。」

そう聞かされて育った。

だから、小さなユリアは尊敬する父を想像して育った。

しかし、カエサルが帰ってくる前に母は体調を崩し、ローマではなく田舎で生活することになった。

その頃から活発になっていた少女は髄一の都会を去るのを寂しくも思わず、田舎暮らしを前向きにとらえていた。それでも父には会いたいと思いながら。


そして、体調を崩して療養していた母に父が会いに来た。

ユリアは初めてカエサルに出会う。

想像通りの人だった。

ユリアを抱きしめる身体はしっかりとしていた。そして笑顔で自分を見つめてくれる。もっとうれしかったのは父が母を本当に心配しているようだったことだ。もしかしたら父は母のことに興味がないからなのかなどと子供ながらに思っていたのだ。

父カエサルはユリアの傍で歌を歌ってくれ、ユリアの話を一生懸命聞いてくれ、一緒に遊んでくれた。

最高の日々を過ごした。


だが、この後ユリアはカエサルに失望する。

愛する妻のために看病しにきて、ずっと一緒に生活できると思いきや、そこそこ滞在したら自分の用事で去ろうとする。さらに結構な額のお金を母と母の世話をしている召使に渡した。父が去ろうとしている寂しさで覗いていたユリアはたくさんのお金に驚いたが、最も驚いたのはそれは全て借金だったと聞かされたときだった。

初めはカッコいい、という評価だった実父に本音で意見を言うようになったのはこの頃からだった。

それでも母が亡くなるまで時期を空けても見舞いに来る父を嫌いにはなれなかった。父からは一方的に母とユリアへの愛を伝えられてもいた。

療養のかいもなく、コルネリアが亡くなった時、ユリアは泣いた。父のカエサルも泣いていた。


ユリアの短い田舎暮らしは終了し、母を墓に埋葬した後は再びローマの街中雑踏ひしめくスブッラに戻ってきた。家では祖母のアルレリアとカエサルの姉ユリアを中心とした家で一般の貴族の男性にも負けない勉強をしながら、女性としての教育を受けることになる。

それから再び政略結婚でカエサルが2人目の妻を迎えた際には10代になっていた少女は興味津々で新しい母を迎え入れた。母は奔放な女性だったが2人は姉妹のように仲良くなれていた。

そこで奔放な母から、男のあしらい方、優秀な男、駄目な男の見分け方などローマの貴族女性としての知識を手に入れる。それは思春期の少女には刺激が強い、そして最も興味が沸く話を聞かされる。こうしてユリアは貴族の娘として、元老院の中でも名前を売り出し始めたユリウス・カエサルの娘として自分がどのような相手に嫁がされるのかを真剣に考え、自分自身の希望も考えるようになっていた。


父であるカエサルは政略結婚をさせる、とユリアに言っていた。

だが、自分の眼鏡にかなる者でなければ、結婚させない、とも言ってくれた。

早ければ10代半ばには嫁ぎ先が決まるのも普通でカエサル自身の結婚が決まったのは15歳の時だったがユリアは10代後半まで全くその話が出なかったのはカエサルがユリアに合って政略結婚としても価値がある相手を探していたのだろう。

さすがに10代後半になってきて、ユリアはカエサルに

「私の結婚相手は誰?」などと言ってカエサルを焦らすこともしてみた。

愛娘を愛するあまり、手放せなくなっているのでは、とユリアが思ったからだ。

それくらいに話がなかった。


そこに突然現れたのがポンペイオスだった。

ローマ市民として知らない者はいない英雄。

政略結婚が当たり前のローマの貴族社会であり、自分の父より年上と結婚するようなことも当たり前だったが、ユリアもポンペイオスを結婚相手と考えたことはなかった。


最初は驚いた。

しかし実際に会ってみると心の広い人で、高位の男性にありがちな女性を低く見ることもなく、若いユリアの話にも興味を持ってくれる素敵な男性だった。

俄然興味を持ち、同じ政略結婚であれば彼以上の人はいないのではないか、と思うようになってきた。

そして、ポンペイオスもユリアの美貌、性格に強く惹かれているのを感じた。


父のカエサルがなぜかこの結婚にそんなに乗り気ではなさそうだったが、大した障害にはならないだろう。父との時間はすごく多かったわけではないがユリアの希望をできるだけ聞いてくれる父だった。


今まで漠然としていた結婚。

そしてそのあとの生活が、相手が特定されてきたことでしっかりと見えてきだした。

自分はなんでも知っているし、できると思っていたユリアだったが、家のことであったり貴族社会のしきたりの中ではまだまだ知らないことだらけだったことを改めて知り、ポンペイオスの妻になる準備に余念がなかった。

そのため、ポンペイオスがつけてくれた護衛2名とカエサル家の召使、奴隷を連れてローマ市街のなかを習い事や嫁入りの準備で外出する機会が増えていた。

カエサルの娘は小さなころは父に似てお転婆で自分だけで街をうろついたこともあり、少女時代を思い出し懐かしみながらも結婚前の大切な身体であることを自覚し護衛たちを置いてきぼりにするようなことは自重する分別は持っていた。


ユリアは自分が重要な政略結婚をすることを理解していた。

そのため護衛たちがつくことも理解していたし、襲撃される恐れがあることも理解していた。

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