五年ぶりの再会
この頃、やたらと名前の売れている上尾南高校の一年生がいた……。
元宮原中学だと聞き、俺が宮原中に乗り込んだ時にジュースをおごってもらった一年生と同じ学年なので、まさかな!
って思った……。
以前の俺なら会いに行ったかもしれないが、この時の俺にはあまり興味が持てなかった……。
大検の勉強の為に一旦バイトをやめた…。
あと一科目受かればいいだけなのだが、一応保険の為に地学と化学の二科目を受ける事に決めた……。
バイト代でポケットベルだけ持った。
携帯電話やPHSはほとんどみんな持っていたので、俺はポケットベルだけ持っていれば充分だった。
それに大検の勉強するのに携帯電話やPHSは邪魔になると考えたからだ……。
だがまだバイトをやめるのは早かったと思われた。
通信制高校の勉強は習慣づいていたので、ちゃんとやっていたが、大検の勉強はしないで遊ぶようになった……。
同じ歳連中の話にも大分ついていけるようになっていた……。
秋森と焼きそば頭と遊んでいる時の事だった。
俺の原付バイクで秋森と二人乗りしていて、後ろに乗っている俺が荷台の上に立ってふざけていた。
秋森がゆっくり走っていたので、しばらくは平気だったが、俺はバランスを崩してしまった。
やばい!
落ちる!
落ちる瞬間、秋森のロン毛を掴んだ。
「イテッ!」
髪を思いっきり引っ張られた秋森が声を発した。
このまま秋森の髪の毛を掴み続けると事故ってしまうので、仕方なく俺は秋森の髪の毛を離した。
バランスを崩した俺は、腹から落ちてアスファルトに叩き付けられた。
「んぉ…………」
呼吸困難に陥ってめちゃくちゃ苦しかった……。
やべえ……。
焼きそば頭と秋森が近寄ってきて
「大丈夫か?」
と言ってきたので俺は
「……お……れは……もう……だめ……だ……」
となんとか返した。
すると焼きそば頭が
「しゃべれるなら大丈夫だな!」
と言ってきたので、全然大丈夫じゃねえよ……。
この野郎!
後で覚えとけよ!
と思ったが、だんだん治ってきた。
少年院で腹筋を鍛えまくってきて本当によかったと思った。
その後、コンビニにいたらハイエースがやってきた。
運転席から降りてきた男は、パーマをかけたロン毛に髭を生やしたおっさんだった。
なんだ?
このおっさんは?
と思ってたら
「三頭脳君、久しぶり!」
と言ってきた。
俺はこんなおっさん、知り合いじゃないぞ!
と思った。
おっさんの正体は、元西中の頭の銀林だった……。
中学一年生の時以来だから、実に五年ぶりの再会だった。
銀林ならおっさんになっててもかまわなかった。
というか、むしろこれくらい老けててくれないと困ると思った。
なんせ、中学一年生の時にすで高校生にしか見えなかったので、もし若返ってでもしたら時の流れに反する事になるからだ……。
銀林は見た目は老けていたが、腰の低い性格だったのですぐに仲良くなれた……。
その日の深夜、タリ達と合流して十人くらいになった。
秋森が
「平日の深夜に何でこんなに沢山いるの?」
ってツボに入って笑っていたが、俺にはよく分からなかった……。
俺の住む団地内をみんなで歩いていると、タリがなぜか大量の笛ロケット花火を持っていて
「これで交番を襲撃しようぜ!」
と言い出した。
団地内の交番の二十メートルくらい離れた辺りから、俺以外が一斉にロケット花火を打ち込んだ。
俺はこんなくだらない事で捕まって少年院に戻りたくなかったので参加しなかった。
警察が一人、交番の外に出てきたがみんなかまわず打ち込み続けた。
特にタリは、よっぽど足に自信があるのか、十メートル近くまで行って打ち込んでいた。
以前の俺なら、タリに張り合ってもっと近付いて捕まるような馬鹿だったが、この時は見てるだけで充分だった……。
結局、警察が追いかけてくる事はなかった……。
次の日、上尾の駅前を歩いているとイカつい顔の竜が道端に座っていたので声をかけた。
「よう!何してんの?」
「…………」
竜は機嫌悪そうに手を横に振っただけで答えなかった。
竜とは長い付き合いだが、こんな態度を取られたのは初めてだったのでムカついたが、放っといてその場を離れた……。
その日の夕方、久しぶりに親友エバと会い、たまには酒でも飲むか!
って話になって、サラミやらのツマミを二、三品買って団地内のグラウンドの近くのテーブルで二人で飲み始めた。
未成年だし、あまり酒を飲まないので三百五十ミリ缶の半分くらい飲んだだけで大分酔っ払ってきた。
そういえば!
と昼間の竜の態度を思い出して、エバに相談した。
すると、エバは
「そういうのは、はっきりさせた方がいいぞ!電話してやるから話せ!」
とエバが竜に電話し出した。
エバも少し酔っている様子だった。
二人とも携帯電話を持っていたのだ……。
竜が電話に出たので俺が変わった。
「もしもし」
と電話越しに普通に言っている竜の声を聞いたらなぜか怒りが爆発して
「おい!おまえ!今すぐ、一グラ(俺らがいる団地内のグラウンドの事)に来いよ!」
とぶちギレて電話を切った。
エバは、おいおい……って顔をしていた。
竜は近くにいたみたいで、十分もしない内に秋森と一緒に現れた。
竜が着くなり、俺は近寄って
「おい!おまえ、昼間の態度は何なんだよ!上等だよ、この野郎!かかってこいよ!」
と喧嘩を売った。
秋森は訳が分からず、キョトンとしていた。
「ちょっと待て!落ち着け!」
とエバが間に割って入ってきた。
竜も納得いかないような顔をしているように見えたので
「おい!おまえも納得いかねえんだろ!面倒臭いから、やろうぜ(喧嘩を)!」
「落ち着け!って言ってんだろ!」
エバが竜を少し離れた所に連れて行ったので、俺と秋森は無言で立ち尽くした。
数秒後、エバが少し離れた所から
「おーい!ただパチンコでかなり負けたから機嫌が悪かっただけらしいぞ!」
俺はそれを聞いて、え?
って思った。
そうなの?
パチンコなんかやらないが、そりゃ機嫌悪くなるわな!
って思った。
この無駄な怒りをどうしよう……と思った。
俺は考えたが素直に
「ごめん、俺が勘違いした」
と竜に謝った。
竜は
「俺も悪かったよ、俺ら一緒に強盗した共犯じゃないか!」
と言われ、俺はハッとした。
そうだ!
こいつは俺がイカれてた時代に、俺についてきた挙げ句、俺のせいで捕まったのに文句一つ言わず、今も仲良くしてくれてる大切な仲間だった。
俺はなんて事をしてしまったんだと思った。
酒を飲んでた事もあってか、涙が溢れて止まらなかった……。
竜と秋森は去っていった……。
エバに
「飲み直そうぜ!」
と言われて俺は頷いて元いたテーブルに戻った。
すると、酒はそのまま残っていたが、つまみは三種類とも誰かに盗まれてなくなっていた。
どういう事だよ!
ってムカついたが、ムカつきよりも面白くてエバと二人で笑ってしまった。
未だにつまみだけどこにいったのか、謎のままである……。