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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
ガイウス・ユリウス・カエサル初の執政官へ
23/68

民会前日

農地法を成立させるための舞台を元老院から民会に移したカエサル。

最後の下準備をして本番を迎える。

巨大都市はざわめいていた。

街全体が興奮と神経を尖らせていた。


市民にとってカエサルが農地法の提案を行ったことは、カエサルの開始した元老院議事録のせいで簡単に知ることができた。

そして、元老院での低調な議論についても一緒に知ることになった。

その伝達のスピードは早く、議論の進捗までもが、ローマ市内に伝わりきっていた。

カエサルを変革の旗手として褒めたたえる声も多く聞こえるが、それ以上に呪われた法案である農地法が元老院で議論されたということがセンセーショナルだった。


それでも100万に及ぶ巨大都市にこれだけの速さでで情報が伝わりきっていた裏では、カエサルの情報部と、仲間たちが率先して情報を流したこと、ポンペイオスとクラッススの部下たちも積極的に情報を流したこと。そして、メディアの重要性を理解していたキケロが門閥派視点での意見を流し、新時代派と2つの意見が市内を駆け巡った。

さらにカエサルの指示で、プブルやアントニウスなどカエサルの元に集う仲間たちの活躍で郊外や近隣に住む市民権を持つものたちも高い関心をもって農地法の行方を見守った。


その状態でカエサルが元老院を一喝して、民会の開催を提示したことで、さらにローマは大騒ぎになった。

多くのローマ市民が民会の議題を知り、腕まくりをして待つこととなった。カエサルは自分の仲間たちとポンペイオスとクラッススを通して、民会に仲間たちを総動員するように依頼した。

プブルやアントニウス、以前からの仲間たちにも伝えてローマ市民権を持つ新時代派とされる者たち全てをかき集めるよう指示した。


「俺はカエサルの言う通りにオスティア港までいき、交易をしているローマ市民権を持つ商人たちに、北側の近隣の街にも行って話を広めた。意欲ある平民たちに当日の民会に間に合うようにしろと伝えてます。」一流の剣闘士のような厚い胸板と鉄のこん棒のような両手足を持つアントニウスが、大柄な体格を小さくして、カエサルの前で頭を下げながらカエサルに言った。

「ああ、ありがとう、アントニウス。」カエサルもアントニウスに対して、心の底からの礼を伝えた。アントニウスに負けじと、プブルも自分の行ったことをカエサルに伝えた。

「私はローマの騎士階級の者たちで父の息があまりかかっていない可能性のある者たちにあたり、カエサルを具体的に支持してくれるよう伝えております。」

2人の若者が手柄を取り合うように言うとベテランである丸い小柄な体格のトレボニウスが負けじと、「わしも市内に古くからおる熟練の職人や商人に伝えましたわ。彼らの気持ちも高まっているじゃろう。」

そこに集った他の者もカエサルに褒められたく、手を上げて次々に意見を言う。

並んで、自分の頑張った話をするカエサルより若い彼らを見ながら主人に忠誠を誓う犬みたいだ、と思ったが、何も言わずに笑顔でそれを聞きながら、口を開いた。

「皆、ご苦労だった。君たちが駆け回ってくれたおかげで、民会に多くの市民権を持つ仲間が参加してくれるだろう。だが、門閥派も多くの仲間を連れてくる。油断をしてはならない状態だ。」

アントニウスもプブルもその他の者たちも真剣な表情で頷いた。

「アントニウス、民会では、市民権を持つ者たちのなかで壇上の近くに最も意見の厳しい者たちを集めてくれ。」

「はい。」

「プブル、君の声をかけた者たちのなかで声が大きく、怖いもの知らずの者たちは会場の真ん中辺りに集めてくれ。」

「そして、自分たちはその中に加わるな。民会の該当者以外が前に行くこともダメだ。遠巻きに全体を見ているように。」

プブルが心配そうに言う。

「しかし、カエサル。私たちもこの大事に役割を担わせてもらいたい。何か民衆を誘導するようなことができると思います。」

カエサルはプブルを見て笑って左右に首を振った。

「すでに仕込みは終わった。私の仕込みで戦いは優位に進められるだろう。全体の戦況を見ていなさい。下準備をしっかりやることが大切なんだよ。」

それでもプブルもアントニウスも他の者たちも不満そうだった。

それだけ農地法の影響力は大きいのだ。ここで何か自分が活躍したいという思いもあるだろう。

カエサルは若者たち、ベテランたちの想いを受けて、笑って皆に言う。

「私が属州総督として出向いたときに、蛮族と争いになったら、頼れるのは蛮勇を誇る戦士ではない。全体を見れる将軍だ。」

そういうと皆を改めて見回していう。

「さて、蛮勇を誇るのではなく、将軍としてふさわしいのは誰かな。」

茶目っ気たっぷりにそう言われると皆、素直に引き下がった。

来年、執政官が終わった後に、カエサルが統治するであろう属州は新時代派の中ではポンペイオスが未踏のガリアかアフリカではないかとすでに噂されていた。すでに法務官時代も武勲を上げているカエサルの軍に参加して名を上げたいと思う者たちは多かった。

カエサルとしては、いかに農地法がカエサルの政策の肝であっても扇動するような真似をして民会に影響を与えたくはなかった。あくまでも民会は市民による支持でなりたつべきだと考えていたのだ。そしてポンペイオスとクラッススが仲間である以上、市民による支持で十分に勝てる。

カエサルには自信があった。


下準備を整えたカエサルは、その晩もいつものように酒を飲み、皆と語らいあって楽しく過ごして眠りについてぐっすりと眠って翌朝を迎えた。

ついに準備も終わった。呪われた法案を正当な方法で成立させることはできるだろうか

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