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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
ガイウス・ユリウス・カエサル初の執政官へ
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ルクルスの晩餐

執政官カエサルの取り組みは順調だった。

さらに前に進めるため、カエサルは準備を続ける。

執政官に就任して3ヶ月目、カエサルが主導する2月目、議員たちは更なる困惑に襲われた。

公務員法を通した。

ここまでは良かった。

カエサルが追加したのはさらに付け加えて属州総督を含む属州勤務者の納税額を公表することに決定したことだった。

これによって不当に利益をあげていたものたちが見えてしまうことになったのだ。しかも公表であるから誰にでも見ることができた。

属州総督は自分の好き勝手にやれなくなった。属州に行ってもローマの法を守る必要があった。

これに市民は熱狂する。

これこそ正しい姿だと地方も属州の民もカエサルを支持した。

ただ、カエサルのバランス感覚は絶妙で、そこそこの金額の寄付を許したりすることで、過剰な搾取はできないが普通に利益をあげる程度の場合は問題にはならなかった。

これによりカエサルは元老院の中でも良識的な人たちを味方に付けた。

彼らは属州よりの苦情を真摯に受け止めており、毎日のように提訴される属州統治の乱れを気にしていたからだ。

彼らのリーダー的な存在の1人、カルプルニウス・ピソと話し合うことが増える。

良識的な人々は、カエサルの取組の一部を評価してくれているようであった。

ただ、元来強いリーダーシップを持たず、学識、知見が高いところが取柄でもある良識的な議員たちは門閥派と比較して力は持っていなかった。

それでも新時代派(ポンペイオス、クラッスス)に次ぐ理解者がいることはカエサルには心強く感じられた。


元老院内の政治で、味方を増やしつつ、門閥派を中心に敵も強硬になってきたある日、カエサルの進行に躊躇なく文句を言ってくるようになった門閥派の重鎮、ルクルスから晩餐の誘いを受ける。


「カエサル、君と一度じっくり話したいと思うが、まずは私の晩餐にきて、互いをより理解したい。」

シンプルに、しかししっかりと相手への敬意を見せるルクルスのやり方をカエサルも素直に受け入れる。


カエサルが豪華な食事や遊びを好むことは元老院も市民もよく知られていた。

また、ルクルスは本当の貴族精神の持ち主で、食事や生活に贅をすることでも有名だった。カエサルを抱き込もうとするのか、と少しだけ勘ぐったが、直ぐに思い直して、ルクルスからの申し出を快諾する。

せっかくの真の貴族精神の持ち主からの誘いだ、楽しもう。

そこで下世話なことをするのはルクルスらしくはない、そして晩餐に招待した主の好意を足蹴にするのはカエサルの流儀でもない。


ルクルスに誘われた日、いつもと変わらないメンバーを連れて噂のルクルスの晩餐に伺う。

一度の食事で一年生活ができるほどの金をかけていると言われる晩餐は、真の豪華さ、を表していた、


ルクルス邸には何人かの招待された客がいた。キケロやカトーなど、門閥派はいない。キケロがいれば政治的な話しは抜きにしても哲学や地政学の話でもりあがれたのだがな。少しだけ残念がったが、カエサルはルクルス本人との会話を楽しめることに気づく。


食事は豪勢の一言だった。

しかもただ豪華な食事が並ぶのではなく、一つ一つが考えられて、順番や口当たりのバランスまで考慮された素晴らしいものだった。

その一つ一つに、驚きを示し、作った料理人や準備をしたものたちを讃え、素直に食事を楽しむカエサルを見てルクルスも胸襟を開いて話をする。

共に西アジアに赴いた経験があり、振る舞いに品があり、学識も高い2人はさまざまな面で意気投合する。


晩餐を楽しんだところで、ルクルスは真顔に戻りカエサルにいう。

「カエサル、君との話は最高だったよ。君が民衆のために動き続けていることだけが残念だ。貴族のために動くことこそ大事だと思うよ。」

「褒めていただき、ありがとうルクルス。そこだけ我々で意識の違いがありますね。私は民がいるからそこ貴族がいる、と思ってます。」

「それは思い違いだ。民は貴族に導かれるだけの存在でしかない。」

「だから搾取するんですか。」

「そうではない。搾取というのは言葉が強いな。理解してもらいたいのは、あまり豊かな富があると使いこなせない者たちがいる。それが民だ。民に富の価値はあまりわからない。食べ物だって量があればよかろう。」

「そういって富を民に還元しないのは良くないですね。」

「なぜだい?どうせわかるまい。カエサル、君はどうも民衆の影響を受けすぎている。残念だが、君がこれ以上民衆のためにばかり動くのなら私たちは徹底的に反対する。さあ、どうする。」

ルクルスが直接的にカエサルを責める。

カエサルは注がれた酒を口にしながらニヤリと笑って、ほかの人には聞こえないようにルクルスに近づいて、

「あなたが属州総督時代に過剰な富の搾取をされた証拠はつかんでいます。明日にでも提訴できます。」

そう言った。

ルクルスは固まり、言葉を聞き終わった後で回りに聞かれていないか気にしたが、聞こえていないようだ。

怒りを覚え顔を赤らめたルクルスはカエサルをにらんだ。

カエサルもじっとルクルスを見る。

互いに目を合わせて少しの時間が経つ。


ふとルクルスが目を逸らせた。


先日成立した法に引っ掛かる非合法の利益をあげたとしてルクルスを訴える情報を持っていると直接的にカエサルは脅したのだ。

もしカエサルが訴えて承認されたら、ルクルスは元老院から除名される。

ルクルスはカエサルを睨みながら、何もいわずにその場を去った。


その後も晩餐は続いた。

しかし、ルクルスがカエサルとそれ以上話をすることはなかった。

ほかの招待客とあわせてカエサルは晩餐を最後まで楽しんで帰宅した。


その日から厳しくカエサルに質問を浴びせかけ、非難をすることさえあったルクルスは議会で何も言わなくなる。

そして、欠席することすら多くなり、何かあったのか聞かれても体調が優れない、としか答えなくなった。

元老院派の重鎮でもあるルクルスを黙らせたカエサルは、追加で幾つかの法案を進める。

そして、カエサルの二ヶ月目は終わった。

バルブスの二ヶ月目も問題なく過ぎ、カエサルはその間に最後の仕込みをする。


内政に気持ちを囚われていたところで、ローマの属州ではない、ゲルマニア地方から、特使がローマに届いた。


良識派の人々と交流をし、元老院派の重鎮ルクルスを言葉だけで抑えたカエサルの前に一つの問題が浮上する。

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