カルビエンヌの使い
元気を失った門閥派のなかで、泥臭い仕事でなりあがってきたカルビエンヌがカエサルの娘ユリアを狙って動き出した。
「わかっているとカピトリヌス様に言ってくれ。」
カピトリヌスの使いは、同じ丘の上に豪邸を立てているカルビエンヌのもとに向かった。
突き出た腹をさらしながらカルビエンヌは隠すこともせずに使いに会う。
使いからの依頼は、強硬手段を早く実施するように、とのカピトリヌスからの督促だった。
何様のつもりだ、と叫びたいカルビエンヌだったが、元老院に大きな影響力を持ち尊称まで持つカピトリヌスを相手に喧嘩を売る気はなかった。
使いの話を聞き、できるだけ早く対応しよう、とだけ笑顔で伝えて使いを追い返した。
それから自室に自分の奴隷に指示して、若い少女奴隷を数人連れてくるように言った。
イヤらしく嘗め回すような目で、大きなベッドから自らの集めた品々を見てカルビエンヌは腹立たしい気持ちもどこかへいき、満悦だった。
これらのものは、時を見て、没落した貴族や商人たちに高利で借金をさせ、その返済で入手したものだ。
正当なものだった。金利がべらぼうに高いという点を除いては。
そして、奴隷として買い取った女たちの中でもまだ幼い者たちを侍らせて楽しむ。
女も年を増していくと知恵が付き口うるさくなる。
だから、まだ小さな少女たちを買いあさり、年をとった者たちはこき使うことがうまいやりかただった。
もちろん、あまり苦しめると逃げだすだろう。不満を口にしたりされるのも元老院議員としては勝手がわるい。取り仕切るやつらには金を与え、不満を口にする者たちはいつの間にか消す。
労働力になる奴隷はいくらでも手に入るのだ。
笑いながら自分の傍で小さくなっている少女たちを並べ臀部を撫でながら、酒を口にする。
カピトリヌスのやつめ。私を顎で使いやがって。
しかも、自分の手を汚さずになんとかしようとしてるところが気に食わない。
自分たちで打開できそうもないから、荒事でなんとかすべき、という俺の案に乗っただけだろうに。
イヤらしく笑いながらカルビエンヌは自分が頼りにする部下の一人、ゾヌリを呼ぶように奴隷に言った。
カルビエンヌの手足となって汚れ仕事を手掛ける男たちがいた。そのうちの一人で、際立って特殊だったのが汚れ仕事を専門に請け負う男ゾヌリだった。
ゾヌリを待っている間、カルビエンヌは少女たちを虐めて楽しむことにした。
少女たちをベッドに待たせて、少しの間、怯えながらも抵抗できないかわいい顔を羽交い絞めにして、苦しむ姿を見て笑う。
カルビエンヌが興奮して、少女たちは泣きながら許しを乞うが誰も助ける者はいない。
一人の少女が息ができなくなり気絶し、カルビエンヌの気持ちはほかの少女に切り替わる。逃げることもできずにただ金縛りにあったように動けないでいた一人の少女に太った身体を預けると今度は苦しすぎて涙とともに鼻水も出る。それを鼻水ごと顔をなめ挙げて少女に抱き着く。
カルビエンヌの狂った遊びが続くところでようやく扉をノックする音が響いた。
「ゾヌリだ。」
「入れ。」
カルビエンヌが中に入るように促す。
ゾヌリはやせた小男だった。一見して乞食に近い。しかし眼はするどくあたりを観察していた。
またこの鬼畜のような男は奴隷の少女たちを弄んでいたのだろう。
何の感情も浮かばない。
少女たちへ憐みをかんじなくもないが、ここにいるかぎり最低限の衣食住は保証されているのだ。嫌なら出ていけばいいだけだ、そう冷たく思っていた。
ゾヌリの主人、カルビエンヌは少女を手の中で弄びながらゾヌリに話しかけてきた。
「執政官ユリウス・カエサルは知っているな。」
「女ったらしの借金王。」特に表情も変えず口も最低限しか動かさずに言う。
「そうだ。最近調子に乗っているやつの娘ユリアを殺してこい。できるだけ派手にだ。そしてそれがクラッススの手のものがやったように見せるのだ。」
「わかった。」
「ああそうだ。これが実現できればカエサルとポンペイオスの仲はすぐにばらばらになるだろう。」
「女は殺す。だが、クラッススの手の者がやったように見せるのは難しい。」
「なぜだ?」
「クラッススとカエサルが仲がいい。金貸しと借金王の関係。クラッススがカエサルの娘を殺す理由がない。」
「そりゃそうだ。わかった。そこはこっちでなんとかしよう。娘を殺すだけに専念しろ。ゾヌリ。」
「わかった。」
「金は弾む。1週間以内に行え。」
「殺し方の注文は?」
「もしかしたら死んでもカエサルは情報を隠そうとするかもしれない。だから人目がつくところで殺してくれ。」
「わかった。ほかに用がなければ俺はいく。」
「頼むぞ。」
気持ちが高ぶっていたカルビエンヌだったが、ゾヌリと話をしていると、気が落ち着いてきたというかその気持ちの悪い眼で、表情も変えずに話をする姿にげんなりした。
手元で遊んでいた少女をいつの間にか離してしまって興も覚めたカルビエンヌは仕事の指示を出したことに満足して腹が減ったために食事に戻ることにして、少女ではなく奴隷を呼んで服を準備させた。
カルビエンヌ邸を出た静かに歩く男は、上に布切れを羽織っていて見た目には乞食か商売に失敗した商人
程度にしか見えない。似合わない豪邸の立ち並ぶ場所を去って、ゾヌリはローマの下町スブッラのほうに足を向けた。
カルビエンヌは暗殺者ゾヌリを呼んで素早くユリアを暗殺するように指示した。カエサル、ユリアの運命はいかに?




