表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
三回目の少年院
98/117

三回目の鑑別所

 

 三回目の鑑別所生活は、なんだか余裕を通り越して懐かしい感じすらした。

 まるで別荘に遊びに来たような感覚になった。


 鑑別所の課題なんて少年院に比べたら簡単過ぎてすぐに書けてしまう……。

 だが最初の個室生活だけはしんどいので、早く集団部屋に移りたかった……。

 今回もどうせ少年院行きだろうが、前回の強盗の時よりは出れる可能性があったので課題は真面目にやった。

 捕まるまで真面目にやっていた通信制高校だけが、もったいなくて仕方がなかった。

 でも通信制高校に歳は関係ないので後一年で大検が取れる以上、また出たら通うつもりでいた。


 鑑別所の先生が、例の青ギャングの逮捕のせいで上尾人だらけだとぼやいていた。


 いつも通り、一週間しない内に二人部屋に移動になった……。

 一緒の部屋になった人は一つ年上の人で、赤城少年院と多摩少年院に入っていた人だった。

 彼は小田原少年院に行きたいと言っていた。



 もつと風呂で一緒になり、どういうわけか一緒に湯船に入ったので、先生に見えないように水の中で蹴っ飛ばしてやった。

 もちろんギャグなので軽く蹴った。


 その後、図書室でももつと一緒になった。

 もつが俺にこっそり

「自分、赤城少年院です!」

 と言って来たので俺は

「俺は久里浜だよ!」

 と適当に言っといた。

 まあ三回目だし、実際に久里浜少年院に行く可能性がない事もなかった……。


 

 一週間くらいして部屋が変わり、また二人部屋だった。

 今度は二つ年上の人で、ギリギリ十九才で鑑別所に入り、もうすぐ二十歳になると言っていた。

 この人は赤城少年院と茨城農芸学院に入っていたらしく、今回は車窃盗で捕まったと言っていた。

 調査官から大人として裁判を受けて執行猶予で出るか、少年として審判を受けて久里浜少年院に行くかの二拓を迫られたらしく、大いに彼は悩んでいた。

 俺にも相談してきたので、俺は

「大人として裁判を受けたら前科が残るので久里浜に行った方がいいですよ」

 と他人事なので、超適当に言っといた。

 実際は、今後真面目にやっていく決意があるなら執行猶予で出た方がいいに決まっていた。

 真面目にやる気がないなら、本当に久里浜少年院に行った方がいいのかもしれないが、その二択で久里浜少年院を選ぶ人間はほとんどいないと思った……。


 俺自身は、なんとなく八街少年院に送致されるような気がしていた。

 小田原少年院に行きたかったが、兄が行ってたし、なんとなく小田原少年院には行かない気がしてならなかったのだ……。

 少年院の事を考えると憂鬱だった。

 またあのホームルームやら上級生との上下関係、階級が下の頃はきついのが分かっていたので、考えたくなかった……。


 しばらくしてまた部屋が変わり、三人部屋に移された。

 すでに二人入っていて、一人は留置場で一緒だった大宮の一個下の男だった。

 もう一人は同じ歳の男だった。

 かなりのイケメンで、俺の地元のイケメンの高先輩を少しチャラくしたような男だった……。

 有名な雑誌の読者モデルの彼女がいるらしく、別れたくないからと一生懸命手紙を書いていた。

 それを見て俺も優香に手紙を出そうか迷ったが、付き合ってるわけでもないのに一年も待たせるのは可哀想なのでやめた。

 優香の住所は分からなかったが、後輩の俵の住所は分かるので出そうと思えば出せたが……。


 イケメンの彼は、鑑別所が三回目だが少年院に入った

 事がないというので驚いた。

 つまり、二回も鑑別所で出れたという事になる。

 俺なんて一回も鑑別所で出れた事がないのでズルいと思った。

 俺が出れるはずだった一回をこの男に取られたんじゃないかと、訳の分からない事を考えた。

 実際、そんな話は聞いた事がなかったから興味を持ったので詳しく聞いてみた。

 一回目は普通に出れたらしいのだが、二回目は彼の父親が裁判官に必死で頼みこんでなんとか出してもらったとの事だった。

 話を聞いていると、どうやら俺が原付バイクを盗んだ時の滑舌の悪い裁判官だったようだ……。

 俺はこの話を聞いて、嘘ではないと思ったのとこの人は運がいいなって思った。

 なぜなら、親がどんなに頼んでも裁判官によってはそんなの通用しないと思ったからだ……。

 逆に言えば、やはり俺は運が悪かったとも言える……。

 裁判官によって……、いやそれを言ったら同じ少年院でも内容が全然違う……。

 前回、喜連川少年院ではなく多摩少年院だったらもっと早く出れたかもしれない……。

 そんなものは人生、どこに行ったってついてくるものなのだ。

 要は運、不運は己次第というわけだ……。


「でも今回はさすがに出れないんじゃないの?」

 と聞くと

「うん!だからやってないって今回は嘘ついちゃった」

 イケメンの彼がニッコリ笑ってそう言ってきたので、うっかり騙されそうになったが、俺は騙せても事件の内容は知らないけど、今回は無理だと俺は思った。

 彼がどうなるのか知りたくて仕方ながなかった……。


 イケメンの彼は東大宮が地元だというので

「小堀さん知ってる?」

 と聞いたら

「ああ、小堀ね!知ってるよ!」

 俺はこの時に気付いた。

 歳は同じだが彼は学年が一個上である事に……。

 なので俺は

「マジですか?知り合いですか?」

 と、ここから急に敬語を使った。

 これにはイケメンの彼はもちろん、大宮の一個下の男も驚いて顔を上げた。

 二人に何も説明してないので、もしかしたら小堀さんにビビって敬語を使ったと思われたかもしれないが、単純に同じ歳だと勘違いしていただけだったので悪い事をしたと思った……。



 母だけが面会に来た。

 父は仕事が忙しくてこの日は来なかったが、審判の時は来るとの事だった。

 車の弁償に二百万くらいかかったと母が言ってきた。

 モヒカンのもつの親は、うちの子はぶつけてないからと一円も出さなかったらしい……。

 何があったか知らないが、エバはズルい子だと母が言ってきた。

 シャネルのサングラスも見つからないので、うちが弁償したらしい……。

 俺はエバが持っていったのでエバに弁償させればいいと言っといたがきっと無意味だろう……。

 相変わらず、うちの親はどこまで真面目なんだと思った。

 うちが全て弁償しなくてもいいのにと思った……。

 俺はこうなる事が分かっていたから、もう乗りたくなかったのだ。

 またも多額の金を払わせて申し訳ない事をしたと思った……。




 審判の日、また両親の間に座って審判が始まった……。

 この時の裁判官は、三十代後半から四十代と見られる若めの男だった。

 裁判官は事実内容を淡々と話し、あまり質問はしてこなかった。

 俺はそれを聞きながら、この裁判官か前回の裁判官なら一回目はきっと出れたと思った。

 やはり一回目は運が悪かったんだと思った……。


 毎回、審判の度に言われた事があった。

 それは

「あなたはIQが高いのにもったいない……」

 という台詞だった……。

 俺は勉強は

「そこそこ」

 出来たが、自分を天才だと思った事はなかった。

 そもそも、頭が良かったらこんなに何回も捕まったりはしないだろう……。

 今回のIQテストの結果は138だと言われた。

 具体的な数字を言われたのは初めてだったので、俺はそれが高いのか低いのかよく分からなかった。

 その俺の表情を読み取ってか、裁判官が

「真面目に頑張っていれば大学の助教授になれたレベルなのに……」

 と言ってきた。

 俺は、真面目にやってきてないし、今さらそんな事を言われてもと思ったのと、教授にはなれないんかい!

 と思った……。


 一通り終わると裁判官が

「何か最後に言いたい事はありますか?」

 と聞いてきたので

「自分は、二回の少年院生活でしっかり勉強してほぼ更正したのに、地元にいると色々な誘惑があって結局駄目でした」

 みたいな事を言った。


 裁判官は少しだけ考えてから

「お父さん、お母さん、彼が地元以外で生活出来る場所はありますか?」

 俺はこれを聞いた時に真っ先に種子島を思い浮かべ、次に親戚の家をいくつか思い浮かべた。

 そして、もしかしたら出れるんじゃないかと少しだけ期待してしまった。


 だが、父と母は何も答えなかった為、裁判官が

「そうですか……では彼には中等少年院に行って勉強してきてもらいます」

 と言われた。


 こればっかりは何回言われても慣れないようで、俺は頭の中が真っ白になってショックを受けた……。

 こうして俺は三度目の少年院行きが確定した……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ