ぜんぜん変わってない
その日は上尾市内のるーぱんで、今町と二人でご飯を食べていた……。
俺は上下とも今町に借りた服を着ていた。
俺は
「そういえばさあ、黄色って最近会った?」
と聞くと
「ああ、黄色なら連絡先知ってるからかけてあげおっか?」
この頃はPHSという携帯電話とは似て非なる物が流行っており、俺は持った事がないので今いちその違いが分からなかったが、携帯電話より性能は悪いが料金は安いとの事だった……。
「頼むよ!」
PHSは建物内だと電波が悪くて繋がらないらしく、俺らは一旦外に出た。
この店は前払い制なので、店員に伝えれば二人で出ても問題はなかった。
あれからもう一年半以上経ってる……。
黄色は元気だろうか?
そう思っていると、黄色が電話に出たらしく、今町が話し出した。
俺が出てきた事を今町が伝えた。
すると今町が俺に
「すごく喜んでるよ!変わる?」
と言ってきたので電話を変わった。
黄色は電話では全然変わった様子はなく、相変わらず俺好みの声だった。
長電話は今町に悪いと思って、近々会う約束だけして電話を切った。
電話を終え、再び店内で今町と話していると、何やら悪そうな人達が十人くらい店に入ってきた。
あの巨漢は……仁村先輩だった。
他にもマッチョの坂上先輩、おしゃべり好きの山先輩達がいた。
坂上先輩は坊主だったが、仁村先輩も山先輩もロン毛だった……。
俺らは入口付近の席にいたので、このままではすぐ見つかってしまう……。
会いたくなかったので顔を背けた……。
なんとか気付かれずに通り過ぎたと思って顔を戻したら
「三頭脳じゃねえか?」
と誰かが声を掛けてきた。
一番会いたくなかった元太平中の大島だった。
傍らにはイカつい顔の竜がいたので、そっちは合いたかったので嬉しかった。
竜はなぜかドレッドヘアーだった。
「おお!」
と俺は大島にわざとらしく言った。
見つかってしまった以上、仕方ないので今町は帰して、先輩達に挨拶しに行った。
みんな、俺が出て来ていた事はなぜか知っていて、あまり驚かなかった。
山先輩に
「秋森もいるぞ!」
と言われて、見てみたら確かに秋森がいた。
あの俺のテトリスの弟子でクリボーが困ったような顔をしていた秋森だった。
相変わらず困ったような顔をしていたが、身長がかなり伸びてロン毛でクリボーっぽくはなくなっていた……。
俺は秋森に
「いつの間にグレたんだよ?」
と冗談っぽく聞いた。
てっきり
「別にグレてないよ!」
って返してくるかと思いきや
「俺も色々あってさ……」
とまさかの肯定してきたので、俺はかなり驚いた。
え?
あんなに真面目だった奴がどうしたの?
って思った。
確か
「そこそこ」
いい高校に行ったはず……。
俺はこの男の言う
「色々」
がとても知りたかった……。
大島に呼ばれて四人席に座った。
大島の横には竜が座り、俺の横には知らない男が座った。
その男は上尾市の二つ隣の北本市の一つ年下で中田と名乗って来た。
「お噂はかねがね聞いてます」
と礼儀正しい男だった。
今町やエバからも聞いてはいたが、俺はモンキースパナ事件のせいで名前だけ独り歩きして、かなり有名になっていた……。
以前の俺なら喜んだだろうが、すっかり喜連川少年院で更正?
してしまった俺には邪魔な産物以外の何物でもなかった……。
竜はスパナ事件の審判で、保護観察処分で出れたらしいが、半年以上、親戚の家に行っていたらしく、その間はいなかったらしい……。
大島が三田って奴を知らないか聞いてきた。
少年院に入った事のない人間は、関東に沢山少年院がある事を知らないので軽い気持ちで聞いて来たのだろう……。
でもまさかの俺が喜連川少年院で、十日間教えた院生だったので驚いた。
捕まる前までツルんでいたらしく、上尾市と北本市の間の桶川市の人間だという……。
院内では真面目そうに見えたが傷害致死で捕まったと聞いて、人は見かけじゃ分からないなって思った。
じゃあ、きっと向こうは俺の事を知っていたんだろうなって思い、世間て狭いなとも思った……。
大島いわく、うちらの同じ歳は今真っ二つに割れてる状態だから力を貸して欲しいと言ってきた。
あっち側には元西中生全員と焼きそば頭にフスマとか……、聞いてたら真っ二つというより、ほとんど敵じゃねえかって思った。
金を用意するとまで言われたが、俺は大島が嫌いだし、基本的に今は誰とも関わりたくなかったので断った。
飯を食い終わり、外に出るとCBXが停まっていた。
それは俺が中学生の頃からもっとも欲しかったバイクだった。
よりによって持ち主は大島だった。
他にもスティードやらバイクが数台、先輩達はエスティマやグロリアに乗っており、俺だけ原付バイクなのが、なんだか恥ずかしかった。
一応、秋森、大島、竜の連絡先だけ聞いて俺は自宅へと帰った……。
黄色に会うのに俺は今町ではなく、秋森を誘った。
理由は単純に秋森が何でグレたのか知りたかったからだ。
黄色と会う前日にそれを今町に伝えると
「悪いけど服を返してくれないか!」
と言ってきたので
「あと一日だけ貸してくれよ」
と言ったが
「それ、元カノからのプレゼントだからさ」
と言われ、だったら最初から貸すなよ!
って思ったが、渋々返した。
上下赤のナイロン生地のは派手過ぎるし、仕方なく同じ中学だった別の同級生に連絡して服を借りた。
貸してくれたが、サイズが大きい上にあまりカッコよくなかったが、それでも俺が持ってる服よりマシだったので借りた。
当日、るーぱんで待ち合わせた。
俺と秋森は、俺の原付バイクで二人乗りして来た。
黄色より先に着いたので、秋森に何でグレたのか聞こうとしたら
「俺、レベルの低い女と一緒にいる所、知り合いに見られたくないんだよね」
と言い出したので、何だこいつ!
と思った。
それに遠回しに俺に喧嘩売ってないか?
と思ったが、付き合ってもらってる上に今揉めるのは得策ではないので我慢した……。
少しして黄色と黄色の友達がやって来た。
高校の友達らしく、俺の知らない子だった。
黄色はギャル化していなかったので安心したが、痩せて大人っぽくなっていた。
秋森と言い、俺だけが時間が止まっているように感じた。
四人で普通に話したが、黄色の友達がよく話す子だったので助かった。
でも途中で黄色に
「全然変わってないじゃん!」
って言われたのがすごくショックで傷付いた。
そう、変わっているはずなんてないのだ……。
一年半も隔離された場所にいたのだから……。
健康的な生活をしていたせいか、俺だけ異様に若く見えたし……。
それは実際はいい事なんだけど、この時期は変に大人に憧れみたいのがあったのかもしれない……。
黄色は変わってしまっていて、ついていけないと思った……。
それから何度かたまに電話したけど、距離を縮める事は出来なかった……。
もしかしたら彼氏がいたのかもしれない……。
分からないが、俺は違う道を進む事に決めて連絡するのをやめた……。