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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
二回目の少年院を出て
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空の財布

 

 流行りの服を手に入れた俺は、喜連川少年院で連絡先を交換した松山と連絡を取った。

 松山とは簡単に連絡が取れて松山の地元で会う約束をした。

 松山は俺と同じ歳だった。

 松山の地元は東京都内の亀戸だったので、亀戸駅で待ち合わせをした。

 俺は上下赤のナイロン生地の服で行くと伝えておいたので、目立ったからか、すぐに声を掛けてきた。

 松山は少年院にいた時の不気味な雰囲気から一転して、爽やか青年みたいになっていたので驚いた。

 そういう俺も、眼鏡からコンタクトレンズになっていたので、別人みたいだと言われた……。


 松山の他に、喜連川少年院で一緒だった院生が二人もいたから驚いた。

 一人は岸という同じく俺と同じ歳の元五学寮生だったが、出院準備寮の六学寮で俺と三ヶ月間一緒だったので知っていた。

 松山の友達で、松山とは別件で喜連川少年院に入っていたらしかった。


 もう一人は俺や松山と同じ四学寮の人で、歳は俺の一個上の人だった。

 相撲のトーナメントで準優勝した体格のいい人で、みんなからも一目置かれていた。

 だが喜連川少年院に入った理由が、喧嘩した相手をナイフで十三ヶ所刺したと聞き、モンキースパナで人を殴った俺も、今日限りでこの人とは今後関わりたくないと思った。

 十三ヶ所も刺してよく死ななかったな、と思ったのと、この人ならナイフなんか使わなくても余裕で勝てたのではないかと思った……。

 オールバックで後ろ髪の毛先だけ金髪にしていてカッコよかった。

 この人も都内に住んでいるらしく、松山とは知り合いを通してお互いの存在に気付いたようだった。


 あともう一人松山の後輩がいて、赤城少年院に入っていたというので、俺達五人は亀戸の駅前で

「少年院ごっこ」

 と称して行動訓練をした。

 みんな見ていたが、俺は地元ではなかったので、全然余裕だった。

 

 その後、松山の後輩だけ置いて、四人でご飯を食べながら少年院時代を語り合った。

 食べ終わると一個上の人は地元に帰っていった……。


 夕方付近にコンビニに行くと、松山がレジに五百円分くらいの品物を置いて俺に奢ってくれと言ってきた。

 親から小遣いをもらって一万円近く持っていたので、別に奢ってもよかったが、松山の態度がムカついたので

 「財布を見せてみろよ!」

 と言うと松山は素直に財布を俺に渡してきた。

 財布は金どころかカード一つ入ってない本当に空の財布だった。

 後で返すからと言う松山の言葉が信じられなかったので、その財布を担保に預かった。


 その後、三人で歩いていたら突然ヤンキーチックな五人組に絡まれた。

 松山の地元だし、松山達がやる気なら俺もやってもいいと思った。

 少年院で一年以上鍛えてきた俺らなら五人でも勝てると思ったからだ。

 ところが松山達はやる気がないどころか、的にされてるのは俺だけだった。

 なので、もしかしたら全員グルかもしれないと疑った……。

 少し太った奴に何発も殴られたが、全く痛くなかった。

 その気になれば、こいつは余裕で勝てると思った。

 「財布を出せ!」

 と言われたので松山から取り上げた財布を渡した。

 そっちにみんなが注目している間に本当の財布はズボンとパンツの間に挟んだ。

 誰にもバレなかった。

 ポケットを触られたが財布は出てこないので、結局諦めて五人組は去っていった。

 去った後、松山が

 「くそ!敬語使っちまったぜ!」

 と本気で言っていたっぽいのでグルかどうかは微妙だった。

 どっちにしろ、松山の財布のおかげで助かった事は事実なのでコンビニの代金はチャラにして、財布を松山に返した。

 松山の財布がなかったら、俺はどうなっていたか分からない。

 金がなくなったら帰れなくなるので、素直に渡すつもりはなかった。

 グルじゃなかったらなんとかなっていたかもしれないが、グルだったら俺はやられていただろう……。

 

 その後、松山は帰ったが、岸が駅まで見送ると言ってついてきてくれた。

 俺は何を考えているか今いちよく分からない松山よりも、さっぱりした性格の岸の方が気があった。

 

 駅に向かいがてら、ナイフで十三ヶ所刺したってのはすごいな、って思い出して、兄はシンナーと窃盗だったしと思い、何の気なしに岸に

 「覚醒剤ならともかくシンナーで少年に入る奴はダサくない?」

 と言ったら

 「…………仕方ねえじゃねえか……暇だったんだよ……」

 と恥ずかしそうに言ったので

 「え?あ、ごめん!」

 すごく気まずい雰囲気が流れた……。

 まさか岸がシンナーで捕まったとは思わなかった……。

 

 

 しばらく黙って歩いていると十メートル先くらいにコギャルが歩いていて、車に乗った男にナンパされていた。

 その子は

 「うるせんだよ!消えろ!キモいんだよ!」

 とぶちキレて追い返していた。

 俺はコギャルこわっ!

 って思った。

 すると岸が

 「あれ?あの子知ってる子だよ、声かけてみよっか?」

 と言い出したので、俺は面白そうだから

 「頼むよ!」

 って言ってみた。

 俺らは小走りで追いかけて岸が

 「ねえ!きみって◯◯の△△だよね?俺、□□の友達の岸なんだけど!」

 と言うと

 「あっ!知ってます!」

 

 「さっき車の奴にキレてなかった?」


 「やだ!見てたんですかあ?」

 とさっきとは別人のような態度になった。

 岸が俺に

 「どうする?この子んち行く?」

 と俺に聞いてきたのはいいけど、ちょっと話するとか遊ぶとかなら分かるけど、なんでこの子んちに行く前提になってんだよ……さすがにそれはおかしいだろ?

 って思っていたら、その子が俺に顔を近付けてきて

 「……来ますか?」

 と言って来た。

 瞬時に物凄く考えたが、出てきたばっかの俺と遊んでもつまらないだろうと思って

 「いや、帰らなくちゃいけないからやめとくよ!」

 と俺が言った為にその子は帰っていった。

 なんだかもったいない気もしたけど、一年半も女のいない生活をしていたので、コギャルと楽しく話せる自信がなかったのだ……。

 それに比べて岸はすげえな!

 って思った……。

 

 岸に見送られて俺は地元の上尾に戻った……。

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