表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

知っていても儲けにはつながらないお金の話

妹と株と新NISAと

作者: 仁司方

新年早々に私は何を書いているんだろう…。

本体は本文の先です。※12と※21をお伝えしたかった、それだけです。



 特定口座年間取引報告書(※1)が交付されたので、確定申告の入力をポチポチしていたところ。


「お姉さま、ポストがぐっちゃぐちゃでしたわ〜」


 と、妹の梨沙が部屋に入ってきた。その言のとおり、大量の紙類で両手がいっぱいになっている。


「どうせゴミでしょ。下のチラシ捨てに入れてきちゃえばよかったのに」

「封筒みたいなのもありましたわ。寒いから下で仕分けたくなかったんですの」


 卓上にどちゃっと紙束をおいて、梨沙がコタツに脚を滑り込ませてきた。

 そう、なんか変な口調の妹がいるけど、ここは21世紀の日本であり、分譲マンションの中層階である。


 しゃあないな、と私もいったんノーパソを閉じて、ゴミの中に重要な手紙がまぎれ込んでいないかチェックする。


「……これって毎回ほんとうに燃えないゴミでいいのか一瞬考えちゃうのよね。捨てるけど」


 水道レスキュー!とやらの電話番号が書かれているマグネットをつまみあげて私がつぶやくと、


「チラシといっしょに捨ててしまった場合はどうなりますの?」


 と梨沙が小首をかしげた。紙としてリサイクルできないのはたしかだ。よし、考えるのやめよう。


 ……やっぱりほぼ全部ゴミで、割引クーポンつきのピザ屋のチラシが1枚保留されたけど、スマホアプリのクーポンのほうが安くなる(そして併用不可)のでけっきょく廃棄となった。

 人類は、いつになったら紙のチラシという悪習から卒業できるのであろうか。


 手紙は周回遅れの年頭挨拶状のハガキが数枚。唯一の封書は私宛てだった。

 証券会社のロゴが印刷された封筒だ。この時期に、証券会社から手紙が届く心当たりはない。


「ああ、これはきみのだね」


 封筒を差し出され、梨沙は小首をかしげる。


「……なんですの?」

「アマギフ」

「あ、はいはい!」


 怪訝げな顔を、一瞬で、にぱ〜っとしたものに変えて、梨沙は封筒を受け取ってさっそく口を切った。ギフトカードが3000円分出てくる。


「3000円ってことは50〜100位入賞か。今回はどうやったの?」

「スイングでちまちま増やしておいたのを、20日に全力Sですわ!」

「相場師だねえ」


 梨沙は女子高生であり自分ではまだ取引できないので、私の口座のFX(※2)デモトレード(※3)で遊んでいるのだ。

 バーチャル取引しかさせてないけど、やたらと相場感の鋭い娘である。


 これでデモトレードのランキングに入賞すること3回目、いままでは私が封筒を開けてから中身に気がついて渡していたから、封筒まるごと受け取るのは初めてだったか。


 即座にスマホにシリアルコードを打ち込んでギフトカードを自分のアカウントに充当してから、梨沙は横へ寄ってきて、私が開き直したノーパソの画面をのぞき込んだ。


「……あらぁ、お姉さま、去年はずいぶん利益が多かったのですわねえ?」

「もっと前に仕込んでたぶんの利確だから、去年の儲けってわけじゃないわよ。かならずしも売りたかったわけでもないし」


 再投資(※4)に回るお金なので、家計に還元はまだされない。きみのおこづかいが増えることもない。残念ながらね。


「それなら、どうして売ってしまったんですの?」

「理由はいくつかある(※5)けど、決定的なのは株主優待の廃止(※6)ね」


 日本三大優待株(命名私)の一角であったオリッ○スも、とうとう長らく続いていた株主優待ギフトをやめることになった。

 正確にいえば来年の3月権利日(※7)が最終で、まだあと2回もらえるんだけど、権利落ち(※8)でどれほど下がるかの予想がつかないし、買ってから5年目で非課税期間も切れる(※9)し、早めに手仕舞いしたのである。


 利益は出ていた株なので、踏ん切りとしてはちょうどよかったともいえる。


 これも時流の変化だ。優待投資の時代は終わったのかも(※10)しれない。


「お姉さま、優待関係ないのにアメリカ株もずいぶん売ってるじゃありませんの。MS○TとA○PLは見事に売り抜けてますわね」

「テック株(※11)は利上げに弱いからね。そのうちまた買うわ」

「……こっそりTW○Rでもひと儲けしてたんですのねお姉さま。堅実投資家ですって顔しながら、やることやってるじゃありませんの」

「いやあれは、裁判までいったら絶対に最初の言い値で買収しろってなったし」

「べつにイイワケしなくてもかまいませんわ。お姉さまがスケベなことは、とっくに存じていましたもの」


 妹の目ざとさに苦笑しながら、年間取引報告書から打ち込むべき数字を拾って確定申告の枠へ入力していく。


「そういえば、きみの予言は見事に当たったね」


 これは本当に感心して言ったのだが、梨沙はきょとんとした。


「……わたし、なにか予言とかしましたっけ?」

「NISA恒久化(※12)を的中させたじゃない」

「ああー……そんなこと言ったような、気もしますわね?」


 もう1年半ちょい経つからね。10代の若人からすれば記憶の彼方か。


「ま、利益を出せなきゃ非課税以前の話だから、そんな変わんないけど」

「あら? あんまり嬉しくなさそうですわね?」

「現行NISAとは無関係の新制度(※13)として、ゼロからのスタートだからね。私個人としては、現NISAが24年から5年再延長だったらありがたい部分もあったのよ」


 そもそも私が投資をやっているのは、現在一時的に離脱している自分の人生へ速やかな復帰をするためである。それには、あと5〜6年あれば足りると思っていたのだけど。


 あのとき私は社会人3年目で、もう実家を離れていた。予想だにしていなかった突然の不幸で、梨沙が唯一の肉親として残り、私に妹の親権者となる以外の選択はありえなかった。


 梨沙が大学を卒業したら、両親が遺してくれたこのマンションは譲って、私はまた家を出るつもりだ。家賃負担がないいまのうちに、積めるものは積んでおこうというのが私にとっての中期計画だった。


 このタイミングで無期限の新NISA開始がアナウンスされ、生涯とおしての再計画を練るには、ちょっと考え直さなければならないことが多い。


 いまは花のJKである梨沙が、お目々をきらきらとさせて野望を語り始めた。


「わたしも今年中には18歳になりますわ。無税でたっぷり稼いでやりますのよ!」

「ミーム株(※14)全力とかはリアルではやらないようにね。あとFXも絶対に全力でやっちゃ駄目だから」

「……お姉さま、わたしのことなんだと思ってますの?!」

「デスゲーム大好きロックンローラー」


 遠からずこのマンションからは出るけど、名義は私のままにしておこうかな。さすがに相場で作った借金のカタで取られたとかなったら、両親が化けて出てくる。


「やりませんわよ! とくにFXは非課税でもないし」

「わかってるならいいけど。株は信用(※15)とレバ(※16)禁にしとけば、そうそう死にゃしないわ。NISA枠しか使わないなら信用は関係ないからね。きみの名義のジュニアNISA(※17)が満期になったら、そのぶんは好きに投資に使っていいわよ」


 わたしがそういうと、梨沙はあまり面白くなさそうな顔をした。


「どうせ、詰めてあるのは全世界インデックス(※18)か全米インデックス(※19)ですわよね?」

「全米株式インデックスだね」

「去年けっこう値下がりした上に、今年もたぶん下がるやつですわよねえ……」

「ちゃんと継続して積立してあるから、まだまだプラス(※20)よ。今年また去年と同じくらい下がっても、赤にはならないから」

「ジュニニーの期限切れても、売らないでそのまま持っておくほうが良さそうな気がしますわ」

「ところが……そうはいかなくなっちゃったんだよねえ」

「……どういうことですの?」


 梨沙は目をぱちくりさせた。まさか自分もNISA変更の影響を受けるとは思っていなかったか。


「新NISAはね、ジュニアNISAからのロールオーバー(※21)もできなくなったのよ」

「それ……わたし損してません?」

「損とまでは言わないけど。得がちょっぴり減ったね」


 わたしがそういうと、梨沙はぷぅとほおを膨らませた。令嬢ロールプレイにはふさわしくない、フグというか頬袋満タンハムスターというか、かわいいんだけどね。


「くぅ……売るしかないなら仕方ありませんわ。そのお金を10倍に増やしてやりますの! 非課税で10倍!」

「ジュニアNISAのぶんはきみのお金だから好きにしていいけど、ほどほどにね」


 こいつなら本当にやるかもしれないと、心のすみでかすかに期待している私がいる。

 私自身はね、どうもせせこましくて踏み込んだ決断できないからね。


 話をしながら確定申告の入力は終わり、カチっとエンターキーを押した音で、梨沙がノーパソの画面に目を戻した。

 一瞬で数字の羅列から要点を読み出している。


「お姉さま、どうして還付金がないんですの? 外国所得税控除(※22)でお金が戻ってくるはずですわよね? なのに追加納税って……」


 ホント目ざとい娘だね!


 天の父よ母よ、あなたたちの娘は、どっちも丈夫にずぶとく育ったよ。


「FXの利益は口座から天引きされない(※23)から」

「お姉さま! わたしにはFXやるなって言っておいて、ご自分はちゃっかり!」

()()するなって言っただけじゃない。節度を持って(※24)やるぶんにはいいのよ」

「ちなみに、どの通貨で儲けたんですの?」

「ペソ」

「……ぺそ?」

「メキシコね」


 私の答えを受けてなお、梨沙の頭上には「?」が飛び交っていた。

 まあ、ミスったらその回は捨てゲーにするだけ、とにかく値動き激しいとこにツッコんで増やせばいいっていう、デモトレのランキング戦で使うには軽い通貨だから、意識したことがないだろう。


「お姉さまがFXでやらかして、芽吹ちゃん(※25)みたいにドナドナされる日がきたら、ハンカチ振って見送ってさしあげますわ」

「きみも気をつけなさいよ。大学デビューで胡散臭い投資話とかに乗せられないようにね」

「無税大正義、20.315%(※26)以上を支払う気なんてサラサラありませんわ!」


 拳を固めて高らかに叫ぶ梨沙の目には、特大のお星さまが踊っていた。

 きゅぴ〜ん!って音が聞こえてきそう。


 ……どうやら、いつの間にか、私より妹のほうがしっかりものになっていたようである。



    おしまい



※1:特定口座年間取引報告書とは、1年間の有価証券取引の損益を証券会社がまとめて、翌年1月に投資家へ交付してくれる書類です。

2019年4月以降、確定申告時に紙の書類として特定口座年間取引報告書を添付する必要がなくなったため、多くの証券会社で電子化されました。つまり税務当局は、申告するまでもなく我々の取引での稼ぎ(あるいは損失)をご存知なわけですね。だったら申告ナシで還付金くださいよ、と思わないでもありませんが。


※2:外国為替証拠金取引(Foreign eXchange)といえば、あぶく銭が飛び交い、昨日億ってた人が今日首括る(あるいは電車に飛び込んだりお風呂に沈む)なんてイメージがあるかもしれませんが、実際のところは深みにハマる前に「やってられっか!」とイヤになれると思います。

つぎの※3も合わせてお読みください。


※3:デモトレード機能はたいていの証券会社の取引ツールに付属しています。入賞商品にギフト券やお買物ポイントがもらえるランキング戦も開催されていますが、あくまでもこの作品はフィクションです。

そして、デモトレードでランキングに食い込むための全力取引を実践でやると、ワンパン(自分にミスがなくても市場の気まぐれで)リアル死することになります。覚えたい場合はデモからは入らず、実際に現金喪失して痛い目見たほうがいいと思います。たぶん続ける気はなくなるでしょう。


※4:株などの金融資産を換金したり、配当金や分配金をもらったときに、そのお金でまた投資を行うことを再投資と言います。


※5:いまさら述べるまでもないことですが、2022年にはさまざまなできごとがありました。……が、実際のところ、政策金利の上昇以外は、株式に対する明確な逆風というわけではありません。

あくまでもロクでもない「カネの亡者」の視点に限った話になりますが、戦争も高インフレも経済に対する悪要素ではあるけれども、現金、債券、株式の金融資産三大要素の中では、相対的に株式が一番()()なことになる場合が多いです。


※6:このシリーズの前作脚注でちょっと触れましたが、国内投資家限定の優遇である株主優待制度に対する風当たりは近年高まりつつあり、優待を廃止する企業も少しずつ増えてきました。

優待の廃止ぶんは配当金の上乗せに反映されるので、保有継続が損に直結するわけではありませんが、たいていの優待品や優待割引券はそもそも企業が展開している事業の一部であり、業績の多少の低下だけではなくならないものでした。配当金は業績しだいですぐに減ったりなくなってしまうことを考えれば、セーフティのひとつが失われたのはたしかでしょう。

クオカードみたいな「単に配当金500円増やせば良くない?」って感じの株主優待もありますし、そんなものは廃止してしかるべき(クオカードの券面に自社展開のキャラクターが描かれている、ある程度意義のあるものは除いて)ですけど。


※7:配当金や優待品を受け取るための判定日です。その日の取引終了時(現在の日本市場は15時で閉まります。延長が検討中です)に株を保有していれば権利アリ、それまで何年間保有していようが、権利日閉場前に売ってしまったら権利ナシです。

権利日は会社によって異なりますが、日本企業の場合決算の関係上3月と9月の末が多いです。配当金は年に2回権利日があることが多いですが、株主優待の権利日はほとんどの企業で年に1回だけです。お目当ての優待がある株の権利日はいつか、事前に調べておきましょう。

継続して3年以上株を保有している場合に限る、など、細かい条件がつけられていることもあります。


※8:権利日の翌営業日が権利落ち日です。たいていの場合株価が下落します。

権利日に買い落ち日に売るという単純な行動をした場合、得られる配当金よりも被る損失のほうが大きくなります。長い目で見て動く必要アリです。


※9:NISA制度の変更により、保有株式の非課税期間のあつかいが変わります。この先の項目で少しずつ説明していきます。


※10:差し引きでは株主優待を実施している企業は純減傾向にありますが、新設する会社もなくはありません。株主優待は個人投資家の楽しみのひとつである事実は、もうしばらくは変わらないと思います。

なお例に出したオ○ックスですが、配当金は増額傾向にあり、優待抜きでも投資価値を備えた企業であることは記しておきます。


※11:現在アメリカの産業を牽引している巨大テック企業は、リーマンショック以降の緩和的金融政策によって一層の躍進をしてきました。金利の上昇はこれらの企業に一定の制約を課すことになります。


※12:今回の主題である新NISA制度について軽く説明します。

2024年の年頭からスタートの予定で、これまで最大でも年間に120万円だった投資可能額が最大360万円に、長くても20年間(ただし年間投資可能額が40万円に減り、投資可能対象も限定)だった非課税期限が無制限となります。

相変わらず但し書きが多い制度ですが、現行のNISAに比べればかなりシンプルになりました。

現NISAも途中で制度に小変更が加えられていますし、新NISAもいずれは多少の手直しがあると予測されます。それどころか、開始前に現在公表されている内容から変わる可能性もあります(「やっぱや〜めた」だけはないと思いたいですが)。


ご利用を考えておいでのかたは、ご自分で情報収集を行い、情報更新を継続してください。あらゆる証券会社が解説記事を自社ウェブサイトに上げていますし、投資ブロガーもこぞって記事を書いています(私個人はブロガー非推奨派ですが)。

2020年代でたったひとつだけの国民に優しい政策(ここは断言)です。ほかはありとあらゆる面で国民の税・社会保障負担が増すばかりですから、せめて新NISA制度を活用して生活防衛の一助としましょう。


※13:2022年の前半くらいまでは、NISAは恒久化ではなく現行制度にわずかな変更を加えた上で、24年から5年間延長される予定でした。恒久化と引き換えに、現NISAには引導が渡されてしまったわけです。

別制度として新NISAが始まることで、現NISAの枠で保有している金融商品は、非課税期間が終わる前に売るか、非課税期間終了時の価格を新たな取得価格として課税口座に移行するか選択する必要があります。利益が出ていればよいのですが、損失を抱えている場合はちょっと困ることになります。

例えば、500円でNISA枠購入した株が350円になってしまった状態で期限を迎えた場合、損失を確定させずに課税口座に移行すると、350円で買ったあつかいになります。その株が数ヶ月(もしかすると数年)後に500円に戻ったとしても、150円ぶんは利益が出たとみなされ、プラマイゼロなのに税金を払わなければならなくなってしまうのです。それでも350円時点で諦めて売るよりはマシですが。下手すりゃより値下がりしていくこともあるわけで、判断は簡単ではありません。

現行NISAが再延長されることを想定して投資をしていた人の中には、この種の問題に悩まされるかたもいることでしょう。長い目で見れば、無期限となった新NISAの恩恵のほうが大きくなることではありますが。


※14:ミーム株ブームはすっかり去りました。前作の主役(?)であったA○Cの株価は、当時60ドル超に達したものの、2023年年初の現在4ドルほどです。

株はしばしば業績とは無関係の要因で急騰したり急落したりしますが、長くは続きません。


※15:信用取引とは、証券会社に担保として現金や株を預け、その額面の3倍少々までの取引ができるようになる制度です。また、空売りをするためには信用取引口座を開設する必要があります。

自己資力よりも規模の大きな取引をすることには危険が伴うのでオススメしませんが。

空売りについての簡単な説明は、このシリーズの前作の脚注で触れてあります。


※16:普通の株と同じように売買できる金融商品の中には、レバレッジ、梃子の原理が利いている仕組みのものがあります。信用取引に手を染めることなく2倍や3倍の値動きを得ることができるのですが、当然ながら狙いと反対方向にいってしまえばダメージも2倍3倍です。

さらに、細かい説明は省きますが「減価」という厄介な現象があり、成功しても実際に2倍3倍量の取引をしているときより少ない最終利益しか得ることができません。減価は時間経過とともに大きくなっていくので、非課税のNISA枠で長期保有するのにはとくに向かないのです。

なんでそんなもんがあるのかといえば、存在する理由も必要もあるにはあるのですが、長期投資前提の零細個人投資家の視点でお話をしているので詳しいことは割愛します。


※17:両親や祖父母の世代の人が、親族の未成年者の将来のために資産形成をするならば、非課税で補助をしようという趣旨の制度です。名義人はあくまでも未成年の被保護者になります。ジュニアNISAのあつかいも、NISAが新制度に変わるに当たって影響を受けることになりました(※21に関連する記述をします)。


※18:投資信託の一種で、世界各地の株式市場に上場されている企業の株を組み合わせた金融商品です。現在の世界の株の総価値の大半はアメリカの企業なので、オールアメリカとそのオマケという感じの構成であり、「全世界買うより全米のほうがいい」という意見もあります。

投資信託の中には債券を組み合わせているものや、原油や金といったコモディティ商品の証券を含んでいるものなど、さまざまなバリエーションがあります。原則として、要素が多ければ多いほど値動きが鈍くなります。値上がりしにくいけれど値下がりもしにくい、という特性の資産を持っておくことは安定に寄与します。

単に「全世界インデックス」というだけだと株式インデックスを指すとは限らないのですが、この話は株式を主眼に見ていきます。


※19:投資信託の一種で、アメリカの株式市場に上場されている企業の株を組み合わせた金融商品です。さらに絞り込みをかけていくと、ニュースでも読み上げられる株式市況の「S&P500」や「ナスダック」や「ニューヨークダウ平均」となります。それらをまとめたインデックス投信もあります。

当然、日本の株式全体や、いわゆる「日経平均」をあつかうインデックス投信もありますし、そのほかの国や地域をまとめた投信もあります。


※20:積立投資の強みはこれです。時間をかけて平均的に、浅く広くいろいろな株を含んだインデックス投資信託を積み上げることで、短期的な急落を吸収できます。

裏を返せば急騰の恩恵は得られないということでもありますが、チートを使って死に戻りでもしない限り、相場急上昇の直前をピンポイントで当てることはできないでしょう。


※21:現NISA制度で非課税期間が終了した株式などを、つぎの非課税期間の枠に移すことをロールオーバーと言います。引き続き非課税のまま保有できる代わりに、ロールオーバーしたぶんは新規取得枠から差し引かれるという仕組みでした。

現NISAは非課税期間5年、1年間に120万円まで買うことができるので、2018年に120万円で買っておいたいくつかの株が総額150万円になっていたとして、100万円ぶんは売却し、50万円ぶんを残してロールオーバーを選択した場合、2023年には70万円を新たに非課税あつかいで買うことができるというわけです。

現NISAは期限つきだったので、このような制度だったわけですが、24年開始の新NISAは無期限になりました。その代わり、現NISAで買っていた株などを非課税で持ち越すことができなくなってしまったのです。


もっとも大きな影響を受けるのがジュニアNISAの名義人です。現NISAの制度では、成人と同時に通常NISA口座が開設され、ジュニアNISA時代に買っておいた株式や金融商品は、売却しなかった場合、そのままNISA口座へロールオーバーが可能となっていました。

成人年齢の18歳への引き下げとの複合作用で、2023年や24年、25年に18歳を迎えるジュニアNISAの名義人は、制度変更の谷間にハマって、ちょっぴりだけ損することになってしまいました。

もっと早く生まれたジュニアNISA名義人はすでに通常NISAへロールオーバーできているし、もっと遅い生まれの場合は後述する早期ロックダウン解除の恩恵を受けられるので。

経過措置として、名義人が20歳になるまでの2年間は、継続管理勘定という非課税あつかいのまま保持できます。ですが、現制度のままであれば最低5年間あった猶予が半分以下になってしまったことは事実です。


ここからが本題ですが、いまのところジュニアNISA制度を利用しておらず、18歳を迎えるまでに年数がかかる10歳未満のお子さんがいらっしゃるかたは、今年2023年にジュニアNISAを駆け込み開設するのがひとつの選択肢になりうることをお知らせいたします。

新NISA移行にともないジュニアNISAは廃止され、今年が最終年限です。

これまでのジュニアNISAは名義人が成人するまで売却禁止でした。2024年以降は、名義人の年齢に関係なく、いつでも売却することができます。

例えば、現在8歳のお子さんがいらして、大学入学にそなえて10年間定期預金に回しておこうとお考えのまとまったお金があるなら、そのぶんのいくらかをジュニアNISA枠で運用しておくのは定期預金よりは期待値が高くなります。

ジュニアNISAの年間買付額上限は80万円で、購入可能なのは今年23年のうちだけです。24年以降は非課税ですが追加で買うことはできません。

ここで「10歳未満の」と書いているのは、今後の株式市場に波乱が予想されるからです。仮に現在16歳のお子さんの名義で23年にジュニアNISAを開設した場合、損失が確定的な状況で非課税保有の期限が切れてしまうおそれがあります。

したがって、最低5年、できれば10年は余裕のある年齢のお子さんがいらっしゃるかたへの提案となります。

当然ながら、24年以降の早期に利益が出た場合、18歳を待たずに売却するのも選択肢となります。


注意点として、ジュニアNISAで購入可能な金融商品は幅が広く、下がる可能性のほうが高い株でも買えてしまうということを挙げておきます。

もし投資を実行するのであれば、個別企業の株や手数料の高い金融商品は避け、つみたてNISAで利用可能な投資信託を中心にご検討ください。

これはジュニアNISAに限らず、通常のNISAにも言えることです。


※22:外国株式から配当金を得ていたなら、確定申告をすることで配当金の外国所得税ぶんを還付してもらえる可能性が高いです。


※23:NISAの枠外であっても、株や債券の取引は「特定口座」を利用することで住民税や所得税を自動計算してくれます。ですが税金を自動で計算してもらえない取引もあり、FXはそのひとつです。

どうせ確定申告するなら税金の支払いはできるだけあと回しにしようと、源泉徴収のない「一般口座」を使う流儀の人もいます。ただ、入力項目が増えて確定申告時の面倒臭さが増します。


※24:外貨預金や外国貨幣との直接両替に比べると、手数料がほぼかからないのがFXの利点です。レバレッジをかけたくなる誘惑さえ振り払えるなら、手数料ぶんお得になります。


※25:FXマンガの金字塔『FX戦士くるみちゃん』の登場人物です。FXにおける典型的死亡フラグを見事に回収してくれる、おいしいキャラとなっています。

『くるみちゃん』は原作当時のリアル為替レートで展開していますが、現在の為替市場は凶暴さを増しています。いまなら3倍早く死ねるので全力取引はマジでやめましょう。微損を取り返そうと、倍々で賭け金を増やしてしまって、いつのまにか莫大な損失になっている、というのがよくある死亡パターンなので、始めたときに余裕を持っていればそれでよし、というわけではありません。


※26:株や債券の取引益にかかる現在の税率です。NISAを活用すれば無税となります。

たとえポンジスキームに乗って勝ち組のまま逃げ切ったとしても、税金は支払わなければなりませんし、雑所得あつかいになるので税率も非常に高くなります。詐欺ではありませんが、仮想通貨やNFTで稼いだ場合も雑所得です。なんだかんだで株相場で儲けるのが、税制的には優遇されるのです。

新NISA制度と引き換えに、今後増税の議論が始まる可能性はけっこう高いと作者は予想しています。

新NISAは専業ではない個人投資家にとって充分手厚い制度になっていますから、相場だけで食っているひとつまみの人以外はたとえ増税があっても悪影響を受けません。…新NISA制度そのものが改悪されなければ、ですが。



本編より長い蛇足の最後に


当コンテンツはだいたいフィクションであり、投資の勧誘、推奨をするものではありません。金融取引には元本を毀損するリスクがあります。投資の検討、選択、決定は各自の自己判断と自己責任でお願いいたします。

(とはいえ一切の投資行動をせずに、全財産を預貯金なりタンス預金にしていたならば、それは「日本円へのレバレッジ1倍全力投資」にほぼ等しいのだということは、あえて記しておきます)


※追記:実際に作者が22年ぶんの確定申告を入力したさいに、曖昧だったり不正確な書きかたになっていた部分が数ヶ所あることに気がついて修正しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ