ローマ、ゲルマニア
カエサルのもとにきたゲルマニアからの使者。
ここでカエサルは内政だけでなく外交にも着手をはじめる。
若い頃からカエサルは情報を集めることを大切にしてきた。
金がない時代から、情報には糸目を付けず金を使っていた。
情報は重要である、と少年時代から考えていた。
それから、スッラの反抗してローマを追われたときに出会ったエセイオスという情報の達人と会ってから特にその方向は顕著になる。最初は気付かなかったが旅の中でエセイオスから情報の大切さを感じることがあり、さまざまな経緯を経て情報の大切さを習うことになった。
それからローマに帰還して元老院議員になる前から、情報を大切にして借金を全く気にすることなく「カエサルの情報部」を設立した。
それは、最初のころはあまり役に立つように見えなかったが、組織化されることでどんどん役に立つようになってきた。
元老院議員になるころになると、カエサルの情報収集力はずば抜けていた。
だが、情報部についてのみ、カエサルは人に話をすることはなかった。
さまざまなことを書き留めておくことが好きなカエサルだったが、情報部については何も書き残さなかった。
書くということは伝える、伝わるということであり、自分だけの情報源をもつことを明かさないほうが良いと考えていたのだ。
エセイトスが抜けて、フリーだったインゴドという一時期対立したこともある情報屋を招聘して、ローマを管轄させ、若い頃から育て上げたさまざまな才能を持つ農民出のザハをローマの属州や周りの土地に足を向けさせたことで、ガリアやゲルマニアについても一定の情報を集めることができていた。
ローマではゲルマニアは森林のさらなる奥地に住む単なる蛮族とだけ理解されていた。言葉を理解せず文化を持たず、ただ巨大な体躯の男たちとそれに並ぶ女たちが力ですべてを支配している、そう信じられていた。
元老院の長老としてもあまりくわしいことを理解できていなかったゲルマニアだが、実際にザハが足をのばしてくれたことでカエサルは詳細を理解することができていた。
ゲルマニアの者たちはローマとはまったく文化、生活が違っており、体躯に優れており、狩猟には特に秀でた才能を持っていた。彼らは主に固有の財を持たずに、男も女も裸に近い格好で動物も他の部族へ対しても狩猟をすることで富を蓄えており、傘下に収めた他の部族を奴隷として使役することでさらなる富をたくわえており、ローマとは違う形で発展を遂げていた。
ゲルマニアは族長の権利が圧倒的に強く、その族長の志向に左右される。
そして、アリオウィストスは強権、強硬で他部族を攻めることと戦上手によって名をなし、多くの男たちから支持されているという。
近隣の諸民族を従えてアリオウィストスは南の巨大な国、ローマの建物を見たことがあったという。そこでローマの技術を驚異に感じ、ローマとは距離をとり自国の発展を考えるようになったという。
カエサルは詳細を聞いて考える。
近年、ローマの北にあるガリアでさまざまな問題が起きている。
それは属州となっているガリアとそこにまたがるローマの属州外の森林地帯やさらに奥地を含む部分で親ローマと反ローマで諸部族が入り乱れているという。
徴税官が襲われたりもしている。
さまざまな問題を持っているガリアの横に、ローマの朋友を置くことは、ローマとしても安定を保つことができるのではないだろうか?
だが、アリオウィストスは信頼できるのか?
悩みながら一つの結論を出す。
アリオウィストスを信頼する。良き隣人としてローマの朋友になってもらおう。
だが、
万が一、アリオウィストスが欲を出すようであれば、自分が対峙する必要がある。
そう決めた。
自分の中で決めた決意までを誰にも話をすることはなく、カエサルはアリオウィストスを、「ローマの朋友」になってもらうことを前向きに検討しようと、元老院に伝えた。
元老院はさまざまな意見が出てきたが、結局現時点の情報で、ゲルマニアのような蛮族にローマの朋友の名を与えて良いのか、彼らを信じてよいか、などの議論に終始する。
時間をかけて元老院はより詳細な情報がほしいとして、アリオウィストスに使いを出すこと、そして、独自で調査団を派遣することを決定し、この問題は少し先に送られることになった。
こうして、カエサルの執政官就任して3ヶ月目、主執政官としての2回目の時間がすぎる。
それから、バルブスの1ヶ月の間に、カエサルは念願の取組を行うため、裏でポンペイオス、クラッスス、ビソと打ち合わせをすすめた。合間で、キケロやルクルスなど、政治的には反発しても、哲学や文学などでの同志との宴を楽しんだ。彼らの一部はカエサルの次の狙いを聞き出そうとするものもいたが、カエサルはただその場を楽しむだけで、政治の話は
「この場で話すことではないね。」
と笑って流したため、関係者以外は誰もカエサルの次の狙いはわからなかった。
ゲルマニアとの外交問題がいったん保留状態のなかで
カエサルが大きな一歩をすすめようとしていた。




