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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
北伊三州総督ユリウス・カエサル
103/105

悪夢

冬の支度を終えたカエサルは、アルプスを越えて属州に移動しようとしていた。

だが個別にふりわけた軍団の状況が気になったカエサルはまだアルプスを越えていなかった。

若い兵士は、静かになった雪の中で、自分の息を殺して雪と木の影にあった窪みに入り込んで枯れ葉と枝を自分に被せた。


まだ隊長旗は見えている、もしかしたら自分が出ていけば、と思って身を乗り出し気味になった時隊長旗は倒れた。

身を潜めて眼を閉じる。

身体中が緊張して気が張り、回りの小さな雪の崩れる音から遠くで戦って交わる剣の音、怒声、悲鳴、全てが耳に入って来ていたが、何もせず若者はただ静かに聞いていた。

少しして身体が落ち着いてくると共に争っていた音も小さくなっていった。

安心したのか若者は少しして雪を口に含み、身体が潤うのを感じる。

もう静かに手を動かして雪を口に含み、身体がやっと落ち着きを感じると急に疲れを感じ出して身体が痺れると共に下に落ちていくような感じを受けて若者はそのまま眠りについた。


寒い。


そう思って眼が覚めたとき、外は恐ろしいほどの静寂に包まれていた。

戦いは夢だったのかと思うほどに。はっと思い出して身体を乗り出す。

もう戦いは終わっているようだった。

そしてうすらぼんやりと朝日が昇ろうとしている。


このままいては死んでしまう。かじかんだ手を動かして息を吹き掛けた。そして身体を動かす。

立ち上がるのも辛かったが慎重に回りに気を配り眼を光らせながら、木の枝や落ち葉を押し退けて立ち上がった。

自分が動く音以外は聞こえない。

深く呼吸をすると若者は戦場であったはずの場所の方に眼をやった。

呻き声も聞こえない。

もはや逃げるしかない。

しかしどこへ?


ここはガリアの勢力に囲まれている、ど真ん中だ。道はいつも指揮官たちが指示してくれていた。

生き残るよりも強烈な不安を覚えた若者は、自分がローマ兵の服装のままであることに気付き慌てて静かな戦場に駆け出した。そして死体を一つ一つ見て、比較的ましなガリア人の死体を見つけると、涙を流しながら服を剥いだ。


服装を整えた若者が、まずは戦場から遠くへ逃れようと素早く去って行った。これは正解だった。少ししてガリアの騎馬部隊らしき者たちが戦場の生き残りを探しに駆けてきたから。

森の中を警戒しながら若者はどこともなく自分が正しいと思った方向に歩きだした。



冬を迎える前にアルプスを超えるには、もうそろそろここを経たなければいけない。

だが、情報部の話では、裏でガリアの一部部族が企みを検討していることをカエサルは知っていた。

だからスレスレまでガリアの各部族の動向を見ていたかった。

「今回はイリリア属州までは足を伸ばせないかもしれない。」

カエサルがぼそりと口にしたことを側仕えのダインが、

「カエサル、総督が一度も足を向けないのも良くない気がします。私が代理で確認をしてきましょうか?」

「要らないよ。ダイン。大方海の新鮮な魚でも食べたくなったんだろうがね。」

笑いながら主従が話をしていた。

「それよりルクレイアの評判はどうだい?」

「悪くないですね。いや、良いと思います。若い女、というのはマイナスですが男を立てて表に出てこない。そして有能。」

「そうか、それは良かった。」

「しかし、カエサルもですがインゴドも良くあんな人を見つけてきましたね。」

「そうだね。私でなければ長にはしないだろう。そこをもっと褒めてくれてもいいんだよ。」

「素晴らしい。さすがカエサル。ですが私などが褒めずとも、いつも色ん人から褒められているからいいじゃないですか。」

「私はおべっかではなく、真に共に働く人からも褒められたいんだ。」

「わかりましたよ。あなたの選択は最高です。」

そうなげやりに言ってみせて笑いあった。

そこへ、扉を強く叩く音が。

「カエサル閣下、緊急の伝令が来ました。ローマのバルブス様からです。」

「入ってくれ。」

その声で伝令が急いで部屋に入り込む。

伝令と入り口の兵士が共に入ってくる。

兵士の案内でカエサルの方を見て頭を下げた。

「バルブス様よりの至急の伝令です。こちらをお受け取りください。」

そう言うとダインがすぐに伝令に近寄り受け取った。

「何か伝言などあるか?」

「内容はカエサル様に直接渡すように。そして今後の指示を待つ、とのことです。」

ダインはそれを聞いて頷き、伝令、兵士、奴隷女を退出させた。


封を開いて中をよむダインにカエサルが聞く。

「どんな内容だい?」長年連れそう腹心の顔は暗い。

嫌な予感を感じつつ、それでも質問する。

「残念で悲しい知らせです。落ち着いて聞いてください。」

念を押しながらいつもは陽気な側仕えが、どもりながらカエサルに言う。

「ユリア様が懐妊後お亡くなりになられてお子さまもお生まれになりすぐに亡くなられました。」

陽気な総督の顔が見たこともないくらいに歪む。

それから、総督は顔を隠してむせび泣いた。

ダインが今まで一緒にいて初めて見たカエサルだった。


カエサルの下に、娘であるユリアの訃報の報告が届く。

ショックを受けて床についているカエサル。

ジジとダインはカエサルを発ち直させることができるだろうか。

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