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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
ガイウス・ユリウス・カエサル初の執政官へ
24/70

民会、カエサルの舵取り

ついに農地法を討議するための民会がはじまった。

カエサルはどのような運営を行うだろうか。

そして、3月の晴れた日、カピトリヌスの丘にあるローマの広場において、農地法についての議論が成されることになった。

議事進行はカエサル。民会では同僚執政官の合意も必要なため、ビブルスも自分の出番を待っていた。

通例、こういった場合、議題を民会で議論した後で最後の承認として同僚の執政官が呼ばれる。

ビブルス本人も、門閥派たちもそのつもりで、議題を潰すつもりだった。


民会を開催すべき大きな会場は満員に埋め尽くされていた。

カエサルの仲間たち、ポンペイオスの旧兵士たち、クラッススの息のかかった商人たちが続々と集う。門閥派の貴族やその影響下にある市民たちも、ローマ市民の多くが今日の民会を待っていた。


民会の司会を進行するのは、現執政官のカエサル。

笑顔で市民たちの前に出て歓声で迎えられる。

市民たちは、もはや女ったらしの借金王とは目さなくなっていた。

改革を先導する人好きするリーダーとしてカエサルを見るようになっていた。


そんな歓声のなかで、カエサルの声が聞こえると市民たちはすぐに静かになった。

一人、カエサルの声だけが広場に響く。

「市民諸君、ローマの現状を改善する農地法の実現のために集まってくれてありがとう。まず最初に我が同僚であるビブルスに意見を戴こう。彼が否定すればこの法の成立はあり得ない。だから彼の意見を聞きながら、議論を深めていきたい。」

まさかの順番だった。

市民たちの前で盛り上がった議論を覆す、先延ばしにする、否定する。そういったことを考えていたビブルスは顔を赤くして壇上に上がらざるを得なくなった。


ビブルスは時間稼ぎをかねてゆっくりと壇上に上がる。

しかし、最初からこれでは思いやられる。市民たちから急ぐように急かす声があがった。


結局、ビブルスは他の人に押されるようにして壇上に上がる。

民衆が期待と不安で自分をみているのがわかった。

この何も議論していない段階で否定などできない。

汗が滝のように流れてきた。

ビブルスも執政官になっただけあり、胆力もあり、実際の戦場だけでなく言葉を交わす歴戦においても強者だったが、そのビブルスにして言葉が出せなかった。

しゃべらない現役執政官にすぐに市民から不満の声が上がる。

眼を瞬きながら、ビブルスが導き出した言い訳は、

「今日は日が悪い。」そう言うと市民から失笑とため息が漏れた。


失笑を聞いてビブルスは声を荒げる。

「この大きな問題のある法案を民会に流したカエサルに対して不見識だ」と文句を言ったところで、ビブルスの話のギアが上がる。

しかし、市民の期待とは違う方向でカエサル個人への攻撃と法案への議論をしようとしないビブルスに民衆は怒りを覚えて文句を言い出す。

さらにビブルスにゴミを投げたりするものも現れて、結局ビブルスは市民の記憶にのこる何もできずに逃げるようにして壇上を去った。


ここで門閥派から勢いをもって出てきたのはカトーだった。

カエサルは、誰にでも意見を言う機会はあたえられるべき、としてカトーの発言を許した。

カトーの発言は、元老院での発言と同じく牛歩戦術であり、議論を先に進めるのではなくただ単なる時間稼ぎをするものだった。

はじめ我慢強く聞いていたカエサルだったが、まとまりを欠くカトーの意見に民衆のいら立ちを感じて、衛兵を呼んでその場から除こうとしたが、その前に市民たちがカトーをののしりはじめた。

それでもだらだらと話すことを止めないカトーに対して、市民の一部がビブルスの時と同じようにゴミを投げ出した。さらに一部の市民が壇上によじ登って、カトーをひきずりおろそうとする。

カトーはそれでもふんばってその場にいようとしたが、市民からの不満と激高した市民の一部が暴れだしたのを見て、門閥派の議員やその周りを固める者たちがカトーを守りながら壇上を後にすることになった。


カトーが壇上から去り、少しだけ落ち着きを見せた会場に、カエサルはクラッススを指名した。

大柄なクラッススがのっそりと壇上にあがる。

それだけで騎士階級、商人たちから大きな歓声があがった。

「だらだらしゃべるのは好きじゃねえ。ユリウス農地法を俺は支持する。」最初にそう切り出したことで市民から大歓声が巻き起こる。

気をよくしたクラッススが少し意見を述べたが歓声で聞こえないくらいになり、クラッススも溜息をついて一言だけ大声を出した。

「経済は活性化する。ローマはさらに良くなるだろう。」

しっかりと決めてからクラッススは歓声の中で壇上から降りて行った。


キケロたち門閥派はその行方を見ながら、やっと気が付いた。カエサルはクラッススと手をむすんでいたことに。そして門閥派やそれ以外の元老院議員の多くにさらなる衝撃が走る。


カエサルが次に壇上に招いたのはポンペイオスだった。


カピトリヌスは頭が真っ白になっていた。

まさか、カエサルは、クラッススとポンペイオスと組んでいたのか。

キケロもカトーも、元老院の反カエサルと思われるすべての者たちはやっと理解した。


3人の権力者が裏で手を結んでいたことに。


農地法成立のため、ついに密約が表に現れる。

カエサル、ポンペイオス、クラッススの三頭が手を結んだことを知らしめた。

このまま農地法は成立するのだろうか。

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