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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
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冬季の反乱

ユリアの死から数日でジジとダインの力もありカエサルは立ち直った。


その夜は良質な酒を飲み、思い出話を互いにして、涙を流して愛娘の一生を振り返った。

高級な葡萄酒に合うチーズや野菜、パンや肉、そして新鮮なフルーツまでジジの指示で食べ物も飲み物も量は多くないが途切れることなく届いた。そして奴隷たちも他の身の回りの世話をする者たちも席を外して本当に3人だけの時間になった。


「眼の前で笑ってくれるような気がするんだ。

カエサルはそう言ったが、ダインが優しく肩をよせて、首を振り、主人を諫める。

ジジがそこで昔話のように詩にして口ずさんだ。

いつもなら、似合わないことだとお互いに笑っただろうが、この日だけは違っていた。

一人の父親であるカエサルは2人の側仕えに救われた。


酒は少し残ったが、ユリアのことを少しだけ落ち着いて見ることができるようになると、カエサルは自分の役割にあった動き、それ以上の動きを見せる。

バルブスに連絡を送った。ポンペイオスに弔慰を示した連絡をすることを指示した。

自分と同じくらいにあの優しい偉大な英雄は娘の死を嘆いているに違いない。

現実的な問題として、新時代派にも大きな影響があるだろう。門閥派は必ずポンペイオスと自分を引き離そうとしてくるはずだった。そして、親族やカエサルと交遊関係を続けている多くの女友達にまで手紙を手配した。

ローマは政争の場になるはずだった。

だからカエサル自身もローマへの影響力を強めるためローマに最も近い属州の州都ラベェンナに早急に行くため、すぐにでも旅立とうと準備をすすめる。

「明日の朝には最小人数でラベェンナに向かうぞ。」

「わかりました。」

カエサルの命令はすぐに伝えられ屋敷にいた全員がカエサルと気持ちをひとつにしていた。

ラヴェンナに向かう、という予定に合わせてカエサルの回りの者たちは準備を行う。

さすがに冬が近いアルプスを超えることになると準備もそれなりになる。それに急な出立となると、特に今年は小麦や他の食品も不作だったため、準備も間に合わない。粗末な食事になるかもという相談がカエサルにされたが文句を言わず、少し質素な食事も時には良いとだけ言い気にする素振りも見せなかった。

こうして山越えの準備もすすみ、先行部隊も、本隊も準備は順調だった。

そして、日が沈みつつある夕方、明日からの旅に向けて総督からの話を受けて全員で食べる豪華な夕食を準備していた時にクィンティクス、キケロ、ローマで活躍する高名な弁護士であり門閥派の中でも名の知れたキケロのパッとしない弟が率いる軍団から急使が届き衝撃の報告がもたらされた。


キケロ弟の報告では、自軍がガリア部族に追いたてられていること、すでにサビヌスの軍団が壊滅させられている可能性があること。

それを伝えるために伝令にきたガリア人奴隷にカエサルは、よくぞ情報をここまで届けた、と褒めた。

そして、奴隷の身分からの解放を約束し、報奨を渡し、身体を休めるように指示した。

さらに総督の旅立ちの直前の豪華な夕食を期待して宿営地に来ていた百人隊長以上を集めて指示を出した。

「戦友諸君。私はラヴェンナに行くつもりだった。だが、我らの仲間が窮地であると情報が入った。だから私は仲間を助けに行く。」

この言葉であたりは静まり返った。皆が期待していたのは旅立ちの前の美麗な言葉であり、これより戦いに赴くという宣言ではなかったからだ。

だが、カエサルはストレートに伝えることで皆の気持ちを切り替えることに成功した。皆の顔が引き締まるのを見ながら話を続ける。

「カエサル以下全騎兵は最速を持ってトレボニウスと合流する。騎兵たちは準備をしろ。出立は一刻後。食糧は自分が持てる数日分のみでの強行軍になる。すぐに準備にかかれ。」

カエサルの言葉で、旅気分から戦闘モードに切り替わる。隊長たちは気を引き締め直した。騎兵をとりまとめる隊長は慌てて動き出した。

カエサルはそれを見ると次の指示を出す。

「各軍団に伝令を送れ。トレボニウスは軍団を動かせる準備をしカエサルの合流を待て、そして合流すると強行軍にてキケロ弟の陣地に向かう。ラビエヌスはトレヴェリ族が動かないか軍団を動かしいつでも攻撃できる準備をしろ。それからトレヴェリ族側に軍を動かしてけん制をしろ。絶対に反ローマにたたせるな。クラッススの弟には軍団を率いてアミアンに来るように伝えろ。この拠点を守らせる。それ以外の軍団長は警戒をしつつも動くな、と伝えろ。」

そこまで指示をすると天幕に戻り情報部の者を呼んで指示を出す。

「ルクレイアに連絡してガリア北部の状況と主要部族の動きを注視させろ。北部からオーベルニュとヘドゥイに近づく使者を確認したら、殺せ。」

厳しい口調で言った。情報部の者は、いつも陽気な総督の厳しい口調を感じて

カエサルの指示の後一刻で集まった騎馬300騎弱は暗くなってきた森の中を駆けて行った。



キケロ弟を攻めて攻めあぐねていたネルビー族の族長ビルビドは焦りを隠しきれなかった。

ローマにも留学経験がありネルビー族、また近隣でもガリア北部でも随一のローマ通であり知恵者とされていたビルビドは、今のローマ総督カエサルに強い危機感を覚えてエプロネス族を誘い反ローマに立った。ローマの技術力を知るビルビドはカエサルを放置しておくとネルビー族も近隣の部族も全て彼に服従してしまう、と感じていた。それだけ圧倒的な統率力、人心の掌握力、そしてローマが持つ技術力とガリア部族が求めるものを持っている、と感じたのだ。事実ガリア部族長会議は、表立っていないがカエサルの意向にしたがって進むようになっている。

だからこそ、人々のために立ったのだ。

そう心の底で言いながら焦りを感じていたのは、彼自身の矛盾があった。

エプロネス族は上手くやり、軍団長サビヌス以下のローマ軍を壊滅させたという。

情報を巧みに操ればローマ軍にも勝てる。

この事実はネルビー族を奮起させた。

だがネルビー族が攻めた軍団は自分たちの砦にこもり出てこない。同じような策も使いようがなかった。エプロネス族よりもネルビー族を率いる自分が劣っているように感じてしまったのだ。

ローマへの抵抗でネルビー族こそが北ガリアをあらためてまとめあげるはずなのに。

その思いは譲れなかった。エプロネス族が上手くローマ軍をせん滅したのは運が良かっただけだ、と思っていた。


ローマの動きを気にしつつも、カエサルは自分の役割を果たそうとしていた。

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