表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
ガイウス・ユリウス・カエサル初の執政官へ
16/68

ユリアの想い

ポンペイオスと縁戚を結ぶためだったがカエサルは本人の意思を尊重したかった。

そして、最高の良縁であったとしても、本人の気持ちを大切にする。

それがカエサルの流儀だ。

元老院の議場でもないのに、こんなに心がひりつく。


対峙した美しい女性は長い薄い茶色の髪を綺麗に巻き上げていた。さらに髪に幾つかの装飾を施し、美しさを際立たせていた。流行の髪のねじり方ではなく、もっと複雑に髪を結い上げているところを見て痩身の男は笑顔を見せる。

こだわるところは、私と同じだな。

自分が服装に常にこだわりを見せていたように、愛しい娘は服や髪にこだわりが強かった。


「父さん、変な笑顔になってますわ。ところで今日はどのような御用でしょうか?」

娘の姿に気持ちをとられていたカエサルはあわてて話を切り出した。

「婚姻について、一度2人だけで話そうと思っていたんだ。」

「はい。ポンペイオス様とのことですよね。」

「ポンペイオスは一代の英雄だ。カエサル家のことを考えればこれ以上ない良縁だよ。しかし、私よりも年上である。早く死ぬかもしれない。」

そうもっともらしいことを言う父を見て、ユリアは笑顔を見せた。

「父さん、私は年よりも人を見て、ポンペイオスに嫁ぎたいと思ったのよ。それに、私が少しくらい好き勝手言っても許容してくれる大きな人が良いわ。」

カエサルは頷いた。

ユリアは我が子ながら美しく聡明に育った。

しかし、カエサルの母アウレリアの影響もあり、政治や経済、社会問題などまで知識を持っていた。カエサルの下にいるときは、美しいが風変わりな令嬢で済んでいたが、嫁いだら、ポンペイオスの家でポンペイオスを崇める召使いや部下と関わりながら生きていくことになる。

男性、特に家長を重んずるローマの一般的な家と比べてカエサル家は圧倒的に女性が非常に強かった。カエサルは母を信頼し、姉に怒られ、妹に愛されてきたので、女性の力が強くても気にしなかった。それどころか元老院に入った後でも母とは政策や法の議論を交わし、助言をもらうこともしばしばあった。これはローマ社会においては異質だった。いや、実際は元老院のうちの一部は、妻の尻に敷かれている者たちも多い。ただそれを見せていないだけだが。

脇道にそれた考えを一人で軌道修正させた。

どうもユリアのことになると考えがまとまりづらい。


ユリアはアウレリアの影響を非常に強く受けて育った子である、

だからこそ、ローマに並ぶものなしと言われるポンペイオスのもとに送ることが心配なのである。

考えをめぐらせているカエサルを見て、ユリアは父と同じような笑顔を見せて口を開く。

「安心してください。父さん。私はポンペイオス様とうまくやれると思います。いつも女の人を派ベラ化している父さんでさえも顔を立ててきたでしょう。浮気心の少ないポンペイオス様であれば、十分にうまくやれると思います。そしてポンペイオス様とだからこそ私の願いの実現もできる可能性があるのです。」

「それは現職の執政官である私ではできない、ポンペイオスだからできるということかい?」

カエサルが少しむっとした感じで言うのを聞きながらしながら、父を扱いなれた娘は派を見せて笑って言う。

「いいえ、父さん、あなただけではなく、執政官を支える圧倒的な実力者がいなければむつかしいと思うのです。私が願うのは女性の声も政治に届けさせるようにしたいのです。父さんとポンペイオス様がそれをしてくれることで、ローマの民の認識は大きく変えていけるでしょう。」

「そういうことか。」

「そうです。父さんがローマを変えていくのに、私も少しばかり力添えしたいのです。私だってローマに何か貢献したい、と言いたい女性はたくさんいるかもしれません。」

「そうだな。元老院議事録は元老院を風通しよくした。ユリアがしたいことは家の風通しをよくすることか。ふふ、一朝一夕でできることではないが、だからこそ面白いな。」

二人は意見が一致して笑った。


女性が意見できる社会か。

家長を通さずに女性自身が女性の言葉で意見できる社会。

まだ想像しがたいが面白い。


カエサルは考えた。

女性の声を聞く。

個人的にはすごく良いことだと思っている。

アレクサンドロス大王でも、伝説の最盛期のギリシャでも成していないことだった。


自分は母のアウレリア、姉のユリア、妹のユリティアと家族の主要人物は女性だった。家庭教師も母が手配したものだからカエサル家は母が家長のようなものだったのだ。そして、コッタ家でさえも、母の意見は通ることがあった。

そういった現実を見ると、ローマ市民であり家長である男主体のように見えて、ローマの半分は家を支えている女たちの意見も大切にされてきたのだ。

それを制度化する。

カエサルがしたかった多くの取り組みの一つに、そんな世界をひっくり返すようなことがまた一つ加わることが愉快だった。

そう考えつつも、女が政治に口を出すことを嫌うのは門閥派など多くいるだろう。慎重に時をうかがう必要があるな、そう思った。


そんなことで、ユリアのやりたいことを認めたカエサルは、ユリアがポンペイオスと結婚することも認めた。

二人の話が終わるとすぐにカエサルはユリアの元婚約者の家に向かい、婚約破棄を申し入れに行った。


ユリアの気持ちも、ユリアが夢見ることもよく分かった。

カエサルはユリアとポンペイオスの婚姻を進めることを決意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ