ユリウス農地法
あらわになった、ポンペイオス、クラッスス、カエサルの3者同盟。
不意を打たれて衝撃を受ける門閥派をよそに、市民の期待である農地法は成立しようとしていた。
ポンペイオスが壇上にあがる。
市民の歓声がひときわ高くなるのを皆が感じていた。
カエサルは笑顔でポンペイオスを紹介しようとするが、市民たちは皆、その美中年が誰かをすでに知っており、歓声は止まない。
紹介をやめてカエサルは、静かになるまで少しの間、ポンペイオスが市民に向かって手を振っている間、あらためてポンペイオスの人気を肌で感じているしかなかった。
私も人気者だが、ポンペイオスの人気はレベルが違うな。
さすがだ。
しかし、私もポンペイオスと渡り合えるほどの人気をいつか手にしたいものだな。
これを嫉妬ではなく、私自身が邁進するエネルギーに変えよう。
そんなことを考えていた。
一通り、歓声がおちついて、ポンペイオスが話をしだした。
「私は農地法の成立させるだけでは不十分であると考えている。この法が正しく成立した上で実施されることが必要であろう。」
背も高く美中年であるポンペイオスがそう言い切った。
もともと、ローマ市民たちはローマを偉大にさせている将軍、ポンペイオスへの好意は強く、その軍事的才能にも信頼を置いていた。
そのポンペイオスの発言である。皆の期待が次の言葉に集まっていく。
さらに美中年の声に力がこもる。
もともと元老院にて過去に認可されたいた農地法だったことを引き合いに出して、さらに一通り話をしたポンペイオスは民衆を見て満足した。
農地法についてのポンペイオスの演説が終わった。カエサルはゆっくりと近づいてユリウス農地法の各項目をひとつひとつ確認したいと言った。
ポンペイオスは頷く。
カエサルが口にして、ポンペイオスがイエスという。そして民衆が拍手喝采をする。
それを繰り返してすべてにYESといった後で、偉大なるポンペイオスは市民たちに向かって両手を広げて言う。
「もしも、誰かが農地法の実施を妨げるようなことがあれば、この私、ポンペイオスが盾となってこの法案と実行者たる市民を守る。そして剣となって敵を滅ぼしてみせよう。」
市民は歓喜は最高潮に達する。
熱狂が広間全体に広まり、歓声が止まない。
ローマの外敵、海賊たちや近隣の反乱勢力をすべて滅ぼした「偉大なるポンペイオス」が農地法の守護者になると明言したのだ。
大歓声は止むことなく、拍手喝采、祝う歌がつづく。
それとは反対に元老院派、門閥派の者たちは肩を落としてその場から逃げ去っていった。
敵は知らぬ間に巨大になっていた。
反元老院であることも明らかなユリウス・カエサルが敵だった。
カエサルだけであれば執政官になってもさほど大したことはできないと思っていたのだが、ローマの半分はクラッススのものと言われる金持ちで経済界を代表するクラッススと常勝無敵の将軍、「偉大なる」ポンペイオスが明らかにカエサルの側に周っていたのだ。
万が一武力をもってしても、ポンペイオスには勝てない。
勝てないどころか兵が集まらない可能性すらあった。
金を工面することにおいてもクラッススが敵に回ると金を十分にあつめられるかもわからない。
そして、今や執政官として政治の才能を見せつけたカエサルがいることで、政治、経済、軍事をすべて握られていた。
衝撃を受けた門閥派のメンバーは、執政官という責任ある立場にあるはずのビブルスもキケロもカトーもカピトリヌスも誰もが集まることもせずに個々の邸宅に逃げ帰っていった。
ビブルスもいなくなり門閥派が逃げたことで、カエサルはさらに攻勢に出る。
残った多くの元老院議員たちは、この民会での決議を順守する誓約を行わせられた。
さらに、元老院で議論された時には除外していた、元老院議員たちの既得権益の地域となっていて手出しをしないとしていたはずのカラブリア州などの肥沃な台地も除外することをやめた。イタリア全土が農地法の対象になった。
それでも誰も反論できずに、呪われた法案と言われた農地法は完全な形で成立した。
市民たちの皆が喜び、カエサルとポンペイオスとクラッススを称える。
ポンペイオスがいてくれることで、法の施行についても問題がないはずだ。
新時代派を歓迎する喜びの宴はその日ローマ市内のさまざまな場所で開かれた。
その日は民会が終わった後も、ローマの街は興奮に包まれていた。
人々はいつも以上に街に繰り出し、酒を飲み、今後のローマの未来を語ったり、カエサルの背後にポンペイオスがいたことがあきらかになったと陰謀を語る者がいたりと大騒ぎになっていた。
そして、民衆の興奮を尻目に、もはや隠す必要もなくなった新時代派の大ボス3人は、クラッススの家に集まり祝杯をあげることになる。
「やったじゃねえか。」そうクラッススがカエサルの肩を叩きながら言う。
「ええ、一つ目標を達成しましたね。」と笑顔で答える。
ポンペイオスは深く頷き続けている。凱旋式の時以来の高揚感に酔いしれていた。
互いに乾杯をした後は、次に向けての話し合いだった。
「新時代派の華々しいお披露目だったな。カピトリヌスたち煩いじじいどもや頭の固いカトーたちが驚いていた姿は最高だったぜ。」
とクラッススが笑いながら酒を口に入れる。
「そうだな。私も彼ら門閥派に痛い目を見させられていたから痛快だったよ。」
と2人の実力者が共に満悦の表情を浮かべていることにカエサルも笑顔になる。
「農地法を完全な形で施行できそうです。でも、これで終わりではありません。」
「そうだな。」
「ああ、そのとおりだ。」
3人は目をあわせて頷いた。
それでもうまく行っていることで、ついついポンペイオスもクラッススも笑いがこぼれなごら、未来のことを話す。
ポンペイオスもクラッススも新時代派に参加したことを間違いではなかった、と確信していた。
そして3人は新時代派の地盤を強化するために美味い酒を口にしながら議論を活発化させていった。
ついに市民の悲願である農地法が、完璧な形で成立した。
3人の権力者はさらなる地盤強化に努めることになった。




